第1章恋猫(5)
12月1日
2カ月前、歓喜に沸いた人事部の会議室が、この日は一日中、岩が降っているような惨劇が繰り広げられていた。
外部調査で指摘を受けた職員達の精査をした結果、今年度末での解雇が決定した者達に、その旨の伝達が行われたのだ。
常慈をはじめ、ねこ愛と藤堂を含めた理事が一堂に会し、一人一人に説明がなされた。
終了後、役員が解散していく中、ねこ愛は悲しみの涙を堪えきれず座り込んだまま立ち上がれずにいた。どの職員も、ねこ愛にとっては大切な仲間だった。その者たちの再生を最後まで信じ、引き留め、再教育の道を探していたのもねこ愛だった。
ねこ愛が泣く姿を見た常慈は、ねこ愛の肩を抱き、
「こんなつらい思いをさせてごめんよ。全部パパの責任だよ。」
そう言って、自身も目に涙を浮かべた。
藤堂も慰めるようにねこ愛の背中を数回優しくトントンと触れた後、疲れ切った常慈の体を支え、会議室を出て行った。
その様子を見守っていた副理事長の梅田敬子が、ねこ愛に寄り添った。
「ねこ愛、大丈夫?理事長のあんなにおつらそうなお顔は初めて見たわ。この50年間、いつも優しく微笑んでらしたのに。相当ショックを受けられているのね。お体に触らなければいいけど。心配だわ。ねこ愛も体にひびくから、考えすぎちゃだめよ。彼らはそれだけのことをしてしまったんだもの。仕方がなかったのよ。十分時間をかけて精査してきたし、彼らも納得してくれたわ。これ以上私達がこの問題に触れれば触れるほど、彼らの傷をえぐるだけよ。だから、もう手放してあげましょう。」
後から後から溢れるねこ愛の涙を、梅田は何度も何度も拭いた。