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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?【改訂版】  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく
外伝(次世代)

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第10話 お姉ちゃんなんだから

 珍しく今日は空が荒れていた。昨日から風が強くて、竜もみんな空を飛ばない。真っ黒で重たそうな雲が覆う空から、ぽつりと大粒の雨が落ちてきた。ぱたぱたとガラスを叩く音がして、すぐに外が白く煙るほどの土砂降りになる。


 お勉強を中断して窓の外を眺めた。


 弟のシュガールもお絵描きの手を止めて、とことこと歩み寄る。窓の外を眺めるシュガールの手に握られた色鉛筆に気づき、優しく手から取り上げた。先日も持ったまま転んで手のひらに芯を埋めて泣いたばかり。気を付けてあげるのは姉のお仕事だもの。


「……あ」


 ぴかっと空が明るく光る。びっくりしたのは私も一緒だけど、腰に手を回して抱き着いた弟を抱き締めた。最近は強がって「僕だって出来るんだ」と口にするけど、やっぱりまだ子供ね。


 ふふっと笑ってしまう。驚いたけど、私はそんなにびくびくしないんだから。


「怖いよ、リサ」


「リサお姉様でしょ! ちゃんと呼ばないなら置いてくから」


 意地悪した瞬間、再び轟音を立てて雷が落ちる。少し離れた大地に光の柱が突き刺さるのが見えた。やだ……結構近い。いきなり怖くなった。お父様とお母様は今夜留守にしていることを思い出し、慌てる。頼れる存在の不在にパニックになった私は、弟を腰にぶら下げたままベッドに移動した。


「ほ、ほら。中に入ってなさい」


「お姉様も怖いの?」


「怖いわけないでしょ。ほら入って」


 無理やり押し込んで、しらばっくれて一緒に潜り込む。シーツを頭まで被って隠れた。ぴかっと外が明るくなり、直後にドカンと大きな音が響く。びくりと揺れた弟がしがみつくのを抱き締め返し、震える声で「大丈夫よ」と囁いた。


 私は姉なんだから、弟をしっかり守らないといけないの。もう怖いなんて言ってられないんだから。


 ぎしっとベッドが軋んで傾き、被った上掛けごと抱き締められた。


「だぁれ?」


「俺だよ」


 聞き慣れた声は、ヴェーラだ。緑の鱗を持つ彼は風の魔法が得意で、よく遊んでくれる。仲のいい竜の大きな腕に、ようやっと震えが止まった。恐る恐る顔を覗かせた私を安心させるためか、にっこり笑ってくれる。


 弟分の癖に生意気よ。そう思いながら、大きな手のひらは安心できた。頬を撫でる手のひらが気持ちいい。私が身を起こしたので、腰に手を回したシュガールが膝の上に顔を埋めた。


「こら、紳士がレディを守らないなんて……カッコ悪いぞ」


 くすくす笑って告げる軽口は、アグニ兄様にそっくり。アグニ兄様は炎が得意で赤い鱗だけど、ヴェーラは兄なのに少し小柄だ。普段は大人しいけれど、雷に平然としてるくらいには大人だったみたい。


「怖いもん」


 シュガールがぐずぐずと文句を言って、さらに強く抱き着いた。ぽんぽんと背を叩いた瞬間に、また外が光る。ドンッ、凄い音がして窓ガラスがびりびり震えた。


 目を閉じて、ヴェーラの陰に飛び込む。


「リサも女の子だな」


 むっとしたが、また光ったので耳を塞いで隠れた。背中を抱いて引き寄せられると、ヴェーラって大きかったのねと思う。今まで、アグニ兄様やお父様と比べたから小さく見えたけど……。


「雷は怖くないぞ。光ってから音がするまで何秒かかるかで、落ちた場所までの距離がわかるんだ」


 そう言われて興味が湧いた。光ってから数えて、距離がわかるなんてすごい。竜の知識に感心する私は、一瞬だけ怖さを忘れていた。次の雷が落ちたら数えてみようと考え、窓の外へ目を向ける。


 まだ激しい雨が降る庭は、強い風も吹いていた。木が大きく揺れて、花が飛ばされないのかしら。


「花が散っちゃうわ」


「ん? ああ。花は強いからね、根が残ってればまた咲くよ」


 ぼそぼそと話す間に、雷は収まったらしい。光らなくなって、ごろごろ音も遠ざかった。


「あ! 大変」


「どうした」


「雷の距離を調べたかったのよ。ヴェーラと話してて忘れちゃったわ」


 怖かった気持ちを忘れてぼやく私に、ヴェーラはきょとんとした顔をした後で大笑いした。それから私の額と頬にキスをくれる。お父様やお母様みたい。


 温かな膝の上は、弟シュガールが眠っていた。だから彼を抱っこしてベッドに置いて、隣に横になる。手伝ってくれたヴェーラがベッドの端に腰掛けて、髪を撫でてくれた。


 大きな手のひらが目の上を覆ったら、途端に眠くなってしまう。


「あふっ」


 大きな欠伸を手で隠しても、もう無理……。起きていられなくて目を閉じる。何も言わずに待ってくれるヴェーラに何か言わなくちゃ。そう思ったのが最後。


「お休み、俺のお姫様、早く大人になってくれ」


 そんな声が聞こえた気もするけれど、半分ほど夢の中だった。

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