第2話 立派なお姫様
わずか6年前まで、この国はセブリオ国と呼ばれたとお勉強の時間に教えてもらった。人間が支配する人間の国は、竜帝の目覚めにより竜と人が共存する竜国ティタンになったの。教えてくれたマリエッラ先生は、アグニ兄様とヴェーラのお母さん竜よ。白に青が乗った鱗は宝石みたいだった。
ヴェーラも年上だけど、呼び捨てでいいわ。だって私より子供みたいなことするの。一緒に悪戯に付き合ってあげてたけど、そろそろ弟分に降格なんだから。
お勉強も私の方が得意で、歴史に関して本をたくさん読んだから褒められた。
竜国暦6年――ティタンは新興国だけど他国との貿易が盛んで、協定や同盟もたくさん結んでいる。竜妃であるお母様の外交手腕は他国でも有名で、最近は観光産業も手掛けておられるわ。
私ももうすぐお姉様になるのだし、6歳のお誕生日も近づいてる。お父様やお母様の手助けをして差し上げたいから、一生懸命お勉強するの。
あと少ししたら収穫祭――待ちきれないわ。すごく楽しいお祭りで、お母様が舞いを披露される。とても綺麗で美しくて、竜の祝福で精霊が姿を現してくれるんだから。
私は竜だから見えるけど、人間の目に精霊は映らないんですって。アデライダ大伯母様がお茶会で教えてくださったわ。大伯母様の指先とか、お茶を飲む仕草はすごく綺麗で見惚れるの。お母様もそうだけど、洗練されてるって表現するらしいわ。
お姉様になるんだから、ちょっと難しい言葉も覚えて使いこなさないと。
竜の加護で天候に恵まれたティタンの収穫祭は、竜妃エステファニアが舞いを披露する――お祭りの目玉で観光客一番のお目当てが、お母様の舞いなのは嬉しい。
本来は竜帝であるお父様へ捧げられる20年に一度の奉納舞い……って何かしらね? だったけど、毎年の収穫祭で見たいとお父様が望まれたの。その見事な舞いに合わせ、多色の竜が空を飛ぶ。他国では決して見られない祭りを楽しむため、王侯貴族から平民まで集まってくるようになった。
先生のお話を纏めるとこんな感じ。今年は私も一緒に空を飛んでお母様の舞いを盛り上げたい。だから飛ぶ練習をしてたんだけど、心配させちゃうなら来年にしましょう。お姉様になった記念にちょうどいいかも。
観光産業を立ち上げた功労者と言われるお母様の目下の悩みは、お転婆な一人娘の私。勉強の合間に空へ飛び出し、ダンスの練習をサボって森へ逃げる。
わかってるわ。ダンスは「きょうよう」で「しゅくじょきょういく」に必要な「さいていげんのマナー」なんですって。
難しくてよく理解できなかったけど、お母様を困らせるのは良くない。お腹の中の弟妹に悪い影響があるかも? って心配になるし。
「あなたのお転婆は、私の小さい頃にそっくりね」
そう笑うお母様と手を繋いで歩きながら、私は美しい横顔を見上げる。転ばないように前をしっかり見て歩くお母様のお腹は膨らんでいた。優しくお腹を撫でる手と、私と繋いでくれる手。両方を見比べて、にっこり笑う。
「大丈夫よ、お母様にそっくりなら……私も立派なお姫様になれるもの」
お母様は公爵令嬢のお姫様から竜帝のお妃様になったわ。私も見惚れるようなお姫様になって、いつか素敵な方のお嫁さんになるの。お妃様じゃなくていい。
お父様みたいに頼りがいがあって、アグニお兄様みたいに優しくて、ヴェーラみたいに楽しい人。私の夢はそんな人のお嫁さんになること――。
食堂で、みんな一緒にご飯を食べる。いつもと同じ風景の中で、ヴェーラの顔色が少し悪いみたい。あとで蜂蜜のお茶を分けてあげるわ。




