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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?【改訂版】  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく
外伝(次世代)

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第1話 叱られちゃったわ

 穏やかな風が心地よい昼下がり。屋敷前に整えられた芝の空間は不自然に広い。屋敷の大きさと見合わない広さだが、中央に噴水や花壇も作らなかった。縁を彩る花壇は美しい花弁を揺らし、芝も手入れが行き届いている。ここは竜が舞い降りる大切な場所なのよ。


 大きな翼を広げて空を舞う竜達が、人の姿になるための場所だけど……本当はこんな大きなスペースは要らない。まだ降りるのが下手な私のために広さが確保されたのよ。


 作った頃はロータリーで真ん中に花壇と噴水があったと聞いたわ。でも私が飛ぶようになって壊したから、危険がないように平らな芝の広場に変更されたの。降りやすくて助かるけど、いつか上手になって噴水を戻してもらうのが今の目標かしら。


 その広場の中央より左、テーブルセットがあるテラス寄りで、私は叱られていた。


「屋敷の上を飛んだらダメよ、と言ったでしょう?」


 困った子ね。そう叱る母の前で、黄金の竜姿の私は大人しく羽を畳む。反論せず、素直に反省の態度を見せれば、お母様は白い手を伸ばした。


 銀髪がさらりと風に揺れる。昔は結うことが義務付けられてたんですって。窮屈な決め事を、お父様とお母様がなくしたから、今は自由に髪型を楽しむようになった。


 私は結って着飾ったお母様も好きだけど、柔らかくて真っすぐな銀の髪を流してるお母様も好き。


 今朝は上半分を編みこんで残りを流したお母様は、ふんわりとしたロングスカートとブラウス姿。身体を締め付けるコルセットもせず、寛いだ姿だった。お腹が大きいから、締め付けるのはダメよね。


 夜会の時にコルセットを締める姿を見たけれど、あれは酷いわ。だって侍女のリータは全力で汗かきながら紐を引っ張ってたのよ。あんなに締めたら、骨が折れるか、中身が出ちゃうわ。


 いまより子供だったからびっくりして泣いちゃったけど、抱き締めたお母様が「昔は当たり前だったの」と仰ったので、余計に驚いたわ。アデライダ大伯母様も、カサンドラ様やリアンドラ様も、みんな同じなの? フランシスカ伯母様もあんな苦しいことしてたなんて。


 お母様も夜会のドレスを着るとき以外はしないけれど……日常であんなに身体を締め付けたら、苦しくてご飯が食べられないじゃない。


「聞いているの? リサ」


 ごめんなさい。違うこと考えてたわ。


 叱られる私に気づき、空を舞う色とりどりの竜が慌てて降りてくる。あっという間に竜が増えた。


「竜妃殿下、竜は空を飛ぶ生き物ですぞ」


「そうです。まだ幼いゆえ、遠くへ飛べぬ姫が屋敷の上を飛ぶのは、仕方ないではありませぬか」


 竜帝の第一皇女である私を庇う竜達の援護に、竜妃であるお母様の眉が上がった。あ、皆が叱られちゃう! 慌てて私は謝罪を口にした。


「ごめんなさい、お母様。私が悪いの、だから皆を叱らないで」


 庇う姿勢を見せた娘に、お母様は腰に当てた手をお腹に移動しながら溜め息をついた。呆れたのかと恐る恐る目を向ければ、ぎゅっと抱き締められる。まだ小さいとはいえ、竜の時はお母様を見下ろす大きさがある。出来るだけ動かないよう、息を詰めて見守った。


 庇ってくれた皆も竜から人になっていた。お母様が少し手を緩めた隙に、そっと人の姿に戻る。朝選んだピンクのワンピースに、赤いリボンを思い浮かべて、広げられたお母様の腕に収まった。


 大きなお腹を包むスカートに顔を埋めて、目いっぱい抱き締める。


 今のお母様は身重というらしい。お腹に赤ちゃんがいるの。


 近々弟か妹が生まれると聞いて、嬉しくて空を舞っていたのだけど、お母様は心配だったのね。前に屋敷の上を飛んで落ちたことがあるから。


 あの時は、アグニ兄様が下敷きになって守ってくれたからケガはなかった。でもお屋敷の屋根に落ちて半壊してしまったの。お屋敷が直るまで3日もかかったわ。竜が総出で手伝ってくれなかったら、もっと長くかかるんですって……大変なのね。


 私のお部屋も壊れたから、お母様の実家でフランシスカ伯母様が住むメレディアス公爵家に泊めてもらった。アデライダ大伯母様が毎日遊んでくれて、フランシスカ伯母様もエミリオ伯父様も優しくて楽しい思い出。でも悪いことをしたから叱られたわ。


 従兄弟のクルスとも仲良くなったから、反省したけど私は悪いことばかりじゃなかった。


「心配させないでちょうだい、リサ」


 愛称で呼ぶ母の柔らかな声に、「はい」と頷いた。顔を上げると目を細めて笑う、柔らかくて優しくて厳しいお母様に頬を摺り寄せる。


 親子喧嘩でなかったと胸を撫で下ろす竜の中には、皇女に庇っていただいたと感激して泣き出す老竜もいた。


 お爺ちゃん、この頃涙もろいの。だから用意したハンカチを差し出した。それを掴んでさらに泣くんだもの。ハンカチに玉ねぎを仕込んだりしてないわよ?


 以前アグニ兄様に試した悪戯だけど、直前で気づかれちゃったの。玉ねぎは匂いでバレちゃうのよね。


「ほら、皆も屋敷に戻って。もうすぐ夕食です」


 お母様の号令で、皆は屋敷へ戻っていった。

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