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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?【改訂版】  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく
本編

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第55話 どうかと思いますわ

「……恥ずかしいですわ」


 揃った貴族の前で求婚されたのが昨日、あれから一夜明けただけです。なのに都の人々がほとんど知っているのは、なぜかしら。


 馬車で王宮へ向かう最中、花のシャワーが降り注ぎ、お祝いの言葉が次々と向けられました。貴族らしいポーカーフェイスが作れなくなり、私は淑女の嗜みである扇で顔を隠しています。やはりまだ手離せませんわ。


「手を振ってやりなさい。民を慈しむのは貴族の、愛しむのは妃の役目だ」


 向かいに腰掛けたお父様の言葉に、ひきつりながら笑みを作って手を振ます。小さな女の子が馬車に駆け寄ろうとするのが見えて、慌てた私は大きな声で叫びました。飛び降りようとした私を、慌ててお父様が押さえています。


「危ないわっ! 停めて!!」


 御者の手でゆっくり停止した馬車から、女の子に声をかけました。よかった、ケガはしてないみたい。駆け寄りたいのですが、お父様は首を横に振りました。


「ケガはないかしら? 動いている馬車に駆け寄ったら、あなたがケガをするわ。気をつけてね」


 ダメよと叱るより、どうしてダメなのか教える方が先です。父や兄にその方針で教育された私は、女の子に同じように接していました。途端にどっと民衆が沸き立ちます。


 びくりと肩が揺れました。驚きましたわ。


「竜帝陛下に相応しい、最高の竜妃様だ」


「さすがは竜の乙女であられた姫だね」


 褒め言葉が擽ったくて、御者に進むよう伝えますが……興奮した民に囲まれて動けなくなっていました。ある意味、停まった馬車は逃げ道のない籠なのです。馬が興奮して嘶くのを、御者が必死に抑えます。


「どうしましょう、お父様。私、余計なことを」


「お前の行動は妃に相応しいものだが……はて、民を傷つけるわけにもいくまい」


 お父様も困惑した顔で唸っておられます。


 停めさせたのが私なのですから、ここは何とかしなければいけません。解決策も思いつかないまま、馬車から距離を開けてもらえるよう頼もうとしたその時です。


 馬が甲高い声をあげました。怯えたような嘶きです。


 ガタリと馬車が揺れ、誰かぶつかったのでは? 心配になり窓から身を乗り出しますが、ふわりと浮遊感に襲われました。


「え? あ、嘘……でしょう?」


 馬車が空に浮いています。現在の高さは、先程の10歳前後の女の子と同じくらいでしょうか。それがさらに上に持ち上がりました。


 はしたないのを承知で身をよじって上を見上げた私は、眩しい金色の光に目を焼かれました。光を反射する眩しい金の巨体が見えた気がします。


「眩しいっ」


「中に戻りなさい、ティファ。危ない」


 目を押さえて馬車の中でゆっくり瞬きをしたら、視力はすぐ戻りました。何か光り輝くものを見た気がしますの。あれはテユ様ではないかしら?


 ばさっと布がはためくような音がしました。繰り返される音に、外を確認したお父様が苦笑しておられます。


「これはこれは……陛下はお前が心配で迎えに来られたようだ」


「迎えですか? この揺れはテユ様のお力ですの?」


「あの赤い屋根を見てご覧」


 お父様が指差す先を目で追うと、赤い屋根と白い壁にドラゴンの影がくっきりと映っています。爪で器用に馬車を掴む竜の大きさは、馬車の数倍ありました。こんなに大きな竜体は竜帝であるテユ様だけでしょう。


 開いたままの窓から、涼しい風が入ってきます。と同時に、御者の悲鳴や馬の嘶きも聞こえました。


「お父様……」


「ああ、これは……。御者に飲み代をはずんでやろう」


「馬にも、休暇と人参をあげてくださいませ」


 空を飛ぶ経験などないであろう馬達と、馬車という箱の外にいる御者の恐怖を思い……竜国ティタンの宰相となるお父様と竜妃に決まった私は顔を見合わせ、苦笑いしていました。初めての空中散歩を満喫するより、この後のお説教を考えてしまうのです。


 馬車は落ちることなく無事に城門前に着地したものの、御者と馬は腰が抜けて使い物になりません。


 別の馬車に乗り換える手間を惜しんだ私は、お父様と並んで歩きました。以前と違い、突き刺さるヒールの靴を履かなくなりましたので、殿方の手を借りなくても歩けます。普段歩かないので、息が切れますけれど……スカートの端を摘まんで、煉瓦敷きの緩やかな坂を上りました。


 途中で駆け寄ったテユ様に抱っこされながら、しっかり釘を刺したのは言うまでもありません。


「陛下、御身が強いのも大きいのも理解しております。助けていただいたことにお礼も申し上げます。ですが城下町に予告もなしに降りるのは、どうかと思いますの! それから……」

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