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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?【改訂版】  作者: 綾雅(りょうが)魔王様コミック発売中!
本編

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第43話 恩赦ではない(SIDEクラウディオ)

 *****SIDE クラウディオ




 セブリオ国の王太子、その肩書を奪われた。愛しいカルメンに心奪われた、それが罪だと言うならしかたない。そう割り切れるような罰ならばよかった。


「そら、もう帰って来るな」


 そう言って兵士に乱暴に放り出されたが、何も持っていない。王太子として夜会に出た私の持ち物は、服と靴、多少の装飾品だった。これを売れというのか。奇妙な声を上げて壊れた父と、ぼろぼろになったカルメンも同様に路上に捨てられた。


 竜の血が混じると言われたメレンデス公爵家の、エミリオ。何をやっても私より優れていて、人望もある。金が入った瞳は獣のようで大嫌いだった。その男が腕を組んで見下ろしている。


「きさまっ!!」


「恩赦だよ、竜帝陛下と竜の乙女である妹のティファが結婚するからね」


 拳を向けたが、私の攻撃など届かない。手前で兵士に阻止された。


 なぜだ、私は誇り高いセブリオン王家の唯一の王子だ。王太子だった。お前ら風情が触れて良い人間ではない! 叫んだ私を叩きのめし、エミリオは最後に距離を詰めて囁いた。


「ねえ。どれだけの間この街にいられるだろう。君は憎まれているからね」


 嘲り笑うその態度が気に入らない。澄ました顔を殴りたい。喚き散らしても、殴られた身体は動けそうになかった。冷たい石の道に投げ捨てられた体が痛い。冷たい。寝返りもうまく打てず、ようやく転がって上を見た。


 どきっとする。棍棒や鉄の棒を持った男女が、私の周りに集まっていた。取り囲む形だ。動けない私に逃げ道はない。だが、この程度の連中に私が(へりくだ)るとでも思ったか。


「おい。水を持ってこい。あと食事だ。それから着替えの服と……寝る部屋を用意しろ」


「何を言ってんだ? こいつ」


「頭がおかしいんだろうさ」


 次期国王が民に命じて何が悪い。そう叫んだ途端、足を誰かに叩かれた。折れたかも知れない。激痛に呻くと、次々に攻撃された。手足はあらぬ方角へ曲がり、胴体は痛みに悲鳴を上げた。


「く、そ……」


 遠巻きにする民は入れ替わるものの絶えることはない。徐々に日が暮れてきた。肌寒さが増す中、一人の少年が通り過ぎる。彼は水を入れたバケツを持っていた。


「そ……よこ、せ」


 痛む体を起こしてバケツを無理やり奪おうとした私の背を、誰かが蹴飛ばす。


「最低だな」


「殺してもいいんだろ」


「やっちまえ」


 初めて民衆に恐怖を感じた。自分より格下の者に、殺されると思ったら震えが止まらない。少年はバケツの水を私にぶっかけて逃げた。徐々に冷える夜の気配と、濡れて痛む身体……迫りくる恐怖と激痛にこのまま死にたいと願う。


 みじめに生かされるのは御免だった。それならば誇り高い死を――。


 凍る夜を過ごし、生きて朝を迎えたことに絶望する。これは恩赦による釈放じゃない。ただの集団暴行で民の怒りのはけ口にされた。


 歯向かおうとすると何らかの強制力で動けなくなる。ただ一方的にやられ、体中の骨を折られても数日で元に戻ってしまう。こんな体は要らない。死ねる私の身体を返してくれ。


 地面を這って、落ちていた食料を口に放り込む。腐ったゴミであっても、食べなければ腹が減るのだ。餓死できないかと試したが、途中で断念した。そんな苦しい死に方は無理だ。


 街を這って過ごすうち、父上に会った。街の片隅で、小汚い男達に毬のように蹴られて泣いている。情けない姿に、あれが私の父で国王だったのかと疑った。


 通りがかった子供から食料を奪おうとして、親らしき男に蹴られた。加減なく全力でだ。頭の骨が陥没した。目があらぬ方角を向き、バランスが取れない。呻くことも出来なくなり、数日転がっていた。街は徐々に豊かになっていく。


 それにつれて、食べ物を恵んでくれる人間が出てきた。殴らずに通り過ぎる人も増えてくる。人々の生活が豊かになれば、心も満たされていく――眠い授業で習った話が、目の前で実践されていた。


 この国は他国に比べたら豊かだ。それでもまだ豊かになる余地があり、父や私では成し遂げられなかった。身体を傷つけられることが減るにつれて、心が痛む機会が増える。


 幸せそうに歩く恋人や、小さな子供を連れた親子の姿に涙が零れた。まだ泣けることに安心する。大丈夫、死ねなくても私はまだ人間だ。


 ある日、懐かしい声を聞いた。誘われるように近づけば、カルメンがいる。


「ぐぎゃぁあああ! くそ、死ねっ! ぐああう」


 まるで獣のような声を上げる彼女の顔はぐちゃぐちゃだった。殴りながら犯される彼女を見て、助けに行こうと……思わない。なぜあの娘を選んだのか、自分が理解できなかった。身も心も汚れた彼女は、手に1枚の銅貨を握りしめて自ら足を開く。乱暴に犯されながら、顔も体もずたずたに傷つけられていた。


「なんだ、あんちゃんも犯りてぇのか? あのアバズレは銅1枚でやらしてくれるぜ。殴りながら犯すような犯罪者専門だから、首を絞めてやらねえとな」


 下卑た性癖を口にしながら、男は次の番を待つように並んだ。崩れた彼女の顔はあり得ない動きで元に戻っていく。すると元通りになったカルメンに、さっきの男が跨った。腰を振りながら首を絞める男に甘えるような声を出すカルメンに背を向ける。

 私は何を裏切ったのか。すべてを失って、ようやくその片鱗が見えた気がする。この罰がいつ終わるのか分からない。絶望に塗りつぶされた身体と心を引きずり、街の端で今日も蹲った。

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