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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?【改訂版】  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく
本編

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第38話 初対面?(SIDEテュフォン)

 ****SIDE テュフォン




 長き眠りから目覚めたばかりで、眠る気になれない。与えられた居室のテラスから飛び出し、思うままに空を舞った。久しぶりに広げる羽に風を受けると、眠りにつく前の記憶が呼び覚まされる。


 兄の跡を継いで竜帝になったものの、新たに生まれたアグニと共有した知識により忙しく立ち回った。前世の記憶や強制力という不思議な概念は、確かにこの世界に作用したのだろう。


 アグニが思い出した前世は予言となり、愛しのエステファニアを生み出した。まだ生まれてもいない、遥か彼方昔より恋焦がれた人だ。美しい姿はもちろん、その心のありようが愛おしい。


 月光の儚さを形にして、中に太陽の眩しさと強さを埋め込んだような女性だった。アグニの知る『スチル』という絵姿を見た時、一目惚れをしたのだ。そこから彼女が辿る過酷な運命を知り、何とかしたいと願った。


 意識を共有した仲間は13匹――竜が創り育てた世界を、見知らぬゲーム補正に好きにされるわけにいかない。アグニが知る知識を逆手にとって、数百年かけて狂わせる布石を打った。竜の乙女の意味を変え、未来を少しずつ変更する。


 長い年月をかけて作り上げた仕組みを残し、魔力を使い果たしたオレたちは深い眠りに入った。予言の通りなら、竜の乙女となったエステファニアは婚約破棄される。その時に目覚めるよう僅かな魔力と仕掛けを施して。


 眠る前の高鳴る恋心は、長い時を経ても一向に収まる気配はない。それどころか気持ちは燃え上がる一方だった。ただ愛おしいのだ。彼女が生きて動いて呼吸するだけで、世界の色が変わる程に。金が混じった若草色の瞳に映るたび、鼓動が高鳴った。


 痺れるような恋情が竜体を貫き、冷めやらぬ興奮を込めて甲高い声で鳴く。竜の咆哮に、仲間が口々に苦言を呈した。夜中に騒いだことへの抗議に、しょんぼりと城へ引き返す。


 ひらりとテラスに舞い降りると、アグニが苦笑いしてお茶を差し出した。特に食べ物や飲み物を必要としないが、別に摂取できないわけではない。嗜好品としてお茶を楽しむのはユリエッラと子供達くらいだった。


 ユリエッラが生んだのは2匹、赤竜アグニと緑竜ヴァーラだ。竜は通常1つずつしか卵を産まないので2つ産んだときは珍しいと一族が騒然とした。しかも2匹とも無事に生まれたため、さらに大騒ぎだったのは懐かしい過去だ。


「ありがとう」


 受け取って、その香りを楽しむ。すっとした清涼感のある薬草と、蜂蜜の甘い香りが混じっていた。


「陛下、エステファニア姫に婚約を申し込むのはいいが……彼女にとって陛下は初対面ですよ」


 初対面? 言われて気づいた。自分は数百年前から予言で彼女の姿も性格も知っているが、彼女は違う。婚約者に蔑ろにされた夜に突然現れた男に求婚され、迷惑だったのではないか? 困惑しただろう。だから腰に回した手を拒まれたのか。


 愕然とするオレに、他の竜から溜め息交じりに追い打ちが掛けられた。


「拒まれた自覚はあったんですね」


「婚約、本心からでしょうか」


「あの場面で嫌だと言えなかったのでは?」


「だったら、朝になって断りの連絡が来たり」


 不吉な言葉ばかり吐く彼らを共有から一時的に弾き出す。大人げないと言われても、掻き立てられた不安が胸を苦しくさせた。


 彼女に嫌われたのか。許してもらえるまで、何年でも待とう。幸い寿命は……ああ、だが彼女は人間だから早く番にならないと召されてしまう。混乱したオレの気持ちを、アグニが宥める。


「落ち着けって。彼女の気持ちを引き寄せる努力するしかねえだろ」


 竜同士の恋愛は簡単だった。互いの気持ちを共有すれば、好き嫌いを隠せない。好きなうちは寄り添い、嫌いになったら別れる。いずれ人間と繋がる竜も出るだろうが、今はまだ人間の本音と建前の見分けがつかなかった。


「朝になったら、連絡してみろよ。淑女の身体にべたべた触るのは厳禁だからな」


 しっかり釘を刺す友人に頷き、オレは空を見上げた。美しい月が光を降らせる夜空はまだ明ける様子はない。気は長い方だと思っていたが、早く夜が明けるよう願いながら、一晩中空を睨んでいた。

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