第19話 竜なんているわけがない!(SIDEクラウディオ)
*****SIDE クラウディオ
「離せっ、無礼者め!!」
叫んだ俺を牢屋に放り込む兵士は無言だ。向かいの牢には、愛しいカルメンが転がっていた。何度も愛でた肌が、濡れたドレスによって露わになる。
捕まって酷い目にあったのか? 意識のない彼女に向けて、檻の中から必死に手を伸ばした。
「カルメン、カルメンっ! 貴様ら、彼女に何をした?」
連行される最中、なんとか彼女を逃してやれた。あとは彼女が助けを呼んでくる手筈だったが、なぜか先に牢に転がされている。手足に傷はなく、眠っている様子だが心配から声を荒げた。
この国の王妃になる女性だぞ。なんて扱いをするんだ。石の床に直接寝かせるなど、不敬どころではない。喚き散らす俺の前で、カルメンはのんきに寝返りを打った。
「……ん、て、ふぉん」
別の男の名を呼ぶカルメン。何か違う言葉が途切れて聞こえたせいだと自分を誤魔化し、彼女と自分を牢から出すよう命じた。しかし兵士たちは動かない。それどころか、呆れたように溜め息をついてみせた。絶対に許さないぞ。
「俺は王太子だぞ!」
「クラウディオ殿、セブリオン家は今や王家ではございません」
信じられない言葉を突きつけられ、驚きすぎて声が出ない。丘に上がった魚のようにぱくぱくと動く口は、ただ空気を飲み込むばかりだった。
王家の子供は俺と妹たちだけだ。俺以外、王太子になれる男児はいない。父上が浮気しているのは知ってるが……愛人の子、が?
驚いて目を瞠った俺の様子に、兵士の方が驚いた顔をした。
「まさか、王族でありながら知らない、のですか?」
兵士たちが顔を見合わせ、呆然としながら尋ね返す。こんな阿呆が主君になるところだったとは……、と本音を呟く者が出た。その顔忘れないぞ、後で厳重に罰してやるからな!
この国の子供ですら知る伝説、竜という存在に護られ崇める国の根幹をなす情報を、王子が知らないと考えたこともなかった。そう呟いた兵士の言葉に首をかしげる。何を言っているのだ?
ひとまず、父上に不義の子がいなかったのは重畳だが。
「あなたが婚約を破棄、いえ……解消なされた御令嬢は、竜の乙女でメレンデス公爵家の姫君です。御伽噺にあるとおり、竜の乙女の婚約者がいなくなれば竜が目覚めて迎えにくるのですよ?」
だから代々の王族はメレンデス公爵令嬢が生まれ落ちた瞬間から、王子の婚約者として定めた。竜の乙女に婚約者がいない時期を作らないためだ。竜の乙女を妻とした男が、この国の王となる。彼女が別の男を愛さぬよう、代々の国王は心を砕き乙女を囲い込んだ。
子供に話して聞かせるような口調が気に入らない。説明された内容など知らぬ。
あの女は俺とカルメンの愛に嫉妬して逆上し、彼女を虐めた犯罪者ではないか。公爵令嬢という肩書も、すぐに引っぺがしてやる。俺がこの国の王になる唯一の王子だ。
竜の乙女の称号も、公爵令嬢の肩書も、俺の選んだカルメンこそ相応しい。
「竜なんているわけがない! そんな御伽噺を信じているのか? 愚かすぎるぞ」
「愚鈍なのは君の方だよ、クラウディオ」
竜の加護に包まれた国の王子が、竜を否定するなど愚かにも程がある。そう否定する聞き慣れた声は、メレンデス公爵家のエミリオだった。地下牢へ降りた彼は、カルメンの姿を一瞥したあと眉をひそめる。さすがに舌打ちしなかったが、存在が目に入ったことすら厭う表情だった。
なんたる無礼だ。我が妻となる女性だぞ!
「今なら許してやるから、ここから出せ」
「それはできない相談だ。何しろ、君はこの国の王となる方と、我が妹に無礼を働いた罪人だよ。君は勘違いしているみたいだけど、ちゃんと昔教えたはずだ」
言葉を切って、エミリオは整った顔に美しい笑みを浮かべた。背筋が凍るような……それはそれは恐ろしい笑みを――。




