第14話 立場がまだお分かりではないの?
「よい、其方らの手を汚すまでもない」
何も持たぬ右手を一度握り、肩の高さから下へ振り抜く。美しい所作に目を取られていると、淡い金色に光る三日月型の剣がいつの間にか握られていました。
不思議ですが、この方の雰囲気のせいでしょうか。あまり気になりませんでした。
「一手指南してやろう」
顎をそらした傲慢な態度で、セブリオ国の王子を見下ろします。その仕草のひとつまで洗練されて優雅で見惚れてしまいますわ。思わず甘い吐息が漏れ、慌てて扇で顔を隠しました。
「素敵な方ね」
「どこぞの王子殿下とは雲泥の差ですわ」
フランカと忍び笑いながら、不敬な発言を交換します。相手が王族ならば不敬ですが、今は問題ありませんでした。この方はもう王族ではないのですから。そのため遠慮がありません。周りの方々も似たような言葉遣いですし。
事実なので私も咎めませんでした。
騎士として我が国最高位の実力を持つリオ兄様がいれば、万が一にもこの金髪の貴人に怪我を負わせる心配はありません。それに鍛えた腕で剣を構える所作から、この方の力量も素晴らしいのでしょう。訓練をサボりまくった王子が勝てる要素がありません。
素人目にみても、実力差が圧倒的でした。
「馬鹿にしやがって」
馬鹿にされるような愚かな言動しかなさらないのに、よくもまあ……これがフランカが口にする「棚にあげる」という状況ですのね。彼女は時折不思議な言葉を使いますの。
あまりに品のない振る舞いは逆に感心しますけれど、剣先を向ける王子に眉を寄せました。その後ろから駆け寄ったカルメンは、甲高い声で彼を止めています。しっかり止めないと愛しの元王子がケガをしますものね。
「やめて。この人は、『レア』な『隠しキャラ』なんだから」
レア、隠しキャラ?
「うるさいっ」
王子は邪魔をしたカルメンを突き飛ばし、そのまま上段から振り下ろす。技量のない剣は、軽く弾かれました。一度距離を取ろうとした王子の足がもつれます。ゆったり待った二撃目を剣で絡め、叩き折る甲高い金属音が響きました。
「これで終わりか」
軽い悲鳴が上がった広間も、すぐに拍手が沸き起こりました。お気持ちは理解できますけれど、さすがに拍手はどうかと思いますわ。いえ、私も拍手しておりますけれどね。
父や兄も含め、ほとんどの貴族が拍手している。王家の威信は欠片もありませんわね。
愛した女性であるはずのカルメンを突き飛ばした王子は、今頃になって彼女へ手を伸ばして助け起こしています。素直に手を借りるカルメンもおかしいですが、彼の一貫性のない言動も困りものです。一国の王子としての教育が成っておりません。
三日月のような不思議な形の剣は、彼が手を振ると消えました。残されたのは、折れて足元に転がる王子の剣のみ。
偉そうに顎を反らし、王子クラウディオは言い放ちました。
「この無礼者を摘み出せ」
その命令に従う騎士はなく、困惑して顔を見合わせることもない。見れば玉座にしがみついていた元国王陛下も姿を消しておられました。
あの方も伯母様に離縁された時点で、国王の資格を失っています。竜の乙女の夫でなければ、国王にはなれないのですから。現在セブリオ国の王位は空席なのです。
愚かな息子が恥ずかしくて見ていられない、元国王陛下の気持ちは理解できます。同情しつつ伯母様を見上げれば、にっこり微笑み返されました。本当に息子と認めていらっしゃらないのね。
気の毒に思う感情はないけれど、味方のいない状況をいい加減理解した方がいいと思いますわ。
呆れ半分で王子を眺めます。クラウディオという名前はあるが、もう名前を呼んでやる気にもなれませんわ。元国王の息子という肩書以外、何の価値も見いだせないんだもの。その価値も私には通用しないのですけれど。
国王が空席ならば、この国の最上位は竜の乙女である私なのですから。




