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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?【改訂版】  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく
本編

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第11話 もう呼び捨てで構いませんね

「ティファ、髪がほつれてしまったわね」


 伯母様の声に顔を左へ向けると、頬にかかった銀髪を優しく直してくださいました。幼少時に亡くなった母の記憶は薄いですが、王妃のアデライダ伯母様に母娘のように可愛がっていただいております。寂しいと思った記憶はございません。


「ありがとうございます、アデライダ伯母様」


 ここで王妃殿下なんて呼称したら、叱られてしまうわ。伯母様はもう、メレンデス公爵家にお戻りになるのですもの。玉座に倒れ込んだ国王陛下には申し訳ありませんが、返していただきます。


 当家から奪った姫ですもの。


「おじ様はどちらかしら」


 フランカの疑問に、そういえば父が騒がないことに気付きました。娘である私を溺愛するお父様が、この騒動に何も言わず動かないのはおかしいですわ。気づかれないよう周囲を窺うも、父の姿は見えませんでした。さきほど国王陛下と一緒に入場なさったはずよね。


「確かにベクトルがいないわね」


 伯母様も姿が見えないことに首をかしげて、何かを思い出したように「ああ、わかったわ」と頷きました。思い当たることがおありでしょうか。


「竜の眠る洞窟を確認しに行ったのよ」


 竜の乙女は、この国の民なら幼子も知っている御伽噺でした。


 かつて、他国から攻められたセブリオ国は滅びの危機に瀕しておりました。荒れた国土と傷ついた民に心を痛めた美しい乙女が、洞窟に棲むという竜へ願いを捧げます。己の命と引き換えで構いません。この国をお救いください――と。


 彼女の清らかな心と美しい姿に惚れた竜は最愛の乙女の願いを聞き届けました。敵を退け、戦で荒れた大地を豊かに潤したのです。


 竜に望まれて妻となったメレンデス公爵令嬢は、竜との間に2人の子供を残しました。男女の子供は王や女公爵となって国を守る要となり、今の王家やメレンデス公爵家はその子孫と伝えられています。


 力を使い果たし眠りについた竜はいつか目覚め、婚約者のいない竜の乙女を迎えに来るだろう。


 ありきたりの「めでたしめでたし」で終わる童話ですが、この伝説はずっと絵本として語り継がれています。その最たる理由は竜の乙女であるメレンデス公爵令嬢が存在し、左手の甲に竜の文字が浮かぶことでした。20年に一度の舞いで民にお披露目される紋様は、他国の王族も観に来る程有名です。


 現実に目に見える形で竜の乙女が確認できるため、伝説は真実として大切に語り継がれるでしょう。この国のように。


「なによっ! あんたなんてぇ!!」


「ティファ!」


 伯母様と向き合っていたため、後ろから飛び掛かる影に気づけませんでした。


「無礼者っ! 触れるでないわ」


「あぶない!」


 叫んだ伯母様の叱咤と、私を抱きしめて庇おうとしたフランカの悲鳴。振り返った先で、ワイン瓶が振り下ろされるのが目に飛び込みました。


 まだ未開封の赤ワインが満ちた瓶は重く、女性の力であっても殴られたら痣程度では済まないでしょう。せめて伯母様や親友に当たりませんように。私の痛みなら我慢いたします……強く願った私の眼前でワイン瓶が破裂しました。


 ぱりん……頬にワインが少し飛び、反射的に手袋で押さえていました。吸い込まれたワインの赤が血のように、白い手袋を汚していきます。


 何が起きたのでしょう。


 目の前に逞しい背中が広がっていました。黒く艶のある礼装ローブの男性が守ってくれたのだと思い、礼を口にしようとしました。ですが震える唇は声を紡げません。喉に張りついた声が、吐息になって漏れるだけ。強張った身体から一気に力が抜けました。


 怖い、あの人おかしいわ。思い通りにならないからって、私を殴ろうだなんて――心の中で叫んだものの、震える手を翳すのが精いっぱい。まったく動けませんでした。


 割れた瓶の中身を被ったのは、私ではなくカルメン嬢でした。いえ、もう呼び捨てで構いませんね。ぼたぼたと垂れる赤い液体は、まるで血のようでした。割れたガラスで多少のケガはしたかも知れませんが、カルメン自身も状況が理解できない様子で濡れたドレスを眺めています。


 嫌ですわ、ほぼ下着姿ではありませんか。

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