仲間
「それで、三つ目の報告なんですけども・・・。」
ユリと根賀が和解した後にユリはそう切り出した。
「おう、なんだ?もう驚かないぞ?」
俺は笑いながら言った。ユリの編入、ユリと根賀の同居ともう驚きすぎて次がどんな内容でも驚かない自信がある。
だがユリが口にした言葉は今日一番の衝撃を俺と根賀に与えた。
「今日まで私は編入の手続きと同時にお姉ちゃんを生き返らせる方法がないか調べていました。その結果、方法は分かりませんでしたが100年程前に一度存在が消えてしまった人間を呼び戻した主人公が居たことがわかりました。」
「それは本当なのか!?」
それが本当なら今まで本当にミコトを蘇らせられるか不安だったが希望が湧いてくる。
「詳細は残されていませんでしたが事実です。そしてその時に主人公がその存在を呼び戻すことが出来た条件に存在が完全に消えてはいないこととありました。これは昨日根賀さん達がその存在を確認しているためクリアしていると思います。」
「フッ、俺が柊を殺そうとしたことでミコトを蘇らせる希望が見えた訳か・・・皮肉なもんだな。」
根賀は自嘲気味に吐き捨てるように言った。
「さっきは聞き流しましたけど、こいつを殺そうとしたことは私ゆるしていないですからね!おかげでお姉ちゃんが完全にいなくなっちゃうところだったんですから。」
もはやお姉ちゃん呼びを隠すことすらしなくなったユリが根賀に向かって怒ったように言った。
「あぁ、それでいい。俺は自分の手でミコトを殺してしまうところだったんだ、これは俺の罪だ。むしろ許さないでくれ。」
「べ、別にそこまで気負う必要は無いっていうか怒ってはいるけどそんなに怒って無いっていうか・・・」
根賀の言葉に焦ったようにフォローを入れようとしていたが怒っていると言った手前上手く言えないでいた。
「まぁ、その根賀の行動のおかげでミコトさんの存在が消えていないって分かったんだし結果良かったじゃないか。それがなければ希望も見えなかったわけだしな!」
二人の様子を見ていた俺はそうフォローを入れる。
「それよりも、今後はどうしたらいいんだ?何か行動を起こすのか?」
「いいえ、特別にこちらから行動することは無いわ。前に話した通りイベントは自然に起きるものだから、その時が来れば自然と発生するわ。」
「じゃあ、これからの事を話すっていうのはただの報告だけで終わり?」
「そんなわけないじゃない。私や根賀さんが言うこれからっていうのは、あなたが狙われる可能性があるってことよ。」
聞き間違いだろうか俺が狙われると言っていたような気がする。
「俺が狙われる?何で?」
少なくとも俺は人に狙われる様な事はしていない。まぁ根賀には襲われたがそれはミコトさん関係なのでカウントしなくてもいいだろう。いや、もしかしたら・・・
「なぁもしかして根賀みたくミコトさんに関係ある人に狙われるってことか?」
俺のその問いに根賀が答える。
「いや、ミコトは関係ない。原因はお前の中にある主人公の因子だ。」
なおさら意味が分からない。首をかしげる俺を見て根賀は説明を続ける。
「柊、お前の因子はまだ道が確定していないまっさらな状態だ。そのまっさらな因子を無理やり奪うことで、そいつが持つ因子の力を上書きし、もう一度一からやり直すことが出来るんだ。」
「つまり、例えばバトル系の道に決まった奴が俺の因子を奪うことでバトル系以外の主人公になることが出来るってことで良いんだよな?」
「あぁそうだ。そして奪いに来る奴らは大体が戦闘系だ。まぁ殺して奪うんだから当然だな。一応お互いが納得し契約をすることで殺さなくても因子の引継ぎは可能だが、これは殆ど行われない。」
「何で?平和的に解決できるなら引き継いじゃえば良いんじゃないの?」
俺がそう聞くと根賀はあきれたように言う。
「因子を持つ存在は意志の強いやつらが殆どだ。主人公はその強い意志で何かを成すもののことだ。そんな奴らが因子を素直に譲ると思うか?」
確かにそうだ。因子を持ったばかりの俺ですらミコトさんを生き返らせるという目的があり、その為の因子を引き継ぐことはあり得ない。ほかの人たちも勿論大切な目的等があるのだろう。それを自分から手放すのはよっぽどのお人好しか馬鹿だけだろう。
「いや、確かにそうだな。となると、俺も襲われた時用に護身術でも身に着けておいた方が良いか・・・。」
俺がそう悩んでいると根賀が否定してきた。
「いや、お前が戦う必要はない。お前は戦闘系である俺が守る。だから戦いに関してお前が心配することは無い。そのためにここに住むわけだしな。」
「でもいざという時の為に俺もある程度戦えた方が良いんじゃないか?それに・・・もう俺のせいで誰かが居なくなるところなんて見たくない・・・。」
ミコトが消えてしまう原因となったのは間違いなく俺だ。あの時せめてミコトの指示に従えるくらいに動けていれば結果は違ったのだろう。
「だめだ。」
当然根賀も俺が戦えるようになった方が良いだろうと判断すると思っていたが帰ってきたのは予想に反して否定の言葉だった。
「え?なんで?」
「理由はミコトを生き返らせる事ができるのが、どういった種類の主人公か分からないからだ。ここで柊に戦い方を教えることは勿論可能だ。だがそうした場合に柊がバトル系の主人公になってその結果ミコトを生き返らせなくなったとなったら本末転倒だ。それに襲われると決まったわけではないからな。今は少しでも可能性の幅は増やしておきたい。それが理由だ。」
「・・・分かった。俺は今はこのまま過ごすことにする。その代わり根賀、もし俺が襲われて根賀が戦うことになったとしたら絶対に死ぬな。これが俺が戦い方を学ばない条件だ。」
俺はまっすぐ根賀を見つめて言った。
「当たり前だ。俺はミコトを生き返らせ再び会うまでは絶対に死なん。安心しろ。」
俺の言葉に根賀はまっすぐ見つめ返して答えた。