決意
「じゃあ因子について説明するわ。」
ユリはそういうと崩していた姿勢を正し再び説明を始めた。
「因子というのは主人公や悪役がその役割を全うした時に完成するものなの。だから因子とはもう主人公としての役目を終えて次の宿主に受け継がれるのを待っている状態として考えて貰えばいいわ。そして因子の欠片は、主人公や悪役が因子を持った相手から引き継がれる事で欠片となり、また因子に成長するまで宿主の中に宿り続けるのよ。肝心などうやって引き継がれるかだけれども、基本的には因子を持った存在が寿命等で亡くなった場合に因子が宿主を離れて一番近くの適性がある者に宿るわ。ただあなたの場合は少し特殊で、私のお姉ちゃんが持っていたのは因子じゃなくて欠片だったの。欠片を持った存在が亡くなった時には欠片を持った存在の魂の力を取り込み無理やり因子へと変化させ受け継がれるの・・・。つまりはお姉ちゃんが亡くなった時に適性があったあんたにお姉ちゃんの魂の力を取り込んだ因子の欠片が受け継がれたわけ。」
因子については大体わかったが一つ気になることがあった。
「それと僕を殺せない理由って何か関係があるの?」
そう、彼女は僕を殺さない理由はほかにあると言っていた。しかし今の説明を聞いた限りではミコトさんの存在を取り込んだ僕を殺したところで何も変わらない。つまり殺せない理由にはならないはずだ。
「あんたって・・・・馬鹿なの?」
ユリはあきれ返ったような表情でこちらを見つめ、ため息を一つつくと説明を始めた。
「あんたの中にはお姉ちゃんの魂を吸収した因子の欠片があるのよ?つまりあんたを殺したらその欠片にあんたの魂の力を上書きして吸収した因子がほかのところに行っちゃう訳。だからあんたを殺したらお姉ちゃんを生き返らせる可能性がゼロになるわけ。分かった?」
・・・いま彼女はなんていった?
「ミコトさんを生き返らせるだって?そんなことができるのか!?」
僕のくだらない考えのせいで死なせてしまったミコトさんを生き返らせることができるかもしれないと聞き僕はユリに詰め寄り問い詰めるように聞いた。
「ちょ・・・ちょっと近いわよ!」
「ガッ・・・!」
僕は彼女に蹴られ後ろに倒れた。
「ご・・・ごめん。生き返らせられるかもって聞いたら居てもたってもいられなくて。」
ユリはちょっと怒った表情で息を吐いた。
「まぁ良いわ。生き返らせるっていうのはあくまで可能性の話。それも限りなく低い確率。」
「詳しく聞かせてくれ。」
「勿論よ。それが今回あなたに会いに来た理由だしね。お姉ちゃんの魂の力が宿った因子の欠片があんたに宿ったというのは話したわね。つまりお姉ちゃんの肉体は消滅したけど魂は因子の欠片の中に残っているわけ。そこであなたが主人公としての力を上手く使えればもしかしたらお姉ちゃんを生き返らせられるかもしれないってわけ!」
ユリは話しているうちに興奮してきたのか最後の方は叫ぶように言い放った。
「そんなことが可能なの?それに主人公の力ってそんなピンポイントに使えるものなの?」
ユリは少し息を整えて話し始めた。
「可能かどうかはその可能性があるってぐらいよ。主人公がどんな道を歩くかはその存在の意志によって変わるのよ。誰かを救いたい、誰かと付き合いたいとかそんな意志で変わってくるの。だからもしあんたが本気でお姉ちゃんを生き返らせたいって思えばもしかしたら・・・って。」
そういった彼女の声は震えていた。実際は本当に成功するかわからずに不安なのだろう。そんな彼女をみて僕の決意は固まっていた。
「僕に任せて欲しい。君のお姉さんが亡くなる原因を作った僕が言うのはおかしいけれど、必ず生き返らせて見せる。約束する!」
僕は彼女を心配させないように力強く宣言した。
「本当に・・・良いの?もう普通には戻れなくなるわよ?」
ミコトさんに言われた一般人として生きてという言葉がふと頭によぎった。でも、僕の意志は変わらない。
「僕は君のお姉さんに一般人として生きろと言われた。僕はそれを守るつもりだ。」
僕がそういうと彼女は悲しそうに目を伏せた。
「でも、それは今じゃない!君のお姉さん・・・ミコトさんを生き返らせた後の話だ!」
ユリは勢いよく顔を上げ驚いたように見つめる。
「それじゃあ・・・」
「あぁ、ミコトさんを必ず生き返らす!」
「ありがとう・・・!」
彼女は屈託のない笑顔でそういった。