気に入らないメイド
好きな人、なんていなかった。
いずれできるとは思っていたけど、
まさかな...。
「ご主人様」
聞きなれない声がして少し驚く。
なんだお前か、と表情に出す。
そんな俺の顔なんか見ないですぐさま俺のネクタイを締める。
(つまんねぇ女……)
見るたび思ってしまう。
この女は俺専用のメイド、永瀬色葉。
俺、一条奏は超有名会社の社長の息子。父親の稼ぎでこんな生活になっている。
高校に進学するためにこの町に引っ越してきた。前は、とても大きな家で沢山のメイドや執事が至る所にいて息苦しかった。
(まぁ、その生活から抜け出したくてこの高校選んだっていうのもあるかな……)
俺は、一人で暮らしたくて、父親に頼んだが、流石に許してくれず、この状況である。
(なんでこんな女と……)
この女と過ごすのは一週間が経過したが、まだ何もつかめてない。
(別に知りたいわけじゃねーけど)
いつも無表情で無駄なことは口にしない彼女が俺は気に入らない。
今まで笑顔で迎えられていたせいか、とても居心地が悪い。
(笑ったとこ見たことねーもんな)
そんなことを考えていると、準備が整ったのか、俺の前にかばんを持ってきて「お気をつけて」と言う。
(少しくらい笑えよ……気分悪ィ……)
俺は、無言でかばんを取り、靴を履いて玄関のドアを開けた。
その数分、ずっと無言でこちらを見ている。
(早く出てけって言いたいのかよ)
「行ってきます」
とても素っ気ない言葉を発した。いちいち、気を使いたくないから。
「行ってらっしゃいませ」
メイドが言う。そのまま俺は無視して出てく。
一息ついて呟く。
「っはぁ、つまんね~」
正直、楽しくない。これなら、前の家にいるほうがましだ。
あの女のこと考えてるとムカムカする……。
そうこう考えていると、あっという間に学校だ。
周りからは、見知らぬ生徒が次々と校門をくぐる。
校門の前には、「入学おめでとう」の看板がある。
(やっと、来た……!)
俺は、ここで成功させる。今までの惨めな人生から抜け出す。
(……つまり)
(モテたい!!!!!!)
今まで、女と関わったのはせいぜい店の店員か、メイドくらいだ。
いままでずっと、異性とのかかわりを避けられていた。
だから、そのためにもこの学校を選んだ。
(それなのに……)
あの女の反応ったら、本当につまらない。
(少しくらい笑ってもいいじゃんか)
あの仏頂面を思い出すと、気分が悪くなる。
(早く行こ)
そう思って、校門をくぐった。
体育館での校長の長い話が終わり、それぞれが教室へ歩く。
俺は、1‐2.
特に反応はない。
だが、ところどころから聞こえてくる。
「あの人かっこよくない⁈」
「やばー、めっちゃタイプぅ…」
何か沢山の視線を感じるし、多分、俺の事だよな……?
前の家でも、何回かメイドに告られることはあったし。
(俺って”かっこいい”のか……?)
トイレに入って鏡で自分の顔を見る。
(……よくわからない)
正直、アイドルやモデルを見て、かっこいいと思った事はない。
(可愛いと思った事はあるけど……)
かっこいいの基準ってなんだ?と考えて、トイレを出る。
そのまま教室に向かう。まだ聞こえる。
(どうでもいい……けど)
(居心地がいい)
そんな事を思いながら、教室に入ると、
予想外のことに、目を大きくした。
(……嘘だろ)
周りからの声なんて耳を通らない。
(……まじかよ)
俺の高校生デビューは、最悪な幕を開けた。
(なんでいるんだよ……!!!!!!)
視線の先には、俺専用のメイド、永瀬色葉がいた。
今回「笑わないメイド」を書かせていただきます。汐月星名です。
よろしくお願いします。