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スゴい超能力に目覚めた!

作者: またみてネ申


ある日、超能力に目覚めた。


自分が超能力になったと確信したのは、飯を食ったあと自室で今日のオカズを探していたときだ。詳しくは書かないが、オカズというのは隠語である。夕飯を2回食べるわけではない。


とにかく、俺は唐突に超能力者になったと確信したのだ。ムラムラによる脳内物質、プラス日々のストレス、社会へのやりきれない想い、口内炎の悪化などのアレがソレでなんやかんやで化学反応を起こし、突如覚醒したのではないかと睨んでいる。


そして、分身する能力に目覚めたわけだが。


試しに分身すると、鏡に写った像のように俺の目の前に全く同じ格好をした俺が現れた。それはもうスルッと現れた。いや、ぬるっの方が正しいかも。

驚いて声を上げると向こうも同時に声を上げた。


なんでお前も驚いてるの?



その瞬間、またも唐突に能力の詳細を知った。

俺の分身能力は今のところニ分身まで。


そして、いわゆる本体と呼ばれる存在はなく、全てがオリジナルの俺で、分身を消すときに今の俺が消える事も可能であること。


また、知覚の共有はオンオフ可能で、分身を消せばその分身のみが経験した事は全ての俺に蓄積される。これもオンオフ可能。


分身体が分身することは可能だが、総数には変わりなく、キャパは共有される。


以上のことを理解したあと、数瞬の後に俺は俺と目を合わせてニヤリと笑うのだった。






それから一ヶ月後。

 

「「「最初はグー!じゃんけんポイ!」」」


「おっしゃーい!!」


「ぐおおおおお!」


「ぬわー!!俺のシザーハンドがぁぁ!!」


「よし、じゃあ決まったな!俺Aが学校、Bがトレーニング、Cがニートだ!」


「うわーまじかよー、今日小テストあるじゃん、学校行きたくねー」


「まぁ学校じゃないだけマシか…」


俺の名は俺C、便宜上そう呼ばれているのがこの俺な訳だが、今日は俺がニートデイだ。ぶっちゃけ結局はみんな同じ人間なので、ジャンケンとかは茶番に過ぎないが。


あれから一ヶ月。

超能力に目覚めたので、もしかして空から美少女が降ってきたり、謎の組織が現れたり、モンスターに襲われたり、超能力を開発する学園に呼ばれて異能バトルが始まったりとかいうボーイミーツガール、または心温まるサクセスストーリー、さらにはピカレスク学園ジュブナイルとかが始まるのかと思ったが、何も起きなかった。


最初は驚いたが、何も起きないし一週間もすれば超能力は日常になった。


なんせこの能力の可能性は無限大だ。わかるか?


男子高校生と言えば、勉強に部活、友達と遊んだりとたくさんやることがある。でもその中で最もウェイトを占めるのはなんだと思う?


そう、モテだ。



勉強するのは知的に見せてモテるためだし、部活するのは運動能力を高めてモテるためだ。しかも部活に関しては女子に見に来てもらうことでひたむきな姿を見せることができるという特典もある(当社比)。


男友達と遊ぶのだって青春力を高め、自分に自信を持つことで女子との交流をスムーズにするためだし、なんなら女子と遊びたい。女子とラウワン行ったりしてリア充したい。


そうつまり、モテる事は全ての源流にあるのだ。言い換えればモテは全てに通ずる。全ての男子はモテたいのだ。


はちゃめちゃモテたい。



モテるためにこの能力のリソースを全てつぎ込むと決めた俺の一日は凄まじくハードであった。



まずは学校に行く俺。当然学校には一人しかしけないので、これは一人でこなしてもらう。彼にはしっかりと授業を受けてもらう他に女子との交流を深めてもらうという重要なサブミッションがある。


ちなみに昨日は女子と三回も会話した。これは驚異的な記録である。ここ一ヶ月では最高記録であろう。しかも驚くなかれ、男女合計では五回だ。

つまり、過半数が女子との会話に費やされているのだ。


確かに、消しゴムを拾ってあげたり、肩がぶつかって「あ、ゴメン」と言ったりと些細なことではある。しかし、以前の俺では考えられなかったことだ。

フフ、これは順調に成果が出ている。告られる日もも近いかもな…。



そしてトレーニングをする俺。

トレーニングは実に多岐にわたる。優れたモテ男は万に通ずるからだ。


まずは基本の筋トレ。腕立て、腹筋、スクワットを各100回。これを五人で行う。するとなんと一人あたり20回で済むのである。

幸い親は共働きで家には誰もいないので、家はもはやジムだ。会員は全て俺。

ぶっちゃけキモいがもう逆に壮観である。


筋トレが終われば五人の俺達は別々のトレーニングに入る。

一人は自己啓発本や歴史ある小説を読む読書担当へ。優れた文学作品に触れることは表現力を養う。

人格の優れたものはモテる。


一人は名だたる映画やクラシック作品、絵画を学ぶ芸術担当へ。

芸術作品を嗜む事は品性と感性をより優れたものにする。

上品な男はモテる。


一人は政治や経済、時事についてインターネットを通じて学ぶ政経担当へ。

時代は情報化の一途を辿る。これからは情報に強くなければ社会を生き抜けまい。

将来モテたとき、力だけでは彼女(虚)を守れないのだ。あらゆる悪意から彼女(虚)を守らねば。


一人は雑学を選り好みせずに学ぶインテリ担当へ。

あらゆる知識を蓄える事は知性を高め、時に会話の種となり、ひいてはモテる。


一人は更に体を鍛えるフィジカル担当へ。

ムキムキな奴はモテる。それだけ。



これらのトレーニングは昼休憩まで続けられ、そこで一旦学校の俺以外の分身が消える。昼飯は一人で食べないと食費がかさむからだ。

分身を消すことにより彼らの体験が全て統合され、蓄積される。この時、疲労感はカットしているので、疲れた記憶だけがあるというなんとも不思議な状態に陥る。

 


学校の俺が帰ってきたら新たなスケジュールが始まる。モテ男は一日にしてならず。時間は有限だ。


今度は人に見られる恐れがあることからできなかった外での活動になる。


まずはランニング。これはあえて大胆に二人で行う。フードを被れば意外と顔は見えないし、別々の方向に行くからすごい偶然でも起きない限りバレることはないのだ。あと一人だとキツイし……。


軽くランニングをしたらボクシングジムに通う俺が出撃。ランニング俺は消しておき、ここで実は昼寝をしていた俺を消す。

ランニング後の疲れの記憶を睡眠を取ることで相殺し、ベストコンディションでジムに向かう。


男は時として武力が大きな魅力になる。現代でモテるなら、確かに見せ筋だけ鍛えていればいいかもしれない。しかし、しかしだ。それで愛しい人を守れるだろうか……。

そして、試合を見に来てもらったり、ファンができたりした方が良くないだろうか。ファンならほぼ俺の彼女と言っても過言ではないし……。



ジムトレーニングの最中、三分身した俺はそれそれ好きなことをする。

一人カラオケ、一人焼肉、一人ゲーセンetc……。

一人分の時間で三倍遊ぶのだ。これは息抜きも兼ねている。なんせボクシングジムはキツい。それはもうキツい。俺達は毎回ここで揉める。トレーニングの俺を出すと、そいつがまた分身して結局五分身までいき、そこでジャンケンをしてようやく決まるのだ。


まぁ最後にはみんなやったことになるので不毛な争いなのだが。



そうして夜になり就寝。ここは分身しない。確かに誰かが寝ればその間に活動していても大丈夫と言えば大丈夫だが、寝ながら動いている以上、純粋な睡眠は取れず、少しずつ寝不足になっていくのだ。

体感で二週間が活動限界だろうか?


ということもあり、睡眠は可能であればしっかりと取ることにしている。


以上が俺の一日だ。


ちなみに今は153分身まで可能である。










高校三年生になった。能力に目覚めてから実に一年と少し。早いものだ。

もう今年は受験である。幸い能力に目覚めてからというもの、毎日努力は欠かさなかったので、このまま行けば一流大学に進学できるだろう。親も大層喜んでいた。なぜ突然勉強に目覚めたのかは疑問に思っていたようだが。


体格も随分逞しくなったように思う。何故か彼女はできないが。

しかしまぁこの時期にもなるとみんな受験でそれどころじゃないか。

でも最近人に避けられている気がするんだよな。


こうなれば大学ワンチャンだな。

大学生と言えば社会人予備軍のために用意された人生最後の長期休暇みたいなもんだしな。風紀は乱れに乱れると聞いている。となれば、彼女なぞ楽勝でできるだろう。間違いない。






ふぅ…そろそろロードワークも終わりにするか。あまり走り過ぎても無意味だ。別にタイム出したい訳じゃないし。ボクシングのトレーニングも最近はハードになってきた。


最初はチンピラに絡まれた女の子を助けるとき用に習い始めたが、もうそこらのチンピラにどうこうされるようなレベルじゃなくなってきてる気がする。

なんで最近はロードワークにばかり出てサボり気味だ。それにこの土手沿いを走るのは心地よい。なんせ放課後走っていると高確率で女子陸上部に遭遇できるからな。


女子の陸上部、あれは良いものだ。たまにすげぇ短い競技用のパンツみたいなやつ履いてきてくれるし。

健康的なフトモモがね……


「あっ!危ない!」


部分分身。


おっと……野球ボールか。



反射的にキャッチしたボールをちらりと見やる。

どうやら土手下で練習中の野球児が打った球が飛んできたらしい。犬の散歩中の子が声をかけてくれなかったら危なかったかも。


それにしても硬球だな……これ。

分身ミット出しててよかった。


これぞ部分分身。体の一部だけを分身させる能力で、さっきは手のひらにもう一人分手のひらを重ねることによって、肉グローブを形成したのだ。


ぶっちゃけ手のひらが重なるのはキショイ。

しかもあんまり使い道がない。ただ一つ、パンチがヒットする瞬間に拳を幾つも分身させる事によって連撃を繰り出す技は身につけた。(俺はこれを無○パンチと名付けた)






あ、もうこんな時間か……。ロードワークと言いつつ走りすぎたな……。ジム戻るか。いや、でもなぁコーチうるせぇし……。大会に出ろ出ろってうるさいんだよなぁ。プロになれるとか言うけどさ、俺大学に言ってキャンパスライフを送りたいわけ。それをなんでプロボクサーになって減量とかしないといけないわけ?あれって干物になるまで水分抜きつつ食事制限して、かつ鍛えるんでしょ?トップモデルでもそんな事しねぇよ。減量って言うか、自殺未遂みたいなとこあるよね。あんなキツいの知ってたらボクシングに手出さなかったわ……。大会出てモテたいとか言ってた自分を恥じるわ……つらたん。


しゃあねぇ、今日は直帰だな。まぁコーチにはプロテインでもぶつけときゃ黙るだろ。筋肉大好きだし。








大学生になった。


ボクシングはまだ続けているし、アマチュアの大会で優勝した。コーチにギャン泣きされたからだ。ムキムキの号泣である。ベヘリットみたいだった。


体格のわりに体重がずいぶん重く、下手すればヘビー級で戦えるという事でプロ入りを懇願されたが、もちろん断った。だって大学生活が待ってるからね。なんのために勉強したと思ってんだ。ホントは大会なんてどうでもいいのにわざわざ勉強してる間に分身してトレーニングしてたんだぞ。


コーチが卒倒するからジムはやめないけど。あと体重がやたら重いのは、新たな分身技、《圧縮分身》を覚えたからだ。これは一人の体にもう一人分の身体能力を重ねる分身で、筋力や敏捷性が跳ね上がる。骨密度や動体視力までもが倍になるので、人間を超越した能力が手に入るのだ。まだ3倍が限界だが。もはや分身能力とはなんぞやって感じだ。



そしてこの技、体積は変わらないのに何故か体重がバカ増えするので普段は部分的な圧縮にとどめている。だから見た目に反して重いんだよ。

まぁ実際ただのずるなので、プロにはならないし、もう大会に出ることもないだろう。



大学生はいい。人生最後の夏休みと言われるだけはある。文系だから勉強はたいしたことないし、就職も一年からやるようなことはない。朝も早くないし最高だぜ!


そしてサークル。これがとんでもない。飲みサーは当たり前。真面目に活動しているのなんてほとんどない。そして果てにはヤリサーなる魔界のサークルがあるらしい。いや、興味はないけどね!



ただ何故かどのサークルにも誘ってもらえなかった。嫌われてるのかと思って枕を濡らした。んああーとか言って泣いた。もう怖くてサークル入れねぇし。最近はホントに人に避けられてる。露骨に。なんか圧迫感がすごいらしい。一人なのに何十人にも感じるほどの威圧感が出ているようだ。あながち間違いでない上に、この威圧感、消せない。もうだめだぁ……私生活終った……。


イカンイカンイカン!また弱気になっていた。諦めるな俺!いずれ来るXデーに向けて研鑽を怠ってはいけない!


待ってろリア充ライフ!栄光はすぐそばまで―――――――




『臨時ニュースをお伝えします。超巨大隕石が現在地球に向かって――――――――――』




おおっと。まさか先に地球の危機が来るとは。なんだか俺にリア充ライフを送らせまいとする何者かの意思を感じる。












部分分身を始め、圧縮分身、異次元分身、縮小分身、拡大分身、空蝉分身、マリオネット分身、カタパルト分身、インビジブル分身、超分身などなど、超能力を得てからと言うもの、俺の能力はサクサクと開拓されて行き、頭打ちとはなんぞやと言わんばかりに成長した。そしていよいよ、俺の超能力が日の目を浴びる日が来たらしい。


隕石は巨大過ぎて軌道をそらすこともできなかったようだ。あと一週間で衝突するらしいそれは、すでに地球から目視できた。それぐらいデカイってことだ。なんだか笑える。


この一月ぐらいであらゆる兵器が撃ち込まれ、あらゆる可能性が探られ、なんと最終的には、ここぞと言わんばかりに超能力集団までも現れたが、すべて無意味に終わった。

超能力組織とかあったなら、とっとと迎えに来いよ……。



人類の滅亡確定により、なんやかんやあった。ホントにいろいろあったが、ごめんね。隕石がこのくらいの距離まで来ないとどうにもできなかったのです。


超能力組織がもっと早く現れてれば、俺も自分の能力を見せつけて、どや顔できたがもう遅い。一人でやると決めた。


いつだかロードワークで女子高生を眺めてた土手で、俺は一人立っていた。周りには誰もいない。みんな家で怯えてる。


今から世界を救う訳だが、なんか思ってたよりあっさりしてるなぁ……。誰も見てないし、誰にも期待されてない。そして誰も俺だとは気づかない。そうしたのは他でもない自分だが。



じゃあそろそろ始めるか。








そして世界中の人間が空に浮かぶ巨大な『手』を見た。それは途方もない大きさで、もはや見ていた人々はそれが手であると認識できなかっただろう。


宇宙から俯瞰でみると、地球を覆わんばかりであったその『手』は、ゆっくりと拳を握ると、音もなく飛んでいき、接近中の超巨大隕石をただの土塊のように叩き壊し、破片ごと遥か彼方へと追いやった。



その時、日本のどこかの県のどこかの町のどこかの土手で、空へと拳を突き出している男がいた。

その格好の男にそれ以上の何かを見いだす者は、きっといない。


ちゃんちゃん

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