水たまりの向こう側
雨上がりの道を歩くのが好きだった。
傘をたたんでうきうき。
黄色い長靴がどろんこになっても構わない。
ぼくはそんな子どもだった。
葉っぱに溜まった滴が鈍い光を放って、ときには、
「冷てっ!」
ぴちゃんっ・・と、上を走る電線から
滴った水が頭上に落ちたりもする。
そんなこともなんだか楽しくなって、
ぼくは通学路を歩いた。
「・・・」
そして見つけた水たまり。
「わー・・大っきいなぁー」
道路のくぼみに当たる場所。
少々いびつな楕円形の大きな水たまりができていた。
子どもの足では向こうまで跨ぐことはできない。
近所のおばさんも、
「あら、やーね。早く直してもらわないと」
なんて言いながらぐるっと遠回りして歩いてった。
「・・・」
まるで池みたいだ。
ぼくは好奇心いっぱいでそれを覗き込む。
とは言っても、もちろん魚がいるわけではない。
ただの水たまり。
ゆらゆらと動くのは自分の顔。
そこに雲が写ってる。
風が強いのか、進む速度もはやい。
切れ間の青空が形を変えていく様を、
ぼくは飽きもせず眺めた。
『もうひとつ町があるみたいだ』
そんなことを考えるとわくわくする。
ここに手を入れたら、足を入れたら、通じる国があるのかも?
思って一人で笑ってる。
傍から見たら不気味な子どもだったかもしれない。
『なんか出てこないかなー』
なんて思いながらようやく立ち上がろうとした時、
ぬ・・と顔が現れて、
「わぁっ!」
ぼくは後ろに飛びのく。
見れば同い年くらいの女の子がその水たまりを覗いてた。
「・・何が見えるの?」
問われて、
「え・・」
答えるつもりはなかったのに、
「・・水たまりの国・・?」
「・・・」
女の子は一瞬黙って、そして・・
「大笑いされた」
「だって普通言わないよ。水たまりの国なんて」
ぼくの彼女は変わらない笑顔で言う。
「あれも一種の運命の出会いってやつなのかな」
「そういうことにしとこうよ」
並んで歩くぼくと君。
そう、確かに運命だった。
あのときの笑顔。
水たまりの向こうの君見とれて
動けなくなったことは今でも内緒だ。