白銀のねくろまんさー!~晴れのち姉弟、ときどき聖騎士、ところによりアンデッド~(体験版)
今日は姉の日(12月6日)ということで、記念の姉弟もの作品の短編(体験版)です。
みんな姉好きにな~れ!
あるところに仲の良い幼い姉弟がいた。
この二人は孤児であったが、人々の平和と世界の安定を目的とする集団である<神殿>に才能を見出され、人々を守る聖騎士になるべく修行を積んでいた。
姉の名はミリア・オルフェウス。
剣技、魔術ともに天才的であり百年に一人の逸材とまで言われていた。
また、ドジなところもあるが、いつも明るく誰にでも優しいため人々に大いに好かれていた。
弟の名はメルト・オルフェウス。
剣技についてはそれなりであったが、魔術に関してはなかなかの才能を見せていた。
真面目で礼儀正しく勉強熱心であるが控えめで大人しく、いつも姉の後ろにくっついているような子供だった。
不断の努力と天性の才能もあり、ミリアは異例の早さで聖騎士となり、15歳で聖騎士の中でも最上位に位置する【熾天騎士】の一人に史上最年少で選ばれた。
そんな姉をメルトは誇りに思い、自分も姉と同じく聖騎士になり人々を守ろうと思っていた。
しかし、ミリアが熾天騎士に選ばれたその年、事件が起こった。
突然ミリアが死んだのだ。
魔獣退治の遠征の最中に病気で亡くなったということだった。
だがメルトには信じられなかった。
彼女は生まれてから一度も風邪をひいたことがないような健康優良児であり、どう考えても何の前触れもなく病気で死ぬとは思えなかったのだ。
さらに、メルトはミリアの病名も亡くなった時の状態さえも教えてもらえなかった。
姉弟の才を見出した司祭でさえ『彼女は病気で亡くなった。彼女の遺志を継いで立派な聖騎士になれるように努力せよ』と答えるだけだった。
メルトは信じられなかった。
姉の死も。神殿の人間も。何もかも。
そして、ミリアの死から数日後。
姉を亡くし独りきりになったメルトと、ミリアの亡骸と、神殿内に封印されていた一冊の禁書が姿を消していた。
それから幾年の月日が経ったある日のこと。
とある町に一組の男女がふらっとやってきた。
一人は黒のコートを羽織った、白銀の髪を持つ穏やかな表情の若い男。
もう一人は真新しい軽鎧を着て季節はずれのマフラーを巻いた、太陽のような明るい笑顔を見せる金髪の少女。
そしてその二人は楽しそうに町へと入っていった――
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「ほぇー! めーくん、大きくて活気のある素晴らしい町ですね!」
「これでもこの国じゃあ規模的には中くらいなんだけどね。」
「じゃあ実はそんなに大きくなくて特に活気があるわけでもない、何の特徴もないごく普通の町なんですね」
「言い方! 言い方考えて!」
町の人がめっちゃこっち睨んでるから!
なんの悪意もなく輝くような笑顔で町をディスらないで!?
いや、言ってることは確かに俺と同じなんだけども。
「えへへ、お姉ちゃん、町なんて10年ぶりだったのでちょっと驚いちゃいました!」
「……そうだよね」
「はい! 具体的には空がひび割れて、その裂け目からゴブリンとオークの大群が仲良く手を繋いで小粋なダンスを踊りながらゆっくり降ってくるくらい驚きました!」
「それは『ちょっと驚く』の範疇で収まる話ではないな!?」
「めーくんは驚き屋さんですね! 感受性が豊かで、お姉ちゃん、とても良いと思います!」
「みーねぇが豪胆すぎるだけだよ……」
太陽のような笑顔で微笑むみーねぇと苦笑いの俺。
……まぁみーねぇが驚くのも無理はない。久しぶりの町なんだからな。
「あ、めーくん見てください! 美味しそうな匂いのする屋台がありますよ!」
「あー、あれはガルルンガ焼きだね。ガルルンガっていうのは――」
「お姉ちゃんが買ってきてあげますね! 一緒に食べましょう!」
俺の言葉を遮り走り出すみーねぇ。
ああ見えてドジっ子だからな。ちゃんと気をつけないと。
「転ばないようにねー」
「だいじょー、はわっ!?」
返事をしようとこちらに振り返った瞬間、突然脇から出てきたおっさんにぶつかるみーねぇ。
そしてみーねぇもおっさんもお互いに転んでしまった。
……まずい。
「あたたた。すまんねお嬢さん。少し急いでたもん、で……」
「いえいえ、こちらこそすいません! 前方不注意でした! 騎士は急に止まれないもので! 戦士だったら止まれたんですけど!」
意味不明な謝罪をするみーねぇ。
止まれない騎士と止まれる戦士の違いはなんなんだ。
しかし、おっさんはしりもちをついたみーねぇを起こそうと手を差し出したポーズでポカーンとしていた。
そりゃそうだ。
ぶつかってしりもちをついた目の前の少女の体には、頭部が存在しなかったのだから。
正確に言うなら、頭部はその首なしの体の足元に転がっていたのだが。
「……え? あ、え?」
おっさんの頭の中はパニック状態だろう。
目の前には両手をワタワタと振る首なしの少女の体と、足元に転がったニコニコ笑顔の首。
これでパニくらなかったら推薦状をあげるので聖騎士になったほうがいい。絶対出世できる。
とにかく俺は猛ダッシュで現場に近づき、みーねぇの首を胴体にくっつけてマフラーを巻き直す。
「うちの姉がご迷惑をおかけしてすいません。ちょっとおのぼりさんなもので町が珍しかったんですよ。それでテンションがあがっちゃいまして」
「…………え、いやー、別にそれはいいんだけど、今、首とれなかった?」
「見間違いでは?」
「い、いや、絶対取れてた!」
「……じゃあ回復魔術でくっつけました」
「じゃあ!? じゃあって何!? というかそんな回復魔術聞いたこともないぞ!?」
しつこいなこのおっさん。
「魔術とは神秘の力。世の中には不思議なことがいっぱいあるのですよ」
「そ、そうなのか…………いや待ておかしい! 首が取れたら普通死ぬだろ!? 回復魔術でどうにかなる問題じゃないぞ!?」
「なら奇術でもいいです」
「なら奇術でもいいです!? おかしくない!? さっきから言ってることブレブレじゃない!?」
「実は私たちは遠方では有名な奇術使いの姉弟でして。<言ってることブレブレーメンの音楽隊>です。」
「いや知らないし!? ……怪しすぎる。衛兵に連絡を――」
「当て身!」
「ぐふっ」
俺が『あーもーめんどくせーなー人通りの少ない裏路地にでも連れ込んで静かに処理するかー』と半ば本気で考えていた時、みーねぇの当て身がおっさんに綺麗に決まる。
「さすが元熾天騎士。鮮やかなお手並み」
「お姉ちゃんですからね!」
せふせふ!と言いながら笑顔で腕を横に動かすみーねぇ。
「おじさんには申し訳ないですけど、すみっこのほうでゆっくり休んでていてもらいましょう。神も『急がば回ればええんやで』と仰っていましたし」
まぁ当身を食らって気絶してるので、回るどころかその場で静止してるわけだが。
みーねぇはそのままおっさんをずりずりと路地のすみっこのほうへ引きずっていく。
その時、ふとあたりを見渡してみる。
「「「「「…………」」」」」
多くの人からめっちゃ見られていた。
そして『首が……』とか『殴って……』とか『衛兵を……』とか不審な声が聞こえてきた。
……しゃーない。
「≪天国への階段≫!」
俺の魔術を発動させると、周囲の人々の動きが止まる。
そして全員が虚ろな目で恍惚とした表情を見せる。
これでよし、と。
みーねぇが小走りで戻ってくる。
「めーくん。皆さんの顔がイッちゃってますが、めーくんの魔術ですか?」
「うん。少しの間だけ本人が望む幸せな夢を見せる魔術なんだ。正気に戻ったらその前後のことはほとんど覚えてないからこれで大丈夫だと思う」
「さすがめーくん! 人に優しい素敵な魔術ですね!」
「あははは」
まぁ実際は夢を見せてる間に命と魔力を吸い取り殺す暗黒魔術なんだけどね。
今回は吸収部分はカットしたから平気だけど。
「よし、じゃあいこうか」
「はい!」
仲良くその場を去る俺たち。
そして、あとからその場所に来た人々は周囲の異常な状況に恐怖するのだった。
「ここは市場ですね! お姉ちゃん知ってます!」
「いや、誰がどう見ても市場だし、昔も神殿を抜け出してちょくちょく市場通って買い食いしてたじゃん」
活気のある市場を通る。
露天商たちも声を張り上げて客引きに必死だ。
「あ、めーくん見てください! 美味しそうなジュースが売ってますよ!」
「ほんとだ。買ってみようか」
二人で『美味しいパイナッポー!』と書かれた看板のある露天に近寄る。
すると。
「お、そこのカップルさん! このカップル専用ラブラブカップジュースなんてどうだい?」
「キャー! おば様、そんな、素敵なだんな様とかわいらしい若奥様だなんて!」
「誰も言ってないよ?」
両手をほほに当ててくねくねしだすみーねぇ。
相変わらずかわいいなこの姉。
「それおいくら?」
「今なら大サービスで一杯2000ポルカのところを1800ポルカだよ!」
……高くね?
露天の看板には一杯500ポルカと書かれている。
このカップル専用ジュースは多く見積もってもジュース二杯分程度だろう。
ぼったくりもいいところだ。
「みーねぇ、どうす――」
「お姉ちゃんはどっちでもいいですけど、どうしますかめーくん! お姉ちゃんはどっちでもいいですけど!」
みーねぇの目が期待でめっちゃ輝いてるやないかーい。
ここで『高いからやっぱやめよう』なんて言ったらみーねぇは悲しむだろう。
これが普通のカップルなら男の矮小さに嫌気がさして別れ話にまで発展するかもしれん。
ちらっと露天のおばちゃんの顔を見ると、邪悪な笑顔で微笑んでいた。
……まさか、一連の事件はこの悪魔によって計算されつくされた行動!?
声をかけられた時点で俺は積んでいたということか……
「にーちゃん、どうすんだい?」
「…………いただきます」
「毎度ありぃ!」
満面の笑みを浮かべる悪魔。
「もうめーくんてば! そんなにお姉ちゃんとカップル専用ジュースで飲みっこしたかったんですか! もう! めーくんはもう! めーくんのシスコン!」
「ほっとけ」
めっちゃ笑顔で俺の体をバンバン叩きまくるみーねぇ。
まぁみーねぇが喜んでいるようだからいいか。
近くに設置されている簡易的なイスに腰掛け、待つこと数分。
「はいお待たせ! カップル御用達エターナルラブファントムオブラブだよ!」
「きゃー! ついに来ましたねめーくん! ラヴです! すごくラヴい感じです!」
でかい声でジュースを俺たちの目の前に置くおばちゃんと、さらにでかくテンションの高い声ではしゃぐみーねぇ。
周囲からは『新婚さんかしら』『テンション高い幼妻だな』『歳の差けっこうありそう』と囁く声が聞こえる。
姉弟ですが何か。
まぁ姉弟だけど姉(ガチで永遠の15歳)と弟(22歳)だから歳の差カップルに見られるのはしょうがないが。
つーかカップルジュースの正式名称すげぇな。
「さぁめーくん! 一緒に飲みますよ! せーので飲むんですから! せーの、ですよ! ……せーの! ですからね!」
「フェイントかけんな」
すごいこだわりだな。
「じゃあいきますよー! せー、の!」
ストローに口を付けてジュースを飲む。
おお、ちゃんとパイナッポーだ。けっこう美味しい。
高いことは高いがみーねぇも喜んでくれてるし、この味なら必要経費として許せるな。
……そしていつまで飲めばいいんだこれ。
同時に飲んだから同時に飲むのやめたほうがいいのか?
目線を上にあげてみーねぇを見る。
みーねぇはストローに口を付けずにじっとこちらを見ていた。
「ぶふぉ!?」
「ああ!? 大丈夫ですかめーくん! めーくんがパイナッポーブレスを吐くパイナッポードラゴンになっちゃいました!」
「げほっ、げほっ……あんだけ一緒に飲むことにこだわってたのに何で飲んでないの?」
「間近で見るめーくんのお顔も素敵だなーと思って見てました!」
「む…………」
輝く笑顔でそう言われると言葉に詰まってしまう。
「……じゃあ俺も次はみーねぇの顔じっと見るからね」
「そ、それは恥ずかしいからダメです! めーくんのお願いならなんでも許してあげたいですけど、でもやっぱり恥ずかしいです!」
「みーねぇばっかりずるいよー」
「はうっ……じゃあ、ちょっとだけ、ですよ?」
みーねぇが顔を真っ赤にしながらストローに口をつける。
……かわいいなぁこの姉は。
俺の血と汗と涙に塗れた10年間は無駄ではなかった。
「も、もう終わりです! 恥ずかしすぎます! お姉ちゃん恥ずかしさのあまり思わず≪鳳凰飛翔≫を踊って誤魔化したくなっちゃいます!」
「このあたり一帯が火の海になるからやめて?」
≪鳳凰飛翔≫。
背中に巨大な炎の翼を生やし、踊るように回転することにより周囲をなぎ払い燃やし尽くすみーねぇの大技である。
また、みーねぇは昔これでイモを焼こうとしてボヤ騒ぎを引き起こし、神殿のシスターからいい年にも関わらず皆の前でお尻ぺんぺんされたことがあるトラウマ技でもある。
「もうもう! お姉ちゃんをいじめる悪い子にはこうです!」
「ふわっ!?」
わき腹をツンツンしてくるみーねぇ。
「やったなー!」
「きゃあ! くすぐったいです!」
みーねぇの脇をツンツンし返す俺。
そして周囲からは漏れる『バカップル……』の呟き大合唱。
ほっとけ。
ジュースだけでお腹いっぱいになったので露天を離れる。
その間もみーねぇは楽しそうにニコニコしている。
……その姿を見るといまだに泣きそうになる。今、自分は都合の良い夢を見ているだけなんじゃないか、と。
そう思っているとみーねぇが俺に笑いかける。
「大丈夫ですよ」
「……え?」
「夢じゃないです。お姉ちゃんはちゃんとめーくんの隣にいますよ!」
みーねぇはそう言うと俺の手をぎゅっと握り返す。
……この姉は。
「……はは。なんでもお見通しなんだね」
「お姉ちゃんですから!」
見つめ合う俺たち。
「見つめ合う俺たち。そして、お互いに自然と近づくと、二人の影が重なり――」
「待って待って。あたかも俺のモノローグかのように自分で言うのやめよう?」
「ばれましたかー」
いや、ばれるだろそりゃ。
「うわぁ!」
そんなアホな会話をしていると、すぐ近くで大声とともに財布から硬貨をぶちまけるおっさんの姿が。
みーねぇはすぐに近寄り硬貨を拾い集める。
「はい、どうぞ。これで全部だと思います」
「ありがとうな嬢ちゃん」
笑顔を見せるおっさん、なのだがヒゲもじゃで恰幅がよく獣の毛皮を着込んでいる姿はどう見ても獲物を狙い定めた山賊である。
「山賊の方ですか?」
「山賊じゃねぇよ!」
おっと、俺の子供心がついぽろっと口を滑らせてしまった。
「ご、ごめんなさい! めーくんは素直で純粋なとても良い子なんです! 今の言葉も思ったことがつい口から出ただけで悪気はないんです!」
「……いや、まぁ別にいいけどよ」
「きっと、山賊さんじゃなくて海賊さんなんですよね?」
「山賊でも海賊でもねぇから!!」
「す、すいません! てっきり山賊っぽい海賊さんかと! まさかそっちだったとは……」
微妙な顔をする山賊っぽい海賊でないおっさん。どんな表現だ。
あとそっちってどっちだ。
「親切なのか礼儀知らずなのかよくわからん連中だな」
「あははは、すいません。俺たち田舎者なもので」
「さっきの発言は田舎者とかそれ以前の話のような……」
「あ! 落としたお金は大丈夫ですか? ちゃんと全部ありましたか?」
「ん? ああ、ちゃんと全部ある。助かった」
「それは良かったです!」
みーねぇの強引な話題転換で話がそれる。
さすがみーねぇのサンシャインスマイル。
すると、突然おっさんが俺のことをじっと見つめてくる。
「え、何? 金銭目的の誘拐企んでる?」
「山賊じゃねぇって言ってんだろうが!……あんた、双子の兄貴か弟はいるか?」
「俺に? いや、姉しかいないけど」
「私たちは天涯孤独の天下布武ですので、他に血縁はいない風味ですよ?」
天下布武関係ないよね。
「いや、外見が俺の知ってるやつに瓜二つなんでな。てっきりそいつの双子の兄弟かと」
「めーくんのそっくりさんですか! きっとすごいイケメンさんですね!」
「みーねぇ、そう言ってくれるのは嬉しいけど、身内びいきほど恥ずかしいものはないからやめてくれ……」
昔から外で『うちのめーくんは世界一かっこいいです!』と公言してるみーねぇ。
その話を聞いてウキウキしながらやってきた女性が俺の姿を見て、最終的には残念そうな顔をして帰っていく様子を見て、俺は何度心が折れかけたことか……
「そんなにそっくりなんですか?」
「ああ。高い身長に真っ白な髪、黒を基調にした服装に男前な顔立ちまで全部同じだ」
「そこまでいくともうあんたの知り合いって俺なんじゃねーの?」
「いやぁ、ないない。それは絶対ない。もしあんたがフラグメント本人ならすぐにわかる」
「……え?」
その言葉についキョトンとしてしまう俺。
「<砕けた欠片>さん、ですか? 変わったお名前ですね?」
「まぁ十中八九偽名だろうけどな。本名も生まれも育ちも一切謎なんだよ」
「ほえー……きっとそのフラグメントさんはすごい恥ずかしがり屋さんなんですね!」
「恥ずかしいから自分の情報を全部隠すって徹底してるな!?」
みーねぇの発言に驚きを隠せないおっさん。
「きっとプロの職人さんなんですね!」
「なんの!?」
「恥ずかしがり屋さんのですよ?」
「恥ずかしがり屋のプロ!? どういうこと!?」
「すごく恥ずかしがります。朝起きて夜寝るまでずっと恥ずかしがってます」
「それはもう病気だろ!?」
「いえ、プロ根性です」
「わざと恥ずかしがってんのかよ!? なんで!?」
「恥ずかしがり屋さんだからですよ?」
なんだこのとてつもなく頭の悪い会話は……
話を戻すためにもどうみても頭が混乱しているおっさんに話しかける。
「あー、とりあえず、その、あんたの知ってるフラグメントってのはどんなやつなんだ?」
「ん? そうだな……わかりやすく言うと恐ろしく暗く冷たい眼をした男だな」
「ざっくりですね!」
衝撃を受けるみーねぇ。
たしかにすげぇざっくりとした説明ではあるが。
「ははは。もし一度でも会えば俺の言ってることがわかるさ。俺も今まで色んなやつに会ってきたが、あんな目をした人間は見たことねぇよ。まぁあんたらみたいな幸せそうなカップルが関わ――」
「キャー! 私たちは姉弟ですよ山賊さんってばもう! 聞きましためーくん! 三千世界に轟く激ラブ夫婦ですって!」
「誰もそこまで言ってないよ?」「だから山賊じゃないって……」
男二人のツッコミもむなしく、そのままキャーキャーと嬉しそうに騒ぐみーねぇだった。
「はぁ……まぁいいや。そういうわけでお前さんはフラグメントじゃないってことだよ。あの男が笑顔でかわいい女の子と一緒にカップル専用ジュースなんて飲んでるわけねーからな」
「ほっとけ」
「まぁぶちまけた金を拾ってくれてサンキューな。助かったわ」
「いえいえ。『汝、困っている人がいたら手を差し伸べよ』ですから!」
「……はははは! 今時、神殿の人間以外でそんなことを真面目に守ってる子がいるとはな! 世の中まだまだ捨てたものじゃないってことか」
なんとも嬉しそうな顔をする山賊のおっさん。
「さて、んじゃそろそろいくわ。元気でな、『三千世界に轟く激ラブ夫婦』さん」
「きゃー! もう山賊さんってば! 私、今、山賊さんのこととても素直で正直で素晴らしい山賊さんだと思いました! 山賊さんもお元気で!」
「……もう山賊でいいわ」
山賊風のおっさんは手をひらひらさせながらこの場を去っていった。
「さて、私たちもいきましょうめーくん。デートの続きですよ! あ、お姉ちゃんデートとか言っちゃいました! で、でもお姉ちゃん相手でも異性なんだからデートでOKですよ、ね……?」
上目遣いで俺を覗き込むみーねぇ。
まぁ広義の意味ではデートだし、狭義の意味でのデートでも別に関係ないしな。
「まぁデートでOKでしょ」
「そうですよね! さぁデート再開です!」
イヤッハー!と声を上げ手を繋いでくるみーねぇ。
そのまままた通りを歩き出す俺たち。
「……そういえば、さっきの山賊さんですけど」
「ん? あのおっさんがどうかした?」
「いえ、あの山賊さん、どうしてわざと自分を弱く見せていたんでしょうね?」
不思議そうに小首をかしげるみーねぇ。
やっぱりみーねぇも気付いてたか。
あのおっさん、山賊風の格好でいかにも三流な感じを装ってたけど、実力的にはかなりやるはずだ。
できればああいうのには関わりあいになりたくねぇんだけどなぁ……
「……さてねぇ。色々あるんじゃない?」
「そうですね! ぶっちゃけどうでもいいですしね!」
ぶっちゃけたなおい。
「さて、次はどこにいきますか、めーくん!」
「ん~、みーねぇはどこにいきたい?」
「お姉ちゃんはめーくんと一緒ならどこだっていいです!」
「……そっか」
なら、世界中の色んな場所を旅しよう。
色んな人に会って、色んなものを見て、色んなことをしよう。
俺とみーねぇの止まった時間は、今、やっと動き出したのだから。
……例えそれが、禁忌だったとしても。
世界の全てが俺たち姉弟の敵に回ったとしても。
俺は、今度こそ絶対に、この手を離さない。
「お姉ちゃん、めーくんがどうしてもって言うなら、トイレの中も一緒についていきますよ?」
「それは勘弁していただきたいですよ?」
お読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
久しぶりの姉弟イチャラブコメディファンタジー作品、いかがだったでしょうか?
活動報告のほうに作品についてもうちょっと詳しく書いてあるので、興味がある方はぜひ読んでみてください。
また、この作品はキリタニ様の『不死の姉とネクロマンサー』を読んで着想を得て執筆したものです。(ご本人からちゃんと許可はとったよ!)
キリタニ様ありがとうございます。レンねーちゃんかわいい。
姉好きの方、純ファンタジーの好きな方、読んでみるといいんじゃないカナいいんじゃないカナ?くしゅー