十六番目のうた
花の樹に生ふる思ひを伝ふれど落つる花弁に混ざりあふなり
墨染の桜は咲かじ人はただひとひらの花弁のごとくぞあるを
藤壺の罪ぞ花には在らなくに静心なく揺るるものかな
ふり積もる常盤のわくらば身を埋めあなたがもとへ今還りこむ
草庵に繁く鳴きぬる鶯よ呼ぶも徒なり我が春は亡き
今更に我忘れりやと夢枕かつて偲びし面影ぞ立つ
あの人はきっと聖処女だったんだ春の夜の床の水底
あの夏の最後の奇跡の少年の我が肩叩きて笑まうやあだ夢
今はもう五年前の夏の日の還らぬ奇跡は美しき夢
古巣には少女の我が漂へる身焦がす恋の陶酔語る