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次の日、私たちは朝食を食べ終わった後にボスの部屋へ来ていた。今夜行われる作戦の説明、私にとってはこれが初任務…気を引き締めていかないと。
「研究所内マップはこれだ」
そういってテーブルに広がるマップを見てみる…作りが一緒だな、これ。ということは地下に実験体がいるはず、特に危険なのは奥に厳重警戒されているはずだからあの部屋か。
「陽和がいた所と同じ作りになっている。一階はすべて研究員の部屋だ、すべて地下にある…目的は実験体にされている人々の保護と研究所の制圧。この研究所には保護対象に力の強い能力者がいることが判明している、無闇に警戒させないように注意してくれ」
その他様々なことを聞き、準備や最終確認を行っていたらいつの間にか夜になっていた。私たちは戦闘員第1班として組織の中でも上位に立つ、第2班からは私達が命令して動く。
『こちら第3班、準備完了』
制服を着て耳にはイヤホン、マイクも付いておりこれで通信する。
『全員準備完了』
「了解…さて、準備はいいかしら?」
「おうよ」
「大丈夫だ」
「うん」
「陽和は初めてだから無理はしないこと、いいわね?」
「分かってる」
「じゃあ…突撃!」
摩耶の合図で全員が中へ入る。研究者と言っても殆どが無能力者だから拘束するのは簡単だ…たとえ能力者でも直ぐに無効化される、そういう能力者が組織にいるから。
『1階制圧完了』
「了解」
「次は地下だな」
「ここは地下2階まであるわ。マップを見る限り実験施設が地下1階、収容所が地下2階のようね」
ここからは実験体もいる為下手に夕陽たちは能力を使うことが出来ない。そこで私の能力で研究者の背後に周り無効化していく。
「陽和がいてくれて助かったわ」
「だな」
「次行くぞ」
「うん」
研究者を無効化させながらその場にいた実験体たちを保護していく。私がいたところと同じで年代が様々…時折保護が間に合わなかった実験体もいるがそれは仕方のないこと、私も保護される寸前に女の子を殺しているからね。
『地下1階東制圧完了』
「地下1階西制圧完了したわ、第1班はこのまま地下2階へ行く」
『了解』
地下2階は最も注意しなくては行けない場所。収容所は広いがそこにいた研究者は2人だけ、直ぐに身柄を仲間に渡し実験体を保護していく。
「もう大丈夫ですよ」
「あ、ありがとう…ございますッ」
たくさんの実験体を見ていると一人の男性と目があった。
「…死、神?」
ん?
「なんでここに死神がいるんだッ!」
この場にいる全員が男の叫び声に止まった。
「まさか、ここにいる奴ら全員を殺しに来たのか!?」
「え、ちょっと、落ち着いてください!」
「お前はどれだけ殺すつもりなんだ!」
死神とはまた懐かしい呼び名だ。
「…死神?」
「果歩、こいつが死神だ!お前の両親を殺した死神だッ!」
男の目線の先には奥の部屋から保護されていた夕陽くらいの女の子。彼女は私と目があった瞬間雷を放ってきた、この子が一番危険な実験体か。
「陽和ッ!」
「やめろ!ここにいる全員を感電死させるつもりか!」
圭佑が叫んでも彼女には届かない、私が彼女から感じているのは怨念と復讐…私が彼女の両親を殺したらしいのだがまったくもって覚えていない。
「よくも、よくもよくもよくもよくもッッッ!!!!」
「第2班ッ!急いで全員を避難させろ!」
どうしたものか…。
「摩耶、お前も上に。相性が悪い」
「…そうね」
水と雷とでは相性最悪だ。
「どうするよ夕陽…彼女、だいぶご立腹のようだぜ?」
「…陽和、影で俺を彼女の後ろに」
「分かった」
私が作った影に夕陽が飛び込み彼女の後ろに姿を現した、すぐに手刀で気絶させれば簡単な話。圭佑が彼女を運んで地上へ戻る、すぐに彼女も保護され組織へ向かう…ボスへは摩耶が連絡したようだからこの後か明日はこの件について何かしら言われるだろう。
「陽和、何か心当たりは?」
「…ない、はず」
組織に来てから外部との接触は高校に行ってのみ、それでも学園長や生徒会の人達以外は会ってもいない。そうなれば自然に考えられるのは研究室での実験だ…実験体同士で実験をやらされて来たけど、正直殺しすぎて人の顔など覚えているわけがない。
でもあの男は私を両親を殺した死神だと言った。確かに私はあそこでは死神とか悪魔とか言われていたが…あの男は私がいた研究所にいたのだろうか、そうじゃなかったら私の事を知るわけがないし。でも私収容所とは別の場所にいたから実験や研究者に連れられて他の実験体とすれ違ったくらいしか姿を見ないのだが…これはあの男に聞くしか無いだろう。
「ボスからの連絡で明日の朝に全てを聞くそうよ」
「分かった」
それまでに色々資料を集めるようだ。
今日は違う意味で疲れた気がする…早く寝よう、そう思いながら屋敷に戻りシャワーを軽く済ませベットに入った。
次の日、私は地下に保護されているという昨日の男と少女の元へ来ていた。2人には攻撃しないよう能力を抑える腕輪が付いていた、私が部屋に入ってから視線だけでも殺せそうなほど睨まれている。
この場には例の2人、ボス、都姫さん、私達第1班4人がいる。
「さて、坂牧譲くん、藤沢果歩ちゃん。君たちは陽和が両親を殺したと言ったそうだね」
「ああ」
「何故知っていた?」
「…俺は以前、別の研究所にいた。そこで死神の噂を聞いたんだ、研究員の娘で俺たち実験体を遊びで殺している奴がいるってね」
…は?
「なるほど、果歩ちゃんの両親が殺されたというのは?」
「俺、研究室に来たのがこの親子と一緒だったんだ。収容室でもよく話していたからな…それである日、実験が終わって帰る時だ…騒ぎがあったらしくて見に行ったら…見覚えのある2人が血まみれで倒れていてッ…血まみれのアイツがッ…近くがそこに立っていたんだよッ!」
実験は個室で行われている、だから彼が私の実験を見れるはずがない。彼が実験の帰りに見たということは廊下のはず…おかしすぎる。
「本当にそれは彼女の両親で、そこにいたのが陽和だったのか?」
「間違いないッ!顔はよく見えた…確かにアイツだったッ」
「…ご両親とはこの写真の人物で間違いないか?」
都姫さんから受取ボスが見せたのは一枚の写真、研究室用に撮影された顔写真だ。
「ああ…果歩」
「間違い無い…母さんと父さんよッ」
「陽和、この2人に見覚えは?」
ボスに渡された写真を見る…この2人…ああ、そうか…この人達だったのか…そうか…この2人の事はよく覚えている、だってこの2人は…。
「…私をかばって、死んだ」
「「ッ!?」」
「どういうことだ?騒ぎと言っていたな、何か関係するのか?」
私はあの時、この2人とある約束をしていたんだ…これは、約束を果たさなければ。
「あの日、私も部屋に行く最中だった」
いつもの用に何人かの実験体とすれ違う時、一人の実験体が私を見た瞬間に能力を暴走させた。周りにいた研究者達も怪我をする中、暴走した能力はまっすぐ私を狙ってきた…逃げずに見ていたらいつの間にか2人に庇われていた。2人は出血多量で瀕死だった、それが彼女の両親だったようだ。
「そんなことが…」
「だから私は、2人を殺していない」
「そんなの…嘘かもしれないじゃないッ」
彼女が私を見る。
「あんた、研究員の娘なんでしょう!?そう言われているんでしょうッ!?そうやって私達の事を実験体としか見ていないんじゃないの!?…ねぇ、楽しい?実験体を殺して楽しい!?」
「…ボスとか言ったな、あんた達こいつに騙されているんじゃないの?こいつ、あんた達の敵だろう?なんでこんなところにいるんだ…なんでこいつを生かしているんだよッ!」
実験体を遊びとして殺している?実験体を殺して楽しい?…確かに研究員の血が流れているが、娘として扱われたことなんて無い。
「研究員の娘なんだから実験装置なんて見てきたんでしょうッ?機械に繋がれて!痛くて!叫んでいる人たちのことを笑って見てたんでしょうッ!?」
違う…私はあんなものじゃなかった…私は実験の成功例、最強の兵器になるように何倍もの痛みを味わってきた…他の誰よりも…最初は泣き叫んだ、痛いって、苦しいって。でもそんなこと彼らにはどうでもいいのだ、だから私は諦めた…叫ぶことをやめ、泣くのもやめた、いつの間にか表情なんて無いし声も無くなった。ただ毎日苦痛に耐えるだけ、他の実験体の悲鳴に耐えるだけ。
「お前、なんとも思ってないのかよ…何しにあそこにいたんだよ…」
「…今日はこれまでだ。2人にはまた明日詳しく話してもらう」
「陽和、行こう」
夕陽に背中を押されて扉に向かうが出る最中に立ち止まり、振り向かずに口を開いた。
「何しに研究所にいたか……2人がやってきた実験の何倍もの苦痛に耐えていただけ」
彼の声が聞こえた気がするけど扉が閉まり分からなかった。
ボスの部屋に行く途中は皆無言だった。夕陽は私の手を握っており、私の頭は2人が話したことと研究室での日々がよぎっていた。
「陽和?」
あぁ…嫌だ、研究所では無いはずなのにこの場がそう見える。あちこちが痛い…久しぶりに感じる痛みだ…久々で顔が歪みそう。
「…よりっ!ひ…より!」
痛い…痛い…もう、痛いのは嫌…誰でもいい、誰か私を早く…。
「陽和ッ!」
「ッ!」
「しっかりしろ陽和ッ!」
「救護班、急いで!」
「夕陽、陽和を医務室へ!」
皆の声が遠くなってゆく…苦しい…ようやく、開放されるのかな。
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