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 長い騎兵の列が、シャレット領の街道を移動していく。

 人馬一体となった騎士らが整然と並び、隊列は乱れることがない。


 その隊列の前方近くに、一頭だけ、二人の若者を乗せた馬がある。前鞍に乗っているのは、まだ十五歳の少年――に扮した少女アベルだった。


 重苦しい灰色の空、間近に迫ってくるラ・セルネ山脈の山々、それらは、だんだんとアベルの意識には登らなくなってきていた。

 その日、昼食もほとんど口にできず、その夜の宿営地となる小さな所領に到着するころになると、空腹で力が出ず、ほとんどマチアスに身体をあずけるようにして馬に跨っていた。


 徐々に力なくもたれかかってくる少年の身体を受け止めつつ、マチアスは内心で焦りはじめていた。

 このままでは、本当に危険な状態になるかもしれない。

 事の経緯をリオネルに説明し、医者に診せておくべきかもしれない。

 そう考えはじめるようになっていた。


 しかし、そんなマチアスの思考を見透かしたのか、宿営地に到着する寸前にアベルは弱々しい声で言った。


「マチアスさん、明日になればちゃんと食べられるようになります。ですから、昨日のことは、リオネル様にはおっしゃらないでいてくださらないでしょうか」


 マチアスは、どうしたものか思案し、すぐに返答できなかった。

 すると、


「お願いします。リオネル様は、わたしとジュストが喧嘩したなどということを知れば、とてもお気に病まれることでしょう。今、このような大変な時期に、些細なもめごとでリオネル様のお気持ちを乱したくないのです」


 と、アベルは言いつのった。


 それはひとつの真実である。山賊討伐という重い使命を背負っているリオネルを、それ以外のことで煩わせることは得策とは言えない。

 けれど、アベルの身になにかあってからでは遅いというのも事実である。


 こうして悩んだ末に、マチアスが最終的に選んだのは、とりあえずアベルの望みに従うということだった。

 そうすることを選択したのは、マチアスがアベルと同じ立場だったら、やはり同じように行動するであろうこと、そして、翌日になっても食事をとることができなかったら、そのときには必ずリオネルに伝えるという折衷案を、彼自身のなかで見出したからである。





 宿営地に到着すると、マチアスはほとんど足元のおぼつかぬアベルを支えて、真っ先に張られたリオネルらのテントに連れていった。


 少量でも栄養価の高い木の実や、乾燥させた果物を、ようやく何口かアベルに食べさせたのち、毛布を厚めに敷き、その上にぐったりとしたアベルを横たえる。


 そうしているうちに、騎士らに慌ただしく指示を出していたリオネルが、ようやく仕事のあいまに、蒼白な顔でテントに入ってきた。


「アベルは」


 その声は切迫していた。

 足早にアベルのもとまで来ると、そのまま抱きしめるのではないかという勢いでしゃがみこむ。

 けれど、体力の限界にきていたアベルは、静かに目を閉じていた。


「――今は、眠っています。先程いくらか木の実などを食べ、薬酒も飲みましたので、このまま明日まで休めば、少し体力は回復するかと思います」


 リオネルは、アベルに視線を落としたままうなずいた。


「いろいろと世話をかけて、すまない。本当に助かる」

「いいえ、とんでもございません」


 マチアスは恐縮して頭を下げる。この青年に真実を伝えていないという罪悪感が、マチアスの心に小さな棘となって突き刺さる。


「マチアス」


 真剣な声音で呼ばれ、マチアスは内心でどきりとした。


「はい」

「アベルが、荷台に顔をぶつけたことと、今回のことは関係があるのか」

「そのことについては、アベル殿自身が貴方に話されないかぎり、今、私の口から申しあげることはできません――誠に申しわけございません」


 おそらくリオネルが、アベルから無理に聞き出すことができないだろうことを承知のうえでそう言ったのだから、意地の悪い回答である。

 しかし、マチアスはそう答えるしかなかった。


 リオネルは、かすかに表情を硬くしただけで、怒ったり苛立ったりするようなことはなかった。


「わかった――」


 若いベルリオーズ家の青年はすっくと立ちあがる。


「アベルを、頼む」


 どこか重苦しい声音でそれだけ言うと、彼は来たときと同様、足早に戸口へ向かい、騎士たちに指示の続きを与えるため出ていった。


 自分の力では、これ以上なにもできないことを、リオネルは悟ったのだろう。

 そしてマチアスを信用し、自分がなにもできないのであれば、いっそ全てを彼に任せることにしたのだ。

 リオネル自身、やらなければならないことが山ほどある。そのなかで、なにが最善の策か考えた結果である。



 テントの外で、リオネルの姿を見かけたベルトランが歩み寄り、「アベルは」と短く問う。彼の瞳には、アベルとリオネル、両者に対する心配がうかがえる。


「休んでいる。昼間よりは、顔色がいいようだった」

「あとのことは、おれとクロードでやっておくから、おまえはアベルのそばにいたらどうだ」


 気をまわしてくれるベルトランに、しかし、リオネルは小さく首を横に振った。


「今はマチアスが見てくれている。二人いてもしかたがないし、目覚めたときにおれがいたら、アベルも気が休まらないだろうから」


 紫色の瞳には、濃い憂色がにじんでいる。


「昼間のことを気にしているのか?」


 鋭く言いあてられて、リオネルは苦い表情になった。


「……ああ。もうすこし、優しい言い方があったのではないかと思っているよ」

「おまえも、驚いたんだろう。心配のあまりに、言い方がきつくなってしまうのはしかたがない」

「しかたがなかったとしても、彼女にぶつけてしまった言葉に変わりはない」


 リオネルは、自分に謝罪したときのアベルの表情を思いだして、わずかに眉を寄せる。


「あの子を、傷つけてしまったかもしれない。おれはいつもそうだ――アベルのことが、誰よりも大切なのに、いつもきついことを言ってしまう」

「好きだからだろう」

「好きなら、もっと優しくできるものだと思っていた」

「誰かを好きになって、冷静でいられるやつがいたら、それは本物の気持ちではないんじゃないか? 好きだからこそ、本来の自分を見失うんだ。おまえは、それだけあの子に惚れているんだろう」

「…………」


 思考の淵に沈みこむ青年の背中を、ベルトランはぽんと叩いた。


「顔色がよくなってきているなら、明日には回復するかもしれない。元気を出せ」


 リオネルは、励ましてくれる友人であり用心棒でもある若者に、返事の代わりに笑みをつくった。





 そして、ベルトランが予想したとおり、一夜明けたアベルの食欲と体力は、徐々に回復を見せはじめた。


 朝餉の半分ほどを食べることができたし、動きも表情も、常の生気を取り戻しつつある。

 マチアスが寝る前に栄養のあるものを食べさせたことと、密かに蜂蜜酒に混ぜて飲ませた薬が効いたのかもしれない。


 ひとりで馬に乗っても問題ないとマチアスは判断し、その旨をリオネルに伝える。

 少しでも早く、いつもどおりにさせてやることが、この少年に元気を取りもどさせるための妙薬であると、マチアスは考えたからである。


 気がかりな様子でありつつも、マチアスの説明を聞き、リオネルはそれを承諾した。

 案の定、単独で騎乗してよいということをマチアスから伝えられたアベルは、陰鬱とした雲から一筋の光が差し込むように、ぱっと表情を明るくした。


「ありがとうございます」


 笑顔でそう言ったアベルは、花も綻ぶように無邪気でかわいらしい。

 その笑い方が、ふと、デュノア家の長男を思い出させたが、脳裏に浮かんだその姿を無意識に打ち消す。


 こうして宿営地を発った彼らは、賊の巣食うラ・セルネ山脈にさらに近づいていった。




 単独で自らの馬に跨っているアベルを見て、先頭に程近いところにいたクロードが、ベルトランの横に馬を寄せる。


「アベルはもう大丈夫なのか?」


 隣に来た若者を一瞥いちべつして、ベルトランは答えた。


「おれは詳しく知らないが、マチアスとリオネルが問題ないと判断したなら、そうなんだろう」

「おい、おまえの従騎士だろう? ずいぶん冷たいじゃないか」

「もちろん気にかけてはいるが、おれがあれこれかまわなくても、他に見ていてくれる者がいるなら、おれはそれ以外のことをやっていたほうがいいだろう」

「他に見ていてくれる者というのは、リオネル様のことか?」

「いや……まあ、マチアスとか」


 思いもかけず鋭いことを聞かれたので、やや言い淀む。


「リオネル様は、ずいぶんとおまえの従騎士を、気にかけておられるようだな」


 とかく恋愛や人間関係には鈍感なクロードがそんなことを言うので、ベルトランは意外な気がした。


「それは、おまえの所見か?」

「……と、周りの騎士が言っていた」

「だと思った」

「だけど、そう言われてみれば、そんな気もしてきてな」


 ベルトランは考えをめぐらせて、普段はすることのない、慣れぬ言い訳を返す。


「ああ、リオネルは、アベルのことを気にとめている。だが、それは、他の皆に対しても同様だ。ただ、アベルは最年少だから特に心配しているのだろう」

「そうか、そういうことか」


 それ以上詮索せずあっさりと納得した友人に、ベルトランは安堵しつつも、一方でやや呆れる。

 軍人としては一級なのに、人が良すぎるところが、この若者のどこか間が抜けているところだ。そこが、長所でもあるのだが――。


「アベルとジュストは歳が近いせいか、仲がいいみたいでな。従騎士のあの二人を見ていると、気持ちが和むよ」

「そうなのか?」


 二人が話しているところを、あまり見たことがなかったので、ベルトランは問い返した。


「ああ、このあいだも、二人で食事の準備をしていた。アベルの唇の怪我の手当ても、ジュストがしたようだぞ」

「へえ……」


 はじめて聞く話に、ベルトランは、なんとなく小首をかしげる。

 クロードがもし人間関係に敏感な男であったら、荷台の前で見かけた二人のあいだになにかがあったのではないかと察することができたかもしれない。




「お、アベル。いつのまに、ひとりで騎乗していたんだ」


 やや前方にいたラザールが、アベルに声をかける。彼の傍らには、老騎士ナタルもいる。

 アベルは、ほろ苦い思いで二人に微笑した。


「昨日は、お騒がせしてすみませんでした。このとおり、もう大事ありませんので」

「そうか、それはよかった。けど、無理するなよ。いざとなればおれたちの馬に乗せてやるから、疲れたら言え」


 ラザールの言葉を肯定するように、ナタルも髭に覆われた口元を笑ませる。


 仲間の優しさに、先程までのほろ苦い思いではなく、感謝の気持ちを込めた笑みを、アベルはたたえた。



 かくして、その日の夜、ベルリオーズ家とアベラール家の総勢三百を超える騎兵はラロシュ領に入り、翌朝、最終目的地である領主の館に向けて再び出発した。


 夜のラロシュ領内は、異様なほど静まりかえっていたが、翌朝には、大勢の領民が街道沿いに集まり、騎士らの到着を熱狂的に歓迎した。

 人々の歓声と期待を浴びつつ、一行は昼前に、無事にラロシュ邸に到着した。






+++





 ラロシュ邸に到着したとき、アベルの目を引いたのは、背後から迫りくるようにそびえるラ・セルネ山脈の山々、そして、ラロシュ邸の敷地をとり囲む塀や正門の物々しさだった。


 塀そのものはさほど高くないが、塀の上部にさらに鉄製の柵が備わり、それらの先端は刃先のように尖っていて、ずらりと天に向かい銀色の光を放っている。

 まるで、長槍を集めて組み立てたようである。

 その有り様と、背後にそびえ立つ山が、アベルが今まで見てきた景色とは異なる、なにか鬼気迫るものを感じさせた。


 さらに、正門には、四人の衛兵が緊張した面持ちで立っていた。

 多くの領主の館は、門の左右に一人ずついるのが常であるが、ここはその倍の人数によって守られている。


 正門をくぐると、左右には等間隔にマロニエが立ち並び、その向こうは木立が広がっている。まっすぐに続く広い道を進むと、やがて白亜館と、前庭が見えてくる。


 敷地は広いが、館自体はさほど大きいわけではない。そう感じたのは、あの荘厳なベルリオーズ邸を見慣れてしまったからだろうか。



 前庭には、靴の下半分を埋めるほどの雪が積もっており、そこでベルリオーズ家とアベラール家の騎士隊を出迎えたのは、ラロシュ侯爵だった。


 居並ぶ使用人や騎士らと共に、ラロシュ侯爵はレオンやリオネルに向かって丁寧に一礼する。


「レオン王子殿下、リオネル様、ディルク殿、ようこそおいでくださいました」


 主人らの後方に控えていたアベルは、主人らと挨拶を交わしている赤銅色の髪の侯爵を見やる。ベルリオーズ邸には幾度か訪れていたようだが、今までアベルが直接その姿を目にすることはなかった。


 ラロシュ侯爵は三十六歳だと聞いていたが、実際に見てみると二十代と言われても納得してしまう若々しい風貌である。

 会話はアベルのいるところにまでは聞こえてこなかったが、その顔にたたえられた表情から、温和そうな人物と見受けられた。

 彼の傍らに立っている侯爵夫人も、気品があり、おとなしそうな風情である。


 アベルの耳に届かぬところにて、ラロシュ侯爵はまずレオンに次のように口上を述べた。


「王子殿下におかれましては、このような辺境の地までわざわざ足をお運びいただき、大変恐縮いたしております」

「いや、アベラール邸に来ていたついでだ」


 いつものそっけなさでレオンが答える。


「リオネル様、今回のご出兵、心から感謝いたしております」

「このシャルム左翼の地の平安のため、微力を尽くす所存です」


 二人は穏やかな笑みを浮かべつつ、たしかな視線を交わしあう。

 次に、ラロシュ侯爵はディルクに向かって笑いかけた。


「ディルク殿、お久しぶりです。お噂はかねがね聞き及んでおります」

「噂ですか? 怖いので、どんな噂かは聞かないでおきます」


 先日のカミーユの一件以来、ディルクは自分が従騎士時代に立てた噂に辟易していた。

 そんな彼のひと言は冗談と捉えられ、周辺の者たちのあいだで笑いがまきおこる。


 ベルトランやクロードも含めて、一通り挨拶し終えると、ラロシュ侯爵は彼らを館に促す。


「近い将来リオネル殿の義兄君となられるシャルル殿も、館内で待っていらっしゃいます」


 リオネルは困ったような表情になった。


「いえ、婚約はしておりませんので」

「おや、そうでしたか。ならば、我が娘もリオネル様の花嫁候補にしていただく余地は残っていますか」


 笑顔で言うラロシュ侯爵に、リオネルは軽く咳払いする。


「娘御がいらっしゃるんですか?」


 困り果てているリオネルを見ながら、楽しそうに質問したのはディルクだった。


「ええ」


 ラロシュ侯爵が振り向いた先には、侯爵夫人がいる。


「マドレーヌ、出てきなさい」


 すると、その夫人の背後から、ちらと子供の顔がでてきた。


 顔を出したのはひとりではない。

 父親と同じ髪の色をした少女がマドレーヌだろう。いまひとりは、黒に近い褐色の髪の少年である。


 マドレーヌは、青年らを見ると、頬を染めて再び母親の影に隠れてしまう。


「あれ? かくれんぼかな?」


 笑いながらディルクが言う。

 その光景をまえに、ラロシュ侯爵は苦笑交じりに説明した。


「皆さまがたが、あまりに貴公子然としていらっしゃるので、恥ずかしがっているのでしょう。先程から隠れて出てきません。上の子が十歳になる娘のマドレーヌです。普段はもっと騒がしいのですが……。もうひとりが、八歳になる息子のセザールです。ほら、二人ともこちらへ来て挨拶しなさい」


 ラロシュ侯爵と、侯爵夫人にうながされて、子供たちが青年らのまえにおずおずと進み出る。

 二人はそれぞれ名乗り、頭を下げた。


「十歳か……リオネルとは八歳違い。まったく問題ないんじゃないか?」


 にやにやしているディルクに、リオネルは黙って冷たい視線を向ける。


「そういえば、ディルクも同じ歳ではなかったか?」


 レオンは、自分が同様に十八歳であることを棚にあげて言った。

 ディルクがなにか言い返そうとするまえに、ラロシュ侯爵は躊躇いがちに口を開く。


「いいえ、ディルク殿の色男ぶりは伺っておりますので、大切な娘をお預けすることは……」

「あはは、たしかにそうだ」


 盛大な笑い声をあげたのはレオンだった。

 薄茶色の瞳の青年がなんともいえない表情になると、ラロシュ侯爵はほがらかに笑った。


「冗談ですよ。ディルク殿が真面目な方であることはよく存じています。まだ長いあいだご婚約されていた方を亡くされて間もなく、お心も癒えていらっしゃらないことでしょう。失礼なことを申しました」

「いいえ……」


 なんとも言えぬ顔のまま、ディルクは曖昧に返事をして視線を伏せた。


「さあ、どうぞなかへ。騎士の方々についても、馬を厩舎につないだら、館内で休ませてあげてください。冷えた身体も温まりましょう」


 アベルが侯爵と挨拶を交わさなかったのは、そこまで範囲を広げると、ジュストやマチアスをはじめ、ここにいる皆と侯爵は挨拶してまわらなくなるからである。


 乗ってきた馬を、周りにいた騎士に預けてリオネルらが館に入ろうとしたとき、突然マドレーヌがその脇をすり抜け、馬を降りた騎士たちのなかへ駆けて行った。


「こら、マドレーヌ――」


 侯爵が慌てて声をかけるが、そのときマドレーヌはすでに目的の場所へ行き、目的のものに手を伸ばしていた。


 瞬間、時が止まる。

 そこにいた皆が唖然とした。


「わたしの王子さまです」


 十歳の少女がしっかり握っていたのは、まばゆい金糸の髪と、宝石のような瞳の騎士――アベルの手だった。


 ラロシュ侯爵夫妻が面食らった様子で言葉を失う。

 愛娘がはじめて、父親である彼の前で女らしい一面を見せたのである。驚きや焦りと共に、一抹の寂しさが侯爵のなかにこみあげてくる。


「やれやれ。マドレーヌが選んだのは、リオネルでもディルクでもなく、アベルか」


 現実をつきつけるようなレオンのつぶやきは、ラロシュ侯爵の受けた衝撃に追い討ちをかける。

 すると次の瞬間、そこにいた皆をさらに驚かせる出来事がおこった。


 弟のセザールが、同じようにアベルのもとへ駆け寄り、姉が握っていないほうの手を握って言い放ったのだ。


「ぼくのお姫さまだ」


 八歳の少年のそのひとことに、ディルクとそこに居合わせた騎士らは大爆笑し、リオネルはやや複雑な面持ちになり、侯爵夫妻は愕然として顔を見合わせた。


 そして当のアベルはというと――。


 二人の子供に両手を繋がれながら、いったいなにが起こっているのか、理解できないでいた。








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