表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/132

57






 ラ・セルネ山脈沿いの諸侯らによる山賊討伐が始まるという噂は、またたくまに国中に広まった。


 王宮内でも、一年ほど前から騒がれはじめた北方の話題とともに、山賊討伐の話が飛び交うようになった。


「正騎士隊を動かさぬということは、王は、一部の諸侯のみに犠牲を払わせるおつもりか」

「一部の諸侯というより、王の狙いはベルリオーズ家の弱体化だという話もあるようだが……それが本当であれば、ますます国王派と王弟派の対立は深まるのではないか」

「いや、王は、正騎士隊を動かすまでもないとお考えになったのであろう。リオネル様は聡明な方でいらっしゃるというし、ベルリオーズ家の騎士たちは勇猛だ。ベルリオーズ家が中心になって討伐すれば、正騎士隊の出る幕はないということだろう」

「そんなことは、建前にすぎぬ。リオネル様になにかあれば、この国の正統な王家の血筋が途絶えてしまうではないか」

「しっ、滅多なことを言うな。どこに国王派の貴族がいるかわからないぞ」


 王宮の前庭で、数人の衛兵が集まりひそひそと話している。口ぶりからすると、王弟派寄りの者たちらしかった。


「しかし、そうなると、トゥーヴィーユ隊長のお立場も難しいところだな。ベルリオーズ家とは縁戚でありながら、自ら統率する正騎士隊を動かせぬとあれば、さぞお気持ちも乱れよう」

「さよう、リオネル様は、隊長の甥御であり、従騎士でもあり、隊長殿自ら叙勲された方。それなのに、指をくわえて傍観していなければならないとは」

「仕方あるまい、王のご決断には何人たりとも逆らえぬ」

「ずいぶんと無情なご決断だ」

「いや、王もお考えあってのことだろう。今、正騎士隊が動いたら、その隙に、エストラダが攻め入ってくるかもしれない」

「馬鹿なことを言うな。かの国と、我が国の間には、クラビゾンやネルヴァルなどの諸国があるではないか。それをすっとばして、シャルムに攻め入るものか」

「わからないぞ、かの国は……」


 衛兵が話している途中で口をつぐんだのは、視界の端に、南翼塔から出てきた正騎士隊副隊長と数人の騎士らの姿をみとめたからだった。


 衛兵らが慌てて敬礼すると、その姿を鋭く一瞥して、シメオンは無言で立ち去っていく。

 なんとはなしに気まずい空気が残るなか、ひとりの衛兵が肩をすくめて小声でつぶやいた。


「あの方もなにをお考えになっているかわからぬ。国王派でありながら、上官であるトゥーヴィーユ隊長のことは敬愛しているようだし、だれの味方なのやら」

「さあな。だが、シメオン殿の懐の深いところは、自らよりはるかに年下のシュザン殿を上官に仰ぎ、不満を抱かず、むしろ慕っているところだ」

「シュザン殿には、あらゆる意味で叶わぬと思ったのだろう。あの方には、それだけの器がある」


 雪が舞うなかでの立ち話は、もうしばらく続いたようである。


 一方、前庭を通りすぎたシメオンと騎士たちは、宮殿の中央塔と南翼塔を繋ぐ建物の下の回廊を通り、繋いであった馬に跨った。





 シメオンは騎士館に戻ると、雪のなかで訓練する兵士や従騎士らの姿を横目に見ながら、建物へ入り、正騎士隊隊長の執務室を訪れる。


 扉を叩くとすぐに入室の許可が下り、室内には、野外訓練の風景になかったシュザンの姿があった。

 手紙らしきものに目を通していたらしく、シメオンが近づくとそれをたたみながら視線を上げる。


「シメオン殿、もう終わったのか。ご苦労だった」


 シュザンのねぎらいに、シメオンは頭を下げた。

 シメオンが騎士館から離れて、宮殿の南翼塔まで赴いたのは、近衛騎士隊や衛兵隊と行われる定期的な話し合いの場に参加してきたからだった。


「会議はどうだった?」

「いつもと変わりなく進行しました。ラ・セルネ山脈に巣食う賊の話も出ましたが、正騎士隊が参加しないということから、さほど大きな議論にはならずに終わりました」


 シュザンはうなずくかわりに、皮肉めいた微笑を浮かべた。


「国の軍隊が動かなければ、同じシャルム国内の有事でも、他人事か」


 隊長である彼がこの日、会議に出席しなかったのは、山賊についての話が出ることを予測していたからだった。

 討伐に際して、自分がなにもできない以上、周りからとやかく言われたくなかったのだ。いや、表立ってはなにも言ってこないかもしれないが、同情や、好奇の目を向けられることでさえ、わずらわしい。


「会議ではさほど論じられませんでしたが、宮殿内はこの話題で持ちきりのようです」

「そうだろうな。公の発言ではなく、個人的に話すぶんには責任が伴わないからな」

「貴方のお立場についてもずいぶんと、話題になっていました」


 やや言い難そうにシメオンは報告したが、シュザンが動じた様子はなかった。


「そんなことだろうと思ったから、今日はここに留まらせてもらった。任せてしまってすまなかったな」

「いいえ、そのようなことはかまいませんが……」


 どのみち型どおりの定例会議である。重大な発表があるわけでも、難しい議題を論じて結論を導くわけでもない。シュザンが同席していないからといって、不都合が生じるというものでもなかった。


「……一部では、貴方が国王派と王弟派の両者に挟まれ、ふさぎこんでいるのではないかとか、これを機に正騎士隊を辞するのではないかとか噂する者までいるようです」

「そんなことまで言われているのか。ずいぶんとおせっかいなことだ」

「人は、自分に関わりのないことについては、勝手なことを言うものです。お気になさいませぬよう」

「ああ、わかっている」


 シュザンは苦笑したが、いつのまにか、その笑みは自嘲するようなものに代わっていた。

 机の傍らに置かれた手紙へ視線をやる。


 シメオンの来訪とともに折りたたんだそれは、義兄であるクレティアンからのものだった。ベルリオーズ家が山賊討伐を承諾するまえに受けとったもので、その手紙には、次のように書かれていた。




『親愛なる我が弟、シュザン・トゥールヴィル殿


 そなたに手紙を書くのは、リオネルの騎士叙勲に際して書き送って以来だ。しばらく無沙汰していたことを、許してほしい。


 昨年の暮れに帰館したリオネルから、王宮でのそなたの様子、多々聞かせてもらった。正騎士隊隊長としての誇らしき話ばかりゆえ、アンリエットに聞かせてやりたいとつくづく思ったものだ。

 話を聞きながら、彼女の喜ぶ顔が目に浮かぶようだった。


 アンリエットが世を去って十二年。忘れ形見のリオネルは十八になり、父親の私から見ても思慮深く、心優しい立派な青年に育った。それは、けっして、私だけの力ではなく、ベルトラン・ルブロー、そしてシュザン・トゥールヴィル、そなたらが共に育ててきてくれたからだと思っている。


 そなたのもとで武術の腕をあげ、そなたの手で叙勲されたことを、頼もしく、そして嬉しく感じている。

 またその間、幼馴染みであるディルク・アベラール殿、それに、レオン王子殿下とも親交を深めることができたようだ。それも、そなたが、彼らの師であったからこそだと私は確信している。そなたには心から感謝している。


 さて、先日、そなたからもらった手紙を読ませてもらった。山賊討伐について心配をかけてすまいないと思っている。

 この度の一件について、そなたに多く語ることはない。というのも、できうるかぎり討伐への道を回避しようと考えてはいるが、このまま山賊を野放しにしておくわけにもいかぬゆえ、いずれ受けいれねばならぬことになるだろうからだ。


 ただし、そなたに伝えておかねばならないことがひとつだけある。それは、そなたが、こちらの状況を案じたすえに、なにかしらの行動に出てはならないということだ。そなたが動けば、そなたを正騎士隊の隊長の座から追い落とそうとする者の思う壺となる。それは、我々にとっては、けっして歓迎すべき事態ではない。

 山賊討伐の命を受け入れようとも、受け入れずとも、ベルリオーズ家やリオネルは大事ない。我らの決断に左右されることなく、そなたには、今の己の立場と役目に徹してほしい。このことだけは、必ず守るように。


 そなたのさらなる活躍を、はるか、ここベルリオーズの地から願っている。


 クレティアン・ベルリオーズ』




 ベルリオーズ家が直面しているこの状況に対し、なにもできない自分の立場をもどかしく思っていた。

 しかし、このような手紙を受けとったために、シュザンは余計になにもできなくなってしまった。

 今、自分が行動を起こしてはいけないことを、シュザンは、だれよりもよくわかっている。それが、この手紙の存在によって、悩む隙もなくなったのだ。


 これは、クレティアンの気遣いと、優しさである。

 シュザンがそれらのすべてを理解したうえで、思い悩み、心を煩わせることがないように、この手紙を書いてよこしたのだ。


 その結果、たしかにこの件で悩む余地はなくなったが、そんな義兄の気遣いがわかればこそ、シュザンの胸の奥には、やりきれない気持ちが膨らむ。

 くだらない噂が流れるのはかまわないが、それらはシュザンの心情からまったくかけ離れているわけではないので、どうにもすっきりしない。


 おそらく今後、国王派と王弟派の対立が深まれば深まるほど、シュザンはこのような状況に置かれることが増えるだろう。そのとき自分は、どこまで王弟派の者として、そしてどこまで正騎士隊隊長として行動すべきか、問われることとなる。


 だが、シュザンは理解していた。自分がこの立場にいるからこそ、他のだれにもできないことがなしえるのだと。国王派の手から、王弟派の者を守ることができるのだと。


 自らの釈然とせぬ気持ちに目をつむり、己のできうる限りのことをしていくしかない……シュザンはあらためてそう思うのだった。





+++





 朝餉までには、まだ少し時間がある。


 食堂に隣接する大広間では、騎士たちがいくつかに分かれて集まり、話をしていた。

 二日前の夜に到着したアベラール家の騎士らもそこに混ざっている。主人らの親睦が深いせいか、臣下である彼らも互いに好感を抱いているようだった。


 この日、朝食前にめったに見ることのないアベルの姿が、そこにはあった。

 普段は、早くても皆が食堂の席に着くぎりぎりの時刻にしか現れないアベルである。


「お、アベル、どうしたんだ? 今朝は妙に早いじゃないか。なにか用事でもあるのか?」


 大げさに驚いた顔を作りながら、声をかけてきたのはラザールだった。


「今日は、空から槍でも降ってくるかもしれないな」


 それに同調したのは、年配の騎士ナタルである。


「いや、この際、長剣と盾まで降ってくるかもしれないぞ」

「遠征前に、それは勘弁してほしいな」


 アベルの周囲には、見慣れぬ者も含めて六人ほどの騎士らがいる。連日、早起きのジュストは別の輪にいた。

 皆に驚かれて、アベルはやや気まずい思いで苦笑いする。


「そのように、百年に一度の奇跡が起こったような驚き方をなさらないでください」

「百年に一度の奇跡というよりは、百年に一度の珍事ってところだな」


 ラザールの言葉に皆が笑い、一方で、アベルは赤面した。


「昨日は一日見かけなかったが、どこかへ行っていたのか?」

「ええ、まあ……」


 曖昧に答えると、見知らぬ騎士がアベルをのぞきこむ。


「この者が、我らがアベラール家の嫡男ディルク様と、新年の余興で互角に戦ったという少年か?」

「いえ……けっして互角になど――」


 アベルが否定しかけると、ベルリオーズ家の騎士がそれを遮り、得意げにうなずく。


「そうそう、バルナベ殿。この子が、ベルトラン殿の従騎士で、名をアベルというんだ。まだ十五歳だというのに、相当な腕を持つ」

「ディルク様は、このような細身の少年に負けたのか……」

「いいえ、負けてなどいらっしゃいません。実力はあきらかにディルク様のほうが上回っていました。ディルク様は、わたしの肩を裂いたことに動揺なさり、その隙に、わたしがディルク様の剣をはらったのです」

「それは聞いている。それにしても、ディルク様といい勝負をするなど、きみの剣技はよほど優れているのだな」


 感心したように、アベラール家の騎士であるバルナベという若者はアベルを、頭の天辺から足の先まで眺めやる。


「それに、とても美しい」

「そうだろう、見目も良いうえに、性格もよい」


 ラザールは自慢げに胸を張る。


「おまえのアベルではないだろう、そんなに得意気になるな」


 老騎士ナタルが冷ややかな声音で言うと、


「ベルリオーズ家の、アベルだ」


 と、再びラザールはそっくりかえる。

〝ベルリオーズ家のアベル〟と言われたことが、くすぐったいながらも嬉しくて、アベルははにかみ、うつむいた。


 その様子に、皆が一瞬目を奪われる。

 十五歳の従騎士のふとしたしぐさが、可憐な少女のように、なんともかわいらしいのだ。


「このような少年では、ディルク様もさぞ戦いにくかっただろうな」


 アベラール家に仕える、もうひとりの騎士がつぶやくと、


「おれの心境をわかってもらえたかい?」


 と、若者の声が突然会話に加わった。

 皆が視線を向けた先には、その声の主であるディルク、そして、リオネルとレオンがいた。

 各々の主人の登場に、騎士らは深く敬礼する。


「おはようございます、王子殿下、リオネル様、ディルク様」


 ひとりが代表して挨拶を述べる。

 ディルクは笑顔を返してから、話を続けた。


「本当に、あの試合は引き受けたくなかったよ。そのうえ怪我をさけてしまったんだ、もうどうしようもない気分だったね」

「受けなければよかったではないか」


 レオンがこともなげに言い放つと、ディルクは眉をひそめる。


「王子殿下と違って、一介の貴族はそういうわけにはいかないんだよ」

「試合を受けたのはしかたがないが、怪我をさせることはなかったのではないか?」


 追い打ちをかけるように発言したのは、親友のリオネルである。


「……やれやれ、はりむしろだ」


 ディルクは肩をすくめた。

 彼をかばうためになにか言いかけたアベルに、リオネルが近づき、気遣わしげに目を細める。アベルは、口を開けなくなってしまった。


「もう大丈夫なのか?」


 彼女が泣きはらした状態で雪のなかにいたのは、つい昨日の夕方のことである。

 リオネルは心配でしかたのないという顔をしていた。


「すみません、昨日は一日何もせずご迷惑をおかけいたしました。もう大丈夫です。ご覧のとおり、今朝は、すっきりとした気分で早起きしています」

「…………」


 けっして自慢できるほど早いというわけではないが、たしかにアベルにしては、相当な早起きである。


「無理を、しないでほしい」


 アベルは返事のかわりに、まっすぐに見つめてくるリオネルの眼差しに、わずかにほほえみを返した。


「なんだ、アベルは昨日、ごろごろしていただけだったのか」


 ベルリオーズ家に仕える騎士の一人が言うと、リオネルは、穏やかだがきっぱりと答える。


「アベルは体調を崩していたんだ。今日もあまり無理をさせたくないから、アベルに力仕事などはさせないようにしてほしい」


 過保護なほどの言いつけだが、周囲の騎士たちに、さほど驚いた様子はない。リオネルがアベルを気にかけているのは、皆、とうに気づいていることだった。

 体調を崩したアベルを抱きかかえて帰館し、自らの寝室の隣に部屋を用意し、それ以降も、常に親が子を見守るように接している。

 気がつかぬはずがない。


「心得ました」


 生真面目に返事をしたのは、老騎士のナタルである。


「大丈夫ですよ、リオネル様。こう見えてもこいつはけっこう頑丈ですから。怪我したときも、痛くもかゆくもない顔をしていましたし。なっ、アベル」


 ラザールはそう言って、アベルの背を力強く叩いた。よろけそうになったが足に力を入れて踏みとどまり、表情を曇らせたリオネルに対して、アベルはなんとか笑って見せた。


「そ、そのとおりです、リオネル様。ご心配には及びません。遠征に向けて、今日から惜しみなく働くつもりです」

「それは心強いな」


 バルナベが深い笑みでうなずき、己の主人に向かって言う。


「なかなか気概のありそうな者ですね、ディルク様」

「うん、気概は充分にあるよ。がんばりすぎるくらいだけどね」


 ディルクは、リオネルの様子をうかがいながら、小声でつぶやいた。


 リオネルは、けっして軽やかな面持ちではない。

 山賊討伐それ自体よりも、そこへアベルを連れていくことのほうが、彼にとっては不安なことだった。

 ……ベルトランに、己の心情を打ち明けたのは、昨夜のことである。





『アベルを、我々と共にラロシュ領に連れていくかどうか、実は決めかねている。この遠征で、彼女の身が危険にさらされないか心配だ』


 そう告げると、ベルトランは腕を組み、難しい顔でしばし考えこんでから、ゆっくり口を開いた。


『おまえの気持ちはわかる。愛する者を危険な場所に連れていきたいなどと思う男は、この世の中にはいない。だが……ここに、あの子独りを残していくことが名案だとも思えない』


 リオネルは、小さくうなずく。

 討伐に同行させるかどうか迷っていると告白したが、ベルトランが言ったことは、彼自身も同様に考えていたことだからだ。

 そばに置いておきたい。

 だが、自分が赴く先々には危険が伴う。

 その矛盾に葛藤が生じ、自分ひとりでは判断がつきかねていた。


『アベルが、雪のなかで、独り泣きながらなにを思っていたのかはわからないが……アベルは、おまえと離れたら、なんというか』


 ベルトランは珍しく言い淀んだ。


『離れたら?』

『うまく言葉が見つからないんだ。アベルはおまえと離れたら、なんというのか、そうだな』


 同じ言葉を繰り返してから、ベルトランは軽く溜息をつく。


『そう、あの子の心は、独り暗闇のなかに沈んで、もうだれの手も届かないところへいってしまうような気がする』

『……おれは、彼女の心を支える存在たりえているだろうか』

『おそらく、アベル自身が気づいている以上に、あの子はおまえを頼りにしている』


 リオネルは、手のひらを自らのひたいに当てる。


『そうだろうか』

『ああ』

『……………』

『連れていってやれよ。それが、あの子の望む生き方だ。安全な場所で独り、傷ひとつなく平和に暮らすよりも、おまえと共に戦い、傷つき、ボロボロになり、たとえ命を賭したとしても、おまえのそばで、おまえを守りぬきたいんだ。リオネル、おまえには辛いことかもしれないが、今は、それが彼女の幸せなんじゃないか』


 今度は、リオネルが大きく息を吐き出した。


 自ら命を絶とうとしていたときの、彼女の言葉――生きているのが辛い――とは、いったいどのような心情なのだろうか。

 なにが、彼女をそこまで苦しめるのだろうか。

 死を恐れぬ……むしろ、どこかで死を望んでいるようなふしがある少女。

 そんなアベルを、どこまで自分の手で守りきれるのか――。


 リオネルは、筋骨たくましい騎士たちに囲まれて、ひとまわり小さく見える少女の笑顔を見やって、再び心中で溜息をついたのだった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ