G 悪意無き悪戯の計画
気付かない間に眠っていたらしい。俺は固まった体を伸ばしながら周囲を確認する。
「…やっと起きた」
ユリエが呆れたような表情で言う。いつの間にか部室で寝てしまっていたらしい。
「…授業中も寝てるくせに」
まるで見た来たようにユリエが言う。無論、言い返すことはできない。
「私たちの『お守り』と言っていたのはどこのどなたでしたっけね」
サユリが嘲るように言う。
「まだ根に持ってんのか」
「いえいえ、そんなことないですよ。ただネタとして楽しんでいるだけです」
サユリはとても楽しそうに言う。
「…やっぱり私たちがお守りしてるんだと思う」
「普段は美樹さんがお守りをしているみたいですけどね」
そんな自覚はないし、そんなはずはない。
「もしかして、美樹さんに会えなくて寂しかったりとかします?」
サユリは意地悪そうな笑顔で言う。
「寂しいわけないだろ」
「…」
ユリエは何かを考え込むように首肯する。
「そうですか? 少なくとも美樹さんとの会話と、私たちとの会話では何か違う気がしますけど」
「そりゃ、幼馴染みなんだから、他のやつと話す時とは違うだろ」
「そうですかねぇ――」
「…そういえば晃仁たちは何をするの?」
サユリの言葉を遮るようにユリエが言う。
「……え、あぁ、メイド喫茶だ」
「あら、今時ですね」
「…楽しそう」
こいつの言う「楽しそう」と一般に言う「楽しそう」は意味が正反対のはずだ。少なくともこいつらが言う「楽しそう」は俺たちにとったら「楽しくはない」となる。
「熱い物を運んでる店員を転ばすのがユリエは好きでしたね」
サユリがしみじみと言う。
「…熱ければ、熱いほど、その後の展開が面白い」
ユリエが満面の笑みで言う。
「お前らが結界の中から出れないのが俺たちにとっては幸いというわけだな」
「…ここから出れない(・・・・)からつまらない」
「そうですね。ユリエは文化祭が好きですのにね。可哀想に」
サユリがオヨヨという感じで泣いているフリをする。
「美樹にここまで何かを衣装のまま運んでもらうからそれで我慢しろ」
承諾されるかは解らないが。
「…晃仁はしないの?」
な、何を?
「そりゃ、メイド姿に決まってるじゃないですか」
「するか!」
そんな叫びをした直後、完全下校時間を告げるチャイムが鳴った。なので、俺は部室の扉を開け廊下に出た。
「似合うと想いますよ?」
「うん。面白いぐらいに似合う」
「ネコ耳とか付けましょうか」
「尻尾と鈴も付けるといい」
「あ、いいですねそれ」
後ろで二人が笑いながら話しているがスルーする。