A 全ての始まりよりさらに前
翌日、ホームルームを残すのみとなった夕方。俺の後ろの席では、とても楽しげにしている美樹の姿があった。
「ずいぶんと楽しそうだな」
「そりゃぁ、これから皆が感涙するほどの素晴らしい提案をするんだから楽しくもなるわよ」
美樹はニコニコとした表情で言う。
「クラス展示の提案で誰が感涙するんだよ」
「するわよ。だって、私が言わなきゃ誰も提案しなくて、くだらない展示をすることが目に見えていたのに、私が彗星のごとく、凄まじい提案をするんだもの。実際に感涙しなくても、心は洪水になってるはずよ」
美樹はフンと鼻息荒く言う。ま、お通夜みたいな教室よりはマシだろうが。
「それに、反論の余地のない完璧なまでの内容だからすぐに決まるわよ」
いや、威圧の間違いな気もするが、言うまい。
「拍手喝采は間違いないわね」
「かなり自信があるんだな」
「当たり前よ! 宇宙世紀な帝国の演説や反逆する人たちの演説くらい、人身を掌握する演説をして、みんなが思わず『ユアハイネス』って言ってしまう雰囲気にするんだから」
さすがにそこまではやめてもらおう。いくらなんでも、学校でやるネタじゃない。というか、どっちも反抗する意味の演説だったような。
「いいじゃない。退屈な学園生活に対する反抗ってことで」
よくはないと思う。そもそも、学校行事だからな。
「解ってるわよ。そこまでは冗談としても皆が歓喜するほどの演説にはするつもりよ」
そうかい。それぐらいなら楽しみにしておいてやるよ。
「えぇ、楽しみにしてなさい」
その時、ちょうど教師が入ってきてホームルームが開始された。まず、連絡事項が話され、それが終わるといよいよ文化祭の出し物の話へと移った。
「メイド喫茶をやるのはどうでしょう!」
展示の提案を教師が振ったと同時に美樹は勢いよく立ち上がり、開口一番そんなことを言った。さらに、美樹は、メイド喫茶が文化祭において、どれくらい儲かるのかとか、田舎で珍しいことをやることの注目のされ方とその集客力について、さらに、都会ではもう普通になってしまっているメイド喫茶が田舎ではどれだけ珍しがられているかを演説しまくった。それは、反論の隙が無いほど…、というより、有無を言わせない勢いだった。その勢いに流され、そのまま、メイド喫茶に決定してしまった。
「見た? 私の演説の素晴らしさ」
あぁ、独裁が生まれる瞬間はしっかりと見たよ。
「失礼ね、あの後、皆ノリ気で分担決めてたじゃない」
確かにそうであったかもしれない。
「とりあえず、私これから文化祭実行委員に話してくるから先帰ってて」
そう言うと美樹は教室を後にした。
「文化祭実行委員が大変そうだな」
俺はそうボソッと呟いて、机に突っ伏す。