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学祭ホリック  作者: 葉月希与
第二章 彷徨う意識のその先に
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L 恋する乙女の初デート計画

 扉を開け、部室へと入る。見ると、今日はユリエとサユリの他に眞梨亜がいた。ここ最近姿を見なかったので、かなり久しぶりに感じる。

「眞梨亜、久しぶりだな」

 俺はそう言いながら定位置へと座る。

「えぇ、少しお話したいことがありまして」

 眞梨亜は少し恭しく言う。

「ん? どうした、そんな改まって」

「…失恋したとか」

「あら、それは大変ですね。また、こちらにいらっしゃいますか?」

 二人は楽しげな笑みで言う。

「……ち、違いますし、行きません!」

 眞梨亜は少し怯えながらも否定した。

「残念ですね。あれほど面白い物件もそうはありませんでしたのに」

「…今までで一番面白かったのに」

「そうですね、とても居心地がよかったんですけどね」

「…生気も吸い放題だったのに」

「もう少しで瘴気が出せるぐらいになったはずですのに」

「…あそこで浄化されなければもっと楽しめたのに」

 今度は二人してさも残念そうに言う。だが、顔には笑みが浮かんでいる。

「晃仁さん、この二人、また私を取り込もうと画策してるんです」

 眞梨亜が助けを求めるような表情で言ってくる。

「いや、もう大丈夫だとは思うぞ」

 美樹もいるし、もしもの時は浄化するだろうから。

「…他人任せ」

「ですね。自分では何もできないくせに」

「…ほんとに無能」

「美樹さんという傘の下でのうのうとしていますものね」

 なぜここまで言われなければならない。

「落ち込まないでください。この二人は人を貶めるのが趣味みたいな存在ですから」

 眞梨亜が慰めてくれる。うん、こいつらがそういうのだってのは知ってる。

「…傷の舐め合い」

「ただ私たちに遊ばれることしかできない幽霊と、弄ばれることしかできない人間ですのに」

「…低脳同士」

 無能よりひどくなった!?

「駄目ですよ、ユリエ。あんまり本当のことを言っては、無いに等しいプライドが傷ついてしまいますよ」

 サユリはクスクスと笑いながら言う。

「二人共いい加減にしてください! 晃仁さんを虐めて何が楽しいんですか。だいたい、晃仁さんは無能とかじゃないです。やるときは凄くやる人なんですから」

 眞梨亜、慰めてくれてるのは解るんだけど、微妙にフォローになってない。

「…サユリ、なんかアレ、ノリ悪い」

 ユリエが眞梨亜を指差して言う。

「そうですね。ケーワイとかいうやつですね」

 サユリが眞梨亜を見ながら言う。

「な、なんですか、ケーワイって」

 眞梨亜は意味がわからないという表情になる。ま、この時代の人間ではないから当然なんだが。

「…あんたみたいに、人が楽しんでるのをぶち壊しにするやつのこと」

「でもユリエ、この人は天然でこれですから、理解するのは無理だと思いますよ」

 サユリがユリエに耳打ちするような仕草をしながら、声量を抑えることなく言う。

「……気にするな眞梨亜。こいつらが言ってるのは妄言みたいなもんだ。少なくとも俺はそうは思わないから」

 ケーワイが『空気読めない』の略語であることは伏せ、フォローをする。

「ありがとうございます…」

 眞梨亜は少し沈んだ感じで言う。

「…面白くない」

「えぇ、全くです。お二人とも単独ならそれなりに楽しませてくれるんですが、二人揃うとこうも私たちを不快にさせるんですね」

 ユリエとサユリが小さくため息をつく。なるほど、どうやら、俺と眞梨亜というセットはこいつらにとっては天敵のようなものらしい。完全に痛み分けな部分はこの際無視しよう。

「で、話ってなんなんだ?」

 すっかり置き去りにされていた話題を戻す。

「…あ、はい。その、明後日の文化祭なんですが、私…その…、彼とデートすることになったんです…」

 眞梨亜は顔を赤らめて言う。

「…別れればいい」

「縁切りならお手伝いしますよ」

 二人が不穏なことを言っているのは無視して、

「へぇ、よかったじゃないか。でも、別に俺に言うことはないと思うけど」

「いえ、晃仁さんと美樹さんは私たちのキューピットみたいな方ですから、ご報告をしたほうがいいかと思って」

 律儀というべきか、なんというべきか。

「あ、そうでした。美樹さんにもこのことを伝えておいてください」

 眞梨亜は満面の笑みで言う。

「あ、あぁ、伝えておくよ」

 俺はそう言ってふと時計を見る。少し来るだけだったが、それなりに時間が経っていたようだ。

「じゃ、俺、帰るから」

「はい。では」

 そう言って、眞梨亜がにこやかな笑顔で送ってくれる。俺はそのまま部室の扉を開け、廊下へと出る。

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