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学祭ホリック  作者: 葉月希与
第二章 彷徨う意識のその先に
4/27

D 普通通りのようで普通通りではない風景

 ドアを開ける。

 目に飛び込んでくるのは黄昏時のオレンジに染まった部室。

「よっ、二人とも」

 俺は部屋の隅にいるユリエとサユリに適当に挨拶をし、定位置へと座る。

「晃仁さん、美樹さんの様子はどうですか?」

「ん? あれからずっとはりきってるな。今日も準備で残るとか言ってたし」

 今週の初めに美樹が提案してからこっち、やつはずっとはりきっていたりする。

「そうですか、それは大変そうですね。で、晃仁さんは結界を開放する鍵みたいのは貰ってないんですよね?」

 サユリは少し探るように言う。

「貰ってるわけないだろ。それに、監視役がいないのにお前達がそこから出たら何するかわからないし」

「……無能」

 ユリエがボソッと言う。無能って…、せめて役立たずぐらいにしてくれ。…それでも酷いのには変わらないが。

「……でも、無能の方が雑魚っぽい」

「それに、ユリエなりに気を遣ってあげてるんですよ」

 サユリのその言葉にユリエはうんうんと頷く。どういう気の遣いかただよ。

「いえ、役立たずでは言葉が足りないけど、それを補おうとすると、存在を否定しないといけなくなってしまう。でも、それを言ってしまうのは申し訳ないので、無能という言葉に終着したということですよ」

 サユリはにこやかな笑みで言い、ユリエは口元にだけ笑みを浮かべて頷く。存在を否定されなくてよかったと喜ぶべきなのか、こいつの中で俺がとんでもなく最下層の部類に位置していることを嘆くべきなのか。考えたくもない思考に囚われそうになる。

「……私たちの望みを叶えればいいと思う」

 とんでもなく無理なことを言われた。

「簡単ですよ。この結界を解いて、私たちが喜ぶことを提供すればいいんですよ」

 お前達が喜ぶことと、俺たちが苦しむことが同義なので、その提案は断固として拒否したい。

「…サユリ、こいつはあれに尻に敷かれてるからあいつに頼まれたりしないと行動しないし、意志薄弱だし、巻き込まれ体質で外野気取りだから無理だよ」

 尻に敷かれてるってなんだ。そんなつもりはないぞ。それに、意志薄弱ではないと思う。巻き込まれ体質かもしれないけど。

「そうですね。美樹さんのイエスマンですものね。彼女が何か言わないと行動しませんもんね。私たちがどれだけ退屈かとか考えもしないんでしょうね」

 サユリが染み染みという感じに言う。

「…退屈は人を駄目にするのに」

 人じゃねぇだろ。

「ツッコミだけはちゃんとしているんですけどね」

 なんだ、そのダメな子を見る親のような視線は。

「…どうせ、退屈な大人になるんだよ」

「そうですねぇ、そうなれば堕とし…いえいえ、惨めすぎますね」

 一瞬、不穏な単語を言いかけたことはスルーしておこう。

「…で、結局、美樹からこの結界について何か言われてないの?」

 ユリエがジト目で言ってくる。

「何かってなんだよ。お前らのお守りをしろとかしか言われてねぇよ」

「聞きましたか、ユリエ、お守りですってぇ」

 サユリが井戸端会議の主婦のような手つきでユリエに言う。

「…むしろ、こっちがお守りをしてあげてるのに、なんて図々しい」

「ですよねぇ、美樹さんならともかく、この人間風情が私たちをお守りとか、ねぇ」

 サユリはやれやれと言った感じで言い、ユリエはそれに対して俺を睨めつけたまま首肯する。というか、もしかして責められてる?

「…責めてるというより、蔑んで嘲って、卑下してる」

 踏んだり蹴ったりじゃねぇか。なんでここまで言われなきゃなんないんだ。

「…退屈しのぎ?」

 なぜに疑問形。

「うぅん、あまり面白くはないですね、そのツッコミ」

「…つまらない。ボケ殺し。ツッコミ系主人公として失格」

 別にツッコミ系主人公のつもりはないんだが…。

「とりあえず、お前らの暇つぶしに付き合わされたってだけか」

「…半分くらいは」

「ですね。私たちの『お守り』とか言ったことへの反応は殆どが本気でしたけど」

 サユリは満面の笑みで言う。

「そうかい、じゃ、そのことに関しては謝るよ」

「…舐めきってる」

「ですね。動物園で猛獣に叫んでる子供並です」

 二人がそんなことを言っているのには耳を貸さず、俺は机へと突っ伏す。妙な眠気が急に襲ってきたので、一眠りすることにする。

「眠って逃げるとかひどい」

「まったく、これでお守りとか言ってたんですかね」

 意識が埋没する寸前、二人がそんなことを言っていた。当然ツッコむことなどできないのだが。

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