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学祭ホリック  作者: 葉月希与
第六章 願い叶う
25/27

3-2

 俺たちが来たのは部室の前だった。

「部室? ここにいるってことは…」

「そういうこと。さ、入るわよ」

 そう言って美樹は部室のドアを開けた。中を見ると隅の結界で囲まれた所で、ユリエがグッタリと仰向けに倒れていた。さらに、その横で、サユリが苦しそうに蹲っていた。しかも、若干薄くなっている。

「サユリ、どうしたの?」

 美樹は物知り顔で尋ねる。

「…ち、力が…消え、ていくみたいで…あ、あの…たす、けて…もらえ、ます?」

 声も絶え絶えにサユリが言う。まさに懇願といった感じにも見える。

「そうね、ユリエのためにも助けてあげることはやぶさかではないわ」

「…ほ、んと…です、か?」

「えぇ、ただし、いろいろ説明してくれたらだけど」

 美樹の顔は最高の笑顔だった。逆に怖い。

「……」

 そこでサユリは少し黙り込んだ。その間もサユリは荒い息をしている。

「どうするの? このままだと、あなた消滅しちゃうわよ? ま、あなたが消えれば連鎖的にユリエも消えるけど」

 完全に脅迫しているように聞こえるのは俺だけではないはずだ。

「…わかり、ました…なので、少しだけ…力を、ください…」

「力はあげないわよ。ただ、術で少し和らげてあげるだけ」

 そう言うと美樹は結界を一度解き、サユリの頭に手を乗せた。

「はい。とりあえず、これで喋るのには問題ないでしょ」

「…はい」

「よかった。じゃ、あなたが何をしたのか、晃仁にも解るように説明してあげて」

 サユリは一拍間を取ってから話し始めた。

「…この結界に入ってから半年、ユリエからだいぶ邪気が抜けて、私と双対という関係を保つのには難しくなってきていました。

 さすがに、まずいと思いました。双対が保てなくなったら二人とも消滅してしまいますから。

 だから、ユリエの邪気を再び元通りの度合いに、私と双対を保つのに相応しいぐらいに戻そうと思ったんです。

 それで、まず、ユリエと同じ魂を持つ人間を見つけ出しました。それから、ユリエの意識を完全に掌握できるようにしてから、彼女の魂から断片を作りだして、カードゲームに乗じて、晃仁さんに憑けました」

 どうやら、あの時感じたのは気のせいではなかったらしい。

「その後は、晃仁さんが、その人間と接触するのを待ちました。予想より少しかかりましたが無事、魂の断片はその人間に移りました。

 後は、その人間が日々生活するなかで受けるたり、作り出したりする邪気をその断片が集めて本体に送るだけだったんです。でも、媒体に使った晃仁さんの力が私の想定以上に強くて、断片が暴走を始めて、本体を飲み込み始めたんです。一度、晃仁さんが見た薄く見えたユリエというのは、それこそ本体が飲み込まれ始めていた兆候なんです」

「で、あんたがどうにかしようとしても、断片を直接消さないといけないからここまでの騒動になったわけね」

 サユリの言葉を引き継ぐ形で美樹が言う。

「なぁ、その、魂の断片ってのは結局なんなんだ?」

「本来は、魂から削り取った一部のことなんですけど、この場合は一部をコピーしたものって感じですかね」

 遥華が少し考えるようにしてから言う。

「まったく…、晃仁を使うからこういうことになるのよ。だいたい、遥華が気付かなかったら、あなた今頃消滅してたわよ」

「た、確かにそうです…、あの?」

 サユリは申し訳なさそうに言う。

「何?」

 一方の美樹は少しぶっきらぼうに言う。

「完全に元に戻してくれませんか? お話することは全部お話したと思うんですが」

「…、遥華はどう? 何か聞きたいことある?」

「え? いえ、私は別に…。それより、可哀想だから戻してあげて」

「…はぁ、遥華は優しいわね。サユリ、遥華に感謝しなさい」

 言うと再び美樹はサユリの頭に手を乗せる。すると、サユリの顔色はさっきよりはまともになり、表現は変だが生気がある感じになった。それと同時に結界が元に戻る。

「ありがとうございます。美樹さんたちのおかげで、ユリエも助かりました。それに、今回の本来の目的も達成しましたし、怪我の功名ってところでしょうか」

 元気になったサユリはさっきとは打って変わっていつもどおりの雰囲気へと戻った。

「…少しは反省しなさい」

 美樹は小さくため息を吐きながら言う。

「…う…、…うぅ…」

 その時、サユリの隣で昏睡状態になっていたユリエが目を開ける。

「どうやら、戻ったようね」

「ユリエっ! 大丈夫ですか?!」

 サユリはゆっくりと上体を起こすユリエに飛びつかんばかり勢いでそばに寄った。

「…? サユリ…? みんなも…、…どうしたの?」

 ユリエは不思議そうに小首を傾げる。

「サユリ、今回の一番の被害者にちゃんと説明してあげなさい」

「も、もちろんです…」

 サユリは少しムッとしたような感じに言い、さっき俺たちにしたのと同じ説明(言い回しが少し変わってる気もしたが)をユリエにした。ユリエはフムフムと頷きながらそれを聞いていた。

「――というわけでユリエには少し迷惑をかけたかもしれませんが、私としてはユリエが無事に戻ってきてくれたことに感謝したいぐらいです。後、ユリエにとっても怪我の功名になる結果があったはずですし」

「…ありがとうサユリ。私、サユリといられなくなるのは嫌だからこうしてくれて良かった。後、あの女の子と一緒になってたときも楽しかった」

「あら、少し意識があったんですね」

「…うん。あの子といた少しの間だけだったけど。でも、結構楽しかった」

「ユリエが楽しめたのならそれは素晴らしいですね」

 こいつらが楽しいということは彼女は相当大変なことになっていたのかもしれない。

「ねぇ、遥華…、これを見ても可哀想って思える?」

「……えっとぉ…。で、でも、少しは反省してるみたいだし…。それにたぶん、もうこういうことはしないと思うよ。ね?」

 遥華はそう言って、サユリたちに同意を求める。

「えぇ、する必要がなくなりましたから」

「…私じゃできないし」

「……はぁ、まぁいいわ。一応言っておくけど、今度似たようなことしたら問答無用で消すからね」

 美樹は深いため息を吐いた後、二人に向かってそう言った。

「わかってます」

「…うん、解ってる」

 二人は満面の笑みで言う。

「じゃ、とりあえずここで大人しくしてなさい。これから私たちは文化祭を満喫してくるから」

「晃仁さん、道案内お願いしますね」

「あ、あぁ」

 そう言うと美樹はサユリたちの周りに結界を張り、先陣を切って部室から出て行ったのだった。

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