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目を開けると視界の端の方に心配そうな遥華の顔が見えた。
「…は……る、か?」
寝呆けた声で呟く。それを聞いた瞬間、遥華の顔が少し綻ぶ。
「よかった…、抜け出せたんですね」安息するように言い、美樹がいるらしい方を見て「美樹ちゃん、晃仁さん目を覚ましたよ」
上体を起こし、遥華が見ている方に視線を向ける。
「ったく、呑気にデレデレしてんじゃないわよ。しかも、人のお腹に射的の弾を当てるし…」
そこでは、半透明な紫色の物体と対峙している美樹の姿があった。そして、その物体の中を見ると、ユリエのような姿をした少女がいた。
「…覚えてます? あれが、瘴気を出してた大元です」
「あぁ、なんとなく覚えてる」
自信がないのは、最初に見た時と微妙に違うからだ。最初の時は外を囲んでいる物体は無かったし、そこにいたのもユリエではなく優俚佳という少女だった。
「遥華、晃仁はほっといてこっち手伝って」
「うん。晃仁さんはここにいてください」
そう言うと遥華は美樹の方へとスタスタと歩いていく。ほんと目が見えないとは思えない動きだ。
「餌はなくなっちゃったけど、もういい! ここにいる全員、飲み込んでやる!」
優俚佳がそう叫ぶと囲んでいる物体から蔦のようなものが伸び、美樹たちに襲いかかる。
「…」
遥華が中空に何か印を書くと蔦は光の粉のようになって消えていった。
「…」
さらに美樹が何かを囲うような仕草をすると、紫色の物体を、濃いオレンジのような色の光が包み込んだ。
「…っ、結界! また、こんなのに閉じ込められちゃうの!」
少女は怯えるように叫ぶと再び蔦を出して結界の壁に当て、破ろうとする。
「落ち着きなさい、今助けてあげるんだから」
美樹はやれやれと言った感じで言う。
「ユリエさんと、優俚佳さんでしたっけ。二人共助けますから、安心してください」
美樹が星型の印を書き、
「器はあるべき者へ、汝はあるべき姿へと戻れ」
と言った。すると、ユリエはその場で苦しみ出し、
「くっ…、…い、いやぁぁ!」
と叫ぶと気を失うように倒れこむ。その瞬間、紫色の物体は結界と共に消滅し、後にはグッタリとうつ伏せに倒れている優俚佳とその奥の方でガクガクと怯えるように震えている半透明のユリエがいた。
「い、いや、き、消えたく、ない」
半透明のユリエは震える声で言う。
「安心しなさい。魂の断片であるあなたの本来の役目が果たされるだけだろうから」
美樹が珠々をしまいながらユリエに言う。
半透明のユリエはそのまま消えていった。
「さて、これで、九割くらいは終わりかな」
やれやれという感じに美樹が言い、遥華の手を取ってこっちへと歩いてきた。
「ってことはまだ終わってないのか?」
「うーん。黒幕がいるからねぇ、その子に事情を聞かないと」
「でも美樹ちゃん、あんまり酷いことしちゃダメだよ」
「しないわよ。向こうも今頃は大変なことになってるだろうし」
美樹は呆れるような表情で言った。
「なぁ、さっき言ってた魂の断片ってなんだ?」
「それも含めて黒幕に教えてもらえばいいじゃない」
そう言うと美樹は遥華を連れて歩き出した。
「…黒幕、ねぇ」
そう呟き、俺も後に続く。




