O 心よりも魂に
ふと気付くとそこは賑わう校舎の廊下だった。文化祭当日だ。
「晃仁さん、次どこ行きます?」
隣を見ると遥華がこちらを見て聞いてきた。
「…え、あぁ、そうだな」
俺は考えるように辺りを見渡す。
「そうだ、お化け屋敷とかどうです?」
「いいのか? お前苦手じゃなかったっけ」
「うーん。確かに苦手ですけどキオク(・・・)に残してもらいたいので」
遥華は笑顔を浮かべる。
「記憶?」
「えぇ、キオクです。さ、行きましょ」
そう言って遥華は掴んでいる俺の腕をぐいぐいと押す。
「あ、あぁ…」
俺は遥華に言われるがままに、お化け屋敷の前まで進む。黄色のバックに赤文字という怖さを演出したいのかが全く不明な看板が目の前に来る。
「美樹ちゃんが中学の時にお化け屋敷をしたんですよね?」
「あぁ、美樹のやつ、本物連れてきてたけどな」
ふと、以前にも同じ話を別の人間としたような気がした。
「美樹ちゃんらしいですね。ここはたぶん本物はいないと思いますけど、行きましょ」
そう言って遥華は俺の腕をグイグイと押してくる。
「そうだな」
俺もそれに従い、中に入った。暗幕を使ったありがちな通路を通り、出口に到着する。
「…や、やっぱり、お化け屋敷は怖いですね」
そう言う遥華の腕は少し震えていたし、目もうるうるしていた。
「そんなに怖いんなら入らなきゃよかったのに」
「いえ、ちゃんと思い出してもらわないといけませんでしたから」
遥華はまだ少し震える声で言う。
「思い出すって…、何を?」
「全てです。何が本当で何が虚無か。晃仁さんならちゃんと見極められるはずです」
見極める? それに、本当とか虚無とかどういうことだ。
「それは私が言う訳にはいかないです。晃仁さんが見極めないと意味がありません。でも…、私が朝に渡したものは覚えていますか?」
遥華が今朝、渡したもの…?
「…確か、おま――」
言いかけた瞬間、意識が後方に引っ張られる感覚がした。
「…忘れないでくださいね」
意識が完全に暗転する直前、遥華のそんな声が遠くで聞こえた。




