I 仕組まれた必然
押し付けられた雑用を済ますために、ドアを開け廊下に出る。
「それにしても多すぎるだろ」
俺は廊下を歩きながら呟く。何せ両手に二つずつ、さらに、その両手で支えるようにして一つ。しかも、どれもギュウギュウに押し込まれているためか重い…。
そして、階段の前を通る時だった。
「…あっ」
そんな声が横から聞こえたかと思うと瞬間、横から何かが倒れてきた。横を見ると大量の紙が倒れてきていて、そのまま、それに巻き込まれて床に背中を衝突させる。
「…」
床にぶつかる衝撃で閉じた目を開けると視界の端にゴミ袋から髪の毛が出ていた。いや違う、ゴミ袋の上に倒れてきた誰かが顔を埋めているのだ。頭を持ち上げると黒髪をツインテールにした少女がゴミ袋に頭を埋めていた。
「…大丈夫、か?」
そっと声を掛ける。すると、ゴミ袋の上の頭がモゾモゾと動き、
「んぁっ…、死んだかと思いましたぁ…」
その少女が頭をパッと上げて大きく息を吐きながら呟いた。
「…あの、どいてもらいたいんだけど」
さすがに、ゴミ袋もあるので重いのだ。
「ふぇっ! ゴミ袋の中から首がっ…!」
「いやいや、俺の上にゴミ袋が乗ってて、その上に君が乗ってるんだよ。というか、ゴミ袋に全部体乗ってないだろ」
「え? あ、ホントだ。すいません」
少女は少し慌てて上から退いた。慌てていたためか、一瞬ゴミ袋から滑るように落ちて「ふにゃっ」という声を上げた。
「…」
俺はそんな少女が降りるのを待ってから立ち上がる。ゴミ袋は比較的散らばってはいないものの、何かの書類は廊下のあちこちに散らばってしまっていた。少女もそれを見たようで、
「…はぁ」
とため息を吐いた。
「拾うの手伝うよ」
俺は言って、辺りに散らばった紙を拾い上げていく。
「あ、ど、どうもです」
それから二人で書類を全て拾う。数はそんなになかったのですぐに終わった。
「君も大変だな、こんな時間まで」
「そうなんですよ。生徒会の書類なんですけど、何か手違いがあったらしくってこんな時期になって、しかも、それを整理するのにこんな時間まで掛かったんですよ」
優俚佳は少し憂鬱そうに言う。
「生徒会も大変なんだな」
「そうですね、無理やり手伝わされてる私にはいい迷惑ですけど」
「え? 生徒会じゃないの」
「違いますよ。私はただ生徒会室の前を通ったら駆り出されただけです」
よほど切羽詰っていたのだろうな。
「でも、ありがとうございます」
少女はそう礼を言い、
「あの、名前を教えてもらえますか?」
と言ってきた。
「え? 別に良いけどなんで?」
「いえ、恩人の方なので」
そこまで大げさなものか?
「だって、あのままだったら鼻血出しちゃってましたもの」
「……、そっか、それは大変かもな」
俺は少しこの少女に圧倒されながらも、
「渡瀬晃仁だ」
「渡瀬さんですね。私は水崎優俚佳っていいます」
優俚佳と名乗った少女はそう言うと、首だけで会釈し、
「じゃ、私急ぎますので、ここで失礼します」といい、廊下を歩いていった。
「…そういえば」
優俚佳の顔を見て思ったことがある。それは、ユリエに似ているということだった。
「ま、とにかく、俺も行くか」
俺はそのまま、ゴミ捨て場へと急ぐのだった。




