K 微かな希望を言霊に込めて
教室の扉を開ける。そこでは、美樹が一人机に向かい、何か作業をしている。
「まだ残ってたのか」
時刻は既に五時をゆうに過ぎていて、学校自体にもほとんど人の気配は無い。
「まぁね、ほとんど私が仕切ることにしちゃったから」
その言葉にはいつもの美樹らしさが無いように思えた。それに寂しそうとか思ってしまったのかもしれない。だから、
「大変そうだな」
こんな言葉を言ったのだろう。
「…そう思うなら手伝いなさいよ」
「…今さら俺ができることとかないだろ」
俺はそう言いながら美樹の向かいに椅子を付けて座る。
「そうねぇ…、とりあえず私の話し相手になりなさい」
美樹は楽しそうな笑顔を向けながら言う。
「それぐらいなら別に構わないけど…、っていうか、いつものことだろ、それ」
「いいのよ。いいものをつくる(・・・)ためには息抜きも必要なのよ」
一理あるかもしれない。
「でしょ? ほら、わかったら何か話しなさいよ」
無茶ブリだ!
「えっとぉ…、あ、そうだ、眞梨亜は明後日の文化祭でデートするらしいぞ」
「あら、いいじゃない。あの二人ちゃんと恋人らしいことしてたのね」
「でも、幽霊同士でデートってどうするんだ? ラブコメみたいなこととかできそうにないと思うんだが」
「そんなことないでしょ。雰囲気を楽しむとかなら問題ないでしょ」
それだけじゃ寂しい気がするんだが。
「他にも何かあるんじゃない? というか、実際にあの子たちに聞けばいいでしょ」
それもそうか。文化祭が終わったら聞いてみるか。
「そうしたら私にも教えてね。私、当日はクラスにずっといると思うから」
「……え」
瞬きをした瞬間、一瞬だけ目の前にいるのが美樹ではなく、机の上に置かれた一体のぬいぐるみに見えた。瞼を擦って再び見るとそこにいたのはぬいぐるみではなく、キョトンとした顔の美樹だった。
「どうかした?」
「…いや…、なんか…、疲れてるのかもな」
ぬいぐるみに見えたのはおそらく気のせいだろう。ただ、あのぬいぐるみが来ていたメイド服はどこかで見たような気はするのだけど…。
「そう? なら、少しの間だけここで(・・・)寝てなさいよ。ちゃんと起こしてあげる(・・・・・・・)から」
美樹は優しげな表情で言う。俺はそれに甘えることにして、そのまま机に突っ伏す。すると意識は一気に埋没していく。
「…これが限界、かな」
意識が埋没する寸前、美樹がボソッと何かを呟いたが、俺はそのまま、眠りに落ちる。
「ちゃんと伝わってるといいけど…」
「……ふふ」




