穢れちまった身体と心 その2
「何も、ありませんね……」
広々とした居室。
家具の一つもない空間。
タンスも冷蔵庫も掃除機も洗濯機もソファもベッドも机もテレビも何もかもなかった。
いや、何もないということはない。
部屋の隅に教科書や折りたたんだ洋服が置かれていた。
「気が利くんだか分からないけど、とりあえず着替えがあったね」
実の娘をあんな目に合わせるような親が気が利くわけないけど。
真っ当に考えたら持ち出すのが邪魔になって置いていったんだろうけど。
「これって、どういうことですか?」
「この状況をずばり表すなら、三文字だね」
少し混乱している香奈に私は言う。
「夜逃げ。失踪とも言うね。これはちょっとやばいことになってきたかな」
あーあ、貧乏くじを引いちゃったな。ますますつまらなくなってきちゃったよ。
「……春花ちゃんは、その――」
「捨てられたね。育児放棄のハードなバージョンだと思えばいいけど」
香奈が言いにくいことをなんでもない風に言ってみせた。そうやって冷静のフリをしてみた。
「――センパイ、怒ってもいいですか」
最後にクエスチョンマークが付かないから疑問文じゃないね。
「やめてよ。キレたら誰が止めるのさ」
「――っ! でも!」
「京子になんて説明したらいいのかな」
ここまで綺麗さっぱりに片付けられた部屋を見ると、失踪先の手がかりはなさそうだ。
「センパイはなんとも思わないんですか!」
「うーんとね、結構イラってきてるかな」
そう。許せないことが出てきた。
「春花ちゃんを引き取る気がないのは許せないなあ。必ず迎えに来るって春花ちゃん、多分信じてるんだろうけど、その期待を裏切るのは許せない」
私はいつだって、裏切ったものは絶対に許さない。許した覚えもない。
「……春花ちゃんが親が戻ってくるって信じてる? どうしてそう思うんですか?」
「だって、落ち着いてるもん。本当だったら取り乱していいはずなのに冷静なんだよ?」
あの落ち着きようは信じるものがあるからだ。人は信じるものがある限り尊厳がなくなることはない。尊厳さえあれば人は生きていけるし、歩くことさえできるのだ。
まあその尊厳の元は宗教による信仰だったり自分の親だったり色々あるけれど。
「私には理解できません! だって明らかに虐待されているんですよ! そんな親を誰が信じるんですか!」
「それはね、春花ちゃんだよ。春花ちゃんは親を、親だけを信じているのさ」
とうとう激高した香奈に対して私は頭に上りかけていた血が引いていくのを感じた。
パニックに続いて怒りさえも他人がしていると逆になくなるパターンだね。
「何故そこまで言い切れるんですか!」
「まあストックホルム症候群とか色々説明できるけど、一番に手っ取り早い言い方をするよ」
私は香奈の手を見据えた。
「だって、子供は親を無条件で愛するじゃない。どんなに嫌われていたってね」
その言葉に――香奈は言葉を失ってしまった。
私が珍しく正論(?)を言った衝撃からかそれとも反論できないからか、そこまでは判然としないけど、俯いたまま私の言葉を静かに受け止めていた。
「それじゃあ着替えも手に入れたし、戻ろうか。そろそろ京子たちもお風呂から出た頃合だしね」
「…………」
香奈は黙って頷いた。それに満足して部屋から出ようと出口に向かう。
その途中で私は香奈に話しかけた。
「本当はね、朝日さんが首を吊ってる場面を想像したんだよ」
「……嫌な想像ですね。だから覚悟云々言ってたんですね」
「一応伏線は回収しないとね。だけど居なくて良かったよ」
「……そうですね。死体があったらトラウマものですよ」
「うん? 違う違う」
私は軽口を叩きながら訂正した。
「死体があったら警察に連絡しなくちゃいけないじゃん」
「えっ? 警察?」
「私は警察のほうが死体よりもやだよ。だってあいつら役立たずじゃない。それに――」
私はにっこりと笑顔で言った。
「死体なんてただの肉の塊じゃん。気持ち悪くなんてならないでしょ。まあ美味しそうじゃないけどね」
「……そうですか。ははっ」
香奈は引きつった笑みを浮かべた。かなり引いてしまったようだ。
あれ? おかしいな? 和まそうと思って言ったんだけどなあ。
ま、いっか。
部屋に戻ってから、私は香奈に少し休むように言った。いくら体力と持久力に定評のある(テニス部の中だけだけど)香奈でも今日はいろんなことがあって精神的に疲弊しているのは見て取れたので、ここは休息を取った方がいいと判断した。
「私、大丈夫ですよ!」
そう香奈は強がっていたけど、先輩命令だって言って無理矢理納得させた。これから忙しくなるのに香奈がもしダウンしてしまったらどうしようもなくやばい感じになる。
香奈を居室でまったりテレビでも見てリラックスさせておいて、次に私は春花ちゃんと京子の着替えをお風呂の前に置いた。春花ちゃんには置いておかれた着替えの中にあったパジャマと下着。京子の着替えは私のジャージだ。私と京子は背丈が同じなので(私のほうが数センチ大きい)問題なく着れる。
パンツはこの前お徳用で買ってあった、封もあけていない新品のものを用意。ブラは私と京子のサイズが違うのでなしだ。まあ元々京子は寝るときブラを着ないので丁度良かった。
「京子、ここに着替え置いとくよ」
扉の外から声をかけると「分かったー」と返事があったのでこれでよし。
キッチンで料理再開。
プチトマトとレタスときゅうりでサラダを作る。ドレッシングかマヨネーズはお好みでかけていただくシンプルなもの。
鶏肉と玉ねぎとご飯を炒めて、それにケチャップを投入。これだけならチキンライスだけど、薄い卵焼きをのせるだけでオムライスにクラスチェンジする。なんだか詐欺みたいな話だなあ。作る度にそう思う。
「出たぞ。着替えありがとな。香奈は?」
チキンライスを作って次は卵を焼こうとしたタイミングで後ろから声をかけられた。タオルで髪を拭いている。春花ちゃんも後ろにいて、ぼうっとしている。
「香奈は部屋にいるよ。ドライヤーはクローゼットの中にあるから好きに使ってよ」
春花ちゃんの顔を見ると幾分かすっきりした感じがした。
「春花ちゃん、お腹空いたでしょ。サラダ作ったからこれ食べて。京子、もうすぐオムライスできるからサラダ持っていって」
「了解。さあ食べようか春花ちゃん」
京子は春花ちゃんを連れて居室に行った。
フライパンが冷めない内に溶いた卵を流しいれて薄い卵焼きを作ってチキンライスにかぶせる。完成。うん、我ながら上手にできた。
あ、わかめスープを作らなきゃ。
お湯を沸かしている間にオムライスとケチャップを居室に運ぶ。
「はい、お待たせ! オムライスだよ!」
わざと明るく言って部屋に入る。テンションを上げないと場が暗くなるだけだから。
「馬鹿みたいに大声出すなよ。鬱陶しいな」
私のナイスな気遣いを本当に鬱陶しい風に邪険に扱う京子。うん、やっぱり類は類を呼ぶんだなあ。私も人格破綻者だけど京子も相当だ。
部屋の様子はというと京子はまるでコンビニ前の不良のように行儀悪く座ってテレビを見ていた。
香奈は春花ちゃんの後ろに回ってドライヤーで髪を乾かしていた。
そして乾かしてもらっている春花ちゃんはサラダをむしゃむしゃ食べていた。ドレッシングもマヨネーズもかけずにそのまま食べていた。新鮮な野菜じゃないから味気ないはずなのに食べられるものなのかな?
まさか今までドレッシングもマヨネーズもかけて食べたことないとか? そんなことはありえないと思うけど。
「春花ちゃん、オムライス食べてみて。温かいだから気をつけてね」
一応、ケチャップをかけてから渡す。
私の感覚だけどケチャップのかけていないオムライスはなんというか不完全だと思う。何かをかけて完成する料理はたくさんある。例えばハンバーグにソースなど。ソースのないハンバーグはハンバーグじゃないし、同じようにケチャップのないオムライスはオムライスじゃないのだ。
まあそんなこと言ってるけど、今日食べたオムライスはデミグラスソースだったけど。
「……いただきます」
礼儀正しく手も合わせて食べ始める春花ちゃん。この辺の躾は正しくされていたのだろうか。いやいくら礼儀正しくても虐待はどう考えても、どう鑑みても悪そのものだから、挽回もできないよね。
春花ちゃんはスプーンを意外と不器用に使って(お世辞にも華麗とは言い難い)小さくよそってそのまま食べた。
熱いオムライスをそのまま一気に食べた。
「ふぶうう!」
案の定、口に入れた瞬間噴き出してしまった。少女に似つかわしくない吐き出し方だった。口から飛び出したオムライスはテーブルの上に飛散する。
「だ、大丈夫春花ちゃん! ゆっくり食べていいのに!」
後ろに居た香奈がドライヤーを放り出して(結構高いのになあ)春花ちゃんの背中をさする。京子はテレビから目を切って「どうしたー」とのん気な声をあげる。
「口の中火傷してない? 今冷たいお茶持ってくるから――」
そう言って私は立ち上がり、冷蔵庫に行こうとした、そのときだった。
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
驚いて振り向くと、春花ちゃんは頭を抱えてうずくまっていた。
「えっ?」
身体をガクガクと震えさせながら何かに怯えるように許しを乞いている。
「いやあ! 殴らないで! 痛いのは、嫌だからやめて! お願い、だから!」
さっきまで感情のなかった少女とは思えない取り乱し方だ。何かのスイッチが入ったように、ギアがトップに入ったように、一気に急転した。
私たちは三者三様に驚きを隠せなかった。思考が停止してしまった。
香奈は目を見開いて反応ができなくなっていたし、京子は表情が凍り付いていた。
私はというと自分の過去のトラウマが甦ってきて、それをなんとか抑えようとするのに必死だった。懇願する春花ちゃんと自分とを重ね合わせないようにするのに自身の力を総動員していた。
やっぱり私は駄目なんだなあと感じた。さっき春花ちゃんの酷い身体の有様を見ても冷静でいられたのに。
でもトラウマに対して冷静でいられるわけがないんだろうなあ。
だって今の春花ちゃんは昔の私そのまんまだもの。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」
壊れた音響器具のように繰り返し謝ってばかりの少女に対して、私たちは何ができるのだろう。いや、ありはしないのだ。
だけど――
「謝らなくて、いいから!」
最初に動いたのは、香奈だった。
一番トラウマを抱えていないであろう香奈がトラウマだらけの少女を後ろから抱きしめた。
青痣が酷くならないように優しく、それでいて強く抱きしめた。
抱きしめた瞬間、春花ちゃんはビクッとしたけど、どこか安心したかのように身体を預けた。
「大丈夫だよ。そんなことで、私たちは春花ちゃんを傷つけたりしない。酷いこともしない。泣かせることもしない。だから安心してよ。私たちを信じて!」
最後はほとんど叫ぶように言ったけれど、それで安心したのか、春花ちゃんは顔を上げた。大粒の涙が流れてとても見てられなかったけど、それでも恐怖といった感情はなくなったようだ。
「……ごめんなさい」
最後にそう言い残して、もう疲れきってしまったのかそのまま香奈に身体を委ねて眠ってしまった。時計を見るともう十一時を越えていた。小学生が睡魔に襲われてもおかしくない時刻だ。
「本当に、謝らなくていいのに……」
そう悲しげに呟いて香奈は春花ちゃんの頭をそっと撫でた。まるで母親のように慈愛に満ちた仕草だった。
「佐々木、お前どうする気なんだ?」
京子が厳しい顔つきで訊ねてくる。私は正直なところどうしたらいいか分からないというのが本音だった。だけどそのまま言うとどうしようもないのでいつもの通り先延ばしにすることに決めた。
「とりあえず様子見かな。今の段階で警察に行くのはベストじゃないね。それと朝早くに警察に行くのもアウトかな」
「既にワーストだろう。あたしは今すぐにでも警察に行くべきだと判断する。この子はお前の手に余るぞ」
京子の警察に対する信頼感は一体どこから出てくるんだろうね。不思議というか不可解極まるね。
「その結果、児童養護施設に入れられるとしても? それがベストだというのかな?」
「虐待する親から離れることが不幸になるのか?」
「なるね」
私は即答した。理由は分からないけどそうだと確信していたからだ。
「……佐々木、お前は頭おかしいんじゃないか? 前々からそう思っていたが、本気でどうかしてるんじゃないか?」
「佐々木センパイ、私も根室センパイに同意見です」
私と京子が問答している間に香奈はベッドに春花ちゃんを寝かせていた。毛布をかけてすーすーと寝息を立てる春香ちゃんを悲しげに見ながら、私たちの方を向かずに淡々と話す。
「私はセンパイ達みたいに大人じゃなくてまだ子供ですけど、それでも善悪の区別はつきます。あんな身体を見せられて、あんな謝り方を見せられてセンパイみたく平然としてられませんよ。はっきり言って、春花ちゃんのお母さんをぶん殴りたいくらいの気持ちですよ」
静かに言ってるけど、後ろを向いてるから表情が見えないけど、怒っているのが分かった。決して短くない付き合いだから痛いほど理解できた。
「センパイは悔しくないんですか? 隣に住んでいた、こんな可愛らしい女の子が虐待されていたことに気づかなかった事実に。悲しくないんですか?」
後半は涙声になって聞き取りづらかったけど、その真っ直ぐな思いは私の心に突き刺さった。
痛いくらいに突き刺さった。
「だから私は今すぐとは言いませんけど明日の朝に警察署に言って事情を説明するべきだと思います。その結果児童養護施設に春花ちゃんが行ったとしても、しょうがないじゃあないですか」
もっともな意見だ。普通に考えればそうすべきだと思う。間違っているのは自分だと自覚している。
でも――
「私はそれでも、警察は最終手段だと思う」
「佐々木、お前本当にイカれてるぞ」
頑なな私に焦れてきたのか、とうとう京子が怒鳴るように詰め寄ってきた。そして胸ぐらを掴んだ。
「虐待されている少女にお前は何の感情もないのか! ふざけんなよ、私たちができることなんてないんだ。私たちより頼りになる警察に任せたほうがいいだろう! 何でそれが分からないんだ――」
「だって、警察は私を助けてくれなかったもん」
私の一言に京子は動きを止めた。止めようとした香奈も驚いたように私の顔を見る。
「それって、どういう――」
「私は警察が嫌いなの。信用してないの。だって助けてくれなかったし、京子だってそうでしょ?」
「……お前、何言ってるんだ? 昔の話だろう? いつまで引きずる気なんだ?」
「うーんとね、ずっとかな」
私の答えに京子は「もううんざりだ」と言って部屋の隅に置いてあった自分のバックを持ち上げた。
「どこ行くの? まさか帰る気?」
「ああ、もう疲れた。お前にがっかりしたしうんざりする。なんでお前なんかと友達やってるのか不思議に思うくらい嫌になった」
「ちょっと、根室センパイ、待ってくださいよ――」
香奈が京子を止めるように肩を掴んだ。京子は鬱陶しそうに手を払った。
「葉山、もうこいつに関わるな。こいつは人格破綻者だ。頭の回路が吹っ飛んでる馬鹿でどうしょうもないヤツだ。今はっきり分かった。こいつは何事もないように一週間待って母親に引き渡す気だ!」
「えっ? えっ?」
「そんなつもりないよ。失礼なこと言わないでよ」
心外なことを言われて少し心が傷ついた。
しかしその発想はなかったなあ。
「朝日さんがわざわざ戻ってくる可能性はないでしょ。だって夜逃げしたんだから」
「そうですよ。いくら佐々木センパイでもそんな酷いことしませんよ」
「葉山、あたしはこいつとの付き合いはお前より長い。だから分かる。こいつはろくでもないこと考えてるんだ。そんなことに巻き込まれてたまるかあたしは帰る!」
バックを持って玄関に向かおうとする京子を「待ってください!」と止めようとする香奈。
その背中に、私は言葉を――投げかける。
毒の一言を――投げかける。
「ふうん。見捨てるんだ。まるで京子のお父さんみたいだねえ」
京子はぴたっと動きを止める。そして振り向いたその顔は怒りを前面に押し出したものだった。
「ね、根室センパイ……?」
「今、お前何言った?」
怯える香奈を余所に京子は私を睨みつけてくる。
よし、もっと挑発しよう。
「聞こえなかったの? もう一度分かりやすく言おうか。京子は春花ちゃんを見捨てる気なんだね。京子のお父さんみたいに――」
最後まで、言えなかった。勢いよく京子は私に激しく迫り、壁にたたきつけた。胸ぐらを掴み上にあげる。苦しい。
「お前殺すぞ」
言葉数が少なくなってるってことはマジギレしてるっぽいなあ。
「根室センパイ、やめてください! 佐々木センパイ謝ってください」
必死になって止めに入る香奈に私は片手で大丈夫と制し、言葉を続ける。
「ああ、ごめん。見捨てられたんじゃなくて捨てられたんだよねえ――」
それが理性を決壊させた。
ばしんと平手打ちされた。
どたんと床に倒れた。
言い過ぎたとは思わなかった。
「佐々木センパイ!」
香奈が駆け寄ってくる。視界がくらくら揺れて判然としないけど心配そうに私の顔を覗きこんでくる。
「大丈夫。大丈夫だから」
声に出して平気だと伝える。
殴られたのは久しぶりだった。
懐かしいとは思わなかった。
「くそ、殴っちまった」
憎々しげにそう呟いたのは京子だ。視界の端でそのまま帰ろうとするのが見えたので私は急いでこう言った。
「これはチャンスだよ、京子」
足を止める気配を感じた。だから続けて言った。
「誰からも救ってもらえなかった私たちは誰かを救わないといけないんだ。誰かを救うことで逆説的に自分が救われるんだよ。私たちは不幸でどうしようもない人生を歩んでるのかもしれない。だけど、だからこそ誰かを救えるときに救わないと手を差し伸べないといけないんだ。だからこそ春花ちゃんを救わないといけないんだ」
ごくりと唾を飲み込むと血の味がした。どうやら口の中が切れたみたいだ。
それからしばらく沈黙が続いた。私たち三人の荒い息遣いが部屋の中に響いた。
「お前の言ってること、訳分からないよ」
ぼそりと言って、京子は私に向き合った。
「意味不明なこと言ったり、いきなり挑発したり、かと思えば綺麗事言ったり、お前はなんなんだよ。支離滅裂だよ」
なんだか泣きそうな感じになっている。
「だけど、お前の言いたいことは分かる。あたしだってあんなに可哀想な子供が居るのに今帰って布団に入って寝ちまったら、救われないのはあたしの方だ。いいだろう、協力してやるよ」
その言葉を聞いて、私はにっこり笑ってこういった。
「春花ちゃんを救おう。そのためのプランは練ってある」
ついさっき思いついたことだけど、堂々と言ってみる。
「じゃあお前の考えを言ってみろ」
京子はしゃがんで私の目を見つめてきた。香奈も私を見ている。
「そうだね。まずは――」
春花ちゃんに必要なのは歴然としていた。だからこう答えた。
「明日の朝、お医者さんのところに連れて行こう。春花ちゃんの心と身体には治療が必要だから」




