今までの日常 その4
現在午後九時。
ファミレスを出て、マンションに向かう私と香奈。今日は金曜日で明日は土曜日。したがって明日は休みだ。
というわけで香奈は私の部屋に泊まることになった。
「というわけってどういうわけですか? 強引に誘ったのはセンパイでしょう?」
「細かいことは気にしない気にしない」
マンションに着くと階段で二階に向かう。私の部屋は二階の角部屋だ。
さっさと入って香奈と駄弁ろう。そう思っていた。
しかし階段を上がって部屋の前を見ると、そこには一人の幼女が体育座りをしていた。
「……センパイ、知り合いですか?」
香奈が恐々と尋ねる。暗い通路のせいか幼女がお化けか幽霊のように見える。
ボブカットで背が低い。栄養失調のような印象を受けるみたいに痩せていた。アーモンドみたいに楕円形の大きな目。顔は整っているといっても過言ではない。うつむいてじっと下を向いていた。
この子は――
「いや、知り合いじゃないけど見知っているよ。確か――隣の部屋の朝日さんのお子さんかな」
どうして自分の部屋の前ではなく私の部屋の前にいるんだろう。
そんな疑問を感じながら私は幼女に声をかけた。
「えっと、君どうしたの? お母さんは?」
幼女はこちらを見上げるように振り向く。
「…………いない」
幼女は何か諦めてるような口調で答えた。
「いないって……どういうことかな?」
「…………」
幼女は立ち上がり、無言で私に近づいてくる。最初は背が小さいから幼稚園か保育園の園児に思えたけど、よく見るとランドセルを背負っていたので小学生だと分かった。
「……これ、お母さんから」
差し出されるのは茶色い封筒。
「読んでいいの?」
こくんと黙って頷く。
私はのり付けされていない封筒から手紙を取り出す。
そこにはこう書かれていた。
『娘を一週間、預かってください』
たったそれだけだった。
「えっ?」
後ろから覗き込んできた香奈が変な声をあげる。
「……よろしくお願いします」
深々と頭を下げる幼女の丁寧な挨拶を余所に、私の頭は混乱していた。
えっ? 何この展開?




