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真実と和解 その3

 京子のお父さん、九鬼京一郎さんが入院しているのは超高級という単語が相応しい大きな病院だった。

 まあいわゆる富裕層が利用する病院だと認識してくれればいい。

 全室個室の贅を極めた造りでまるで三ツ星ホテルのようだ。

玄関にでかでかと表札(?)があり、この病院は海王病院というらしい。

「ここって九鬼グループの系列の病院じゃあないですよね。どうしてですか?」

 気になったので柳田さんに訊くと「旦那様が指定されたのですよ」と言う。

「旦那様のお考えでございますけど、基本的に系列の病院はご利用なさらないのです」

「兄貴が言うには『どうしても特別扱いされてしまうから』だそうだ」

 京子は先程から緊張しているみたいだったけど、自分と関係ないやりとりに答えるあたり、余裕があるのかもしれない。

「一般の患者もいるのに、そういう姿を見せると余計なやっかみができるだろう? そういうことだ」

 確かにサービスが最高峰の病院だったらある意味平等だよね。みんながみんなお金持ちという特別なんだから。

 病院の受付で手続きをして白いバッジを人数分貰う。お見舞いに来た人は必ず付けなきゃいけないらしい。

 春花ちゃんが付けるのに戸惑っていたので香奈が付けてあげていた。

「旦那様は四階、いえ失礼五階にいらっしゃいます」

 病院だから『4』のつく数字は排除されているので四階が五階になっている。

 うろ覚えだから詳細ははっきりしないけどイギリスだかオランダだかは零階から始まるらしい。それと似たようなものか。

 柳田さんの先導でエレベーターに乗る。

 私はエレベーター独特の浮遊感が少し苦手だ。お腹がきゅうっと捻られるような感覚があるからだ。

 その感覚に耐えること十数秒。

 五階に着いて外に出ると目の前にロビーがあった。結構広い。待合室になってるのかもしれない。

「センパイ、私と春花ちゃんとでここで待ちませんか?」

 うん、香奈の言うとおりここで待ってたほうがいいかも。せっかくの親子の再会なんだから――

「いや、佐々木、一緒についてきてくれないか?」

「はあ? どうしたの京子」

 私に頼るなんて珍しいなあ。

「私が居ても余計なことしかしないよ?」

「いや、余計なことはしなくていいんですよセンパイ」

 ありゃ、そうだった。

誤解を受けないように改めて言い直す。

「うん。確実に余計なおせっかいをするね。それはサイコロ振ったら一以上の目が出るくらい確実だね」

「……それでも、頼む」

 すっと頭を下げられる。

 えっ? 京子が頭を下げた?

 今まで中学校から一緒だった、実の親以上に長い時間を共有してきた中で、初めて頭を下げられた!

 その衝撃につい感じ入ってしまって「う、うん。いいよ」と答えてしまった。無意識の内に!

「良かった。あたし一人だと心細くって……ありがとう」

 なんだかなあ。勝気で雄雄しい京子が弱気で女々しく感じるよ。

「そういうことなんで香奈。春花ちゃんと一緒に待っててね」

「は、はい……くれぐれも変なこと言わないでくださいね?」

「…………」

「返事してくださいよ。なんでしないんですか……まあいいです。それじゃあ行こうか春花ちゃん」

 二人をロビーに残して三人で病室へ行く。

「ごめんな。巻き込んじゃって」

 京子がしおらしく謝ってきた。私は「別にいいよ」と身振り手振りを含めて言った。

「先に巻き込んだのは私のほうでしょ。それに私と京子の仲じゃない」

「……うん。それでもありがとな」

 ますます珍しい。私の友達アピールに「お前とは知り合いなだけだから」とか「この人格破綻者」とか言ってくると思ったのに。

 見た目通りナーバスになっているね。

「こちらの病室でございます」

 五〇九号室。ここに京子のお父さんがいると思うと私まで緊張してきた。

いや、京子の父親ということを除いても日本経済を牛耳ってる大企業の会長がいると思うとドキドキする。

 柳田さんがノックを四回して「入ります」と言ってドアを開けた。そして一足先に部屋に入る。

「柳田。連れてきてくれたか」

 老人の声だ。弱々しく乾いた声。

 その言葉に意を決したのか恐る恐る入る京子と何も考えず入る私。

 広い病室に大きなベットが一つ。そのベットには一人の老人が寝ていた。

 五十八歳には見えない、それ以上に年を取った感じがする男性。まるで重荷を背負い続けた労働者をイメージさせる。総白髪に頬がこけていて痩せぎすの人。

 これが京子のお父さん、京一郎さんか……

あまり似ていないな。京子のお兄さん、京梧さんの面影はあるけど。

「お、お久しぶりです……お父様」

 つっかえながらの再会の挨拶。

 それに対して「ああ」とそっけなく返す。

「久しぶりだな……髪を染めたのか」

「はい、そうですけど……」

「ますますあいつに似てきたな……」

 感慨深くしみじみに言う京一郎さん。あいつとは京子のお母さんなのだろう。

「隣の子は誰だ?」

「あ、私ですか? 京子の友達の佐々木あやめです」

 ぺこりと頭を下げて自己紹介。京一郎さんは「そうか、世話になってるな」と言った。

 こう話してみると京子から聞いた印象とかなり違うなあ。

「早速だが本題に入る」

 もう少し話せばいいのに、京一郎さんはすぐさま話すようだ。

「はい、お父様。柳田から話は伺って――」

「ああ、柳田が話したことは忘れてくれ」

 えっ? どういうこと?

「だ、旦那様、一体どういうことですか?」

 柳田さんは不意打ちを喰らったような顔をする。京子も途端に不安気になる。

「悪いな柳田。あれは嘘だ」

「嘘とはどういう――」

「どうしても、死ぬ前に言わねばならないことがあるのだ」

 死ぬ前? そんなに身体が悪いのかな?

「お父様、一体私に何を――」

「いいか、京子。お前に伝えておかねばならないことがあるんだ」

 まるでそれは末期の言葉のような。

 まるでそれは死後の遺言のような。

 心からの偽りのないこと。

 死に掛けた人間が後悔を残さないような。

 思い残すことのないように死ぬために。

 自分勝手。

 自己中心的な。

 墓場まで持っていってほしかったこと。

 時にそれは優しい気持ちだったり。

 時にそれは愛しい気持ちだったり。

 いろんな感情の坩堝だったように。

 その言葉は放たれた。


「お前は――私の子供ではないんだ」


 静まり返る病室。

 私も柳田さんも、京子も反応することができなかった。

「そ、それって、冗談ですよね……」

 ようやく、私が言葉を発せられた。鏡を見たら顔が引きつっているだろうという確信があった。

「冗談でそんなことが言えるか。これは真実だ」

 京一郎さんは落ち着き払っていた。この場で冷静なのは、彼だけだった。

「もう一度言う」

「や、やめてください……」

 京子の目から涙が零れる。

「お前は――」

「い、いやだ」

「私の――」

「そ、そんな――」

「子供ではない」

「い、いやあああああああああ!」

 心から振り絞られた叫び。

自分自身を否定された悲鳴。

「京子! しっかりして!」

 その場に座り込んでしまった京子を後ろから抱きしめる。

身体が震えてる。その震えを鎮めようようと強くきつく抱きしめる。

「旦那様! なぜそのようなことを!」

 柳田さんが声を荒げる。自分の雇用主に怒りを覚えているようだ。

「落ち着け柳田。そうだな、順を追って話そうか」

 京子の状態を知ってもなお説明をやめないなんて、どういう神経してるんだ?

「京子の母親、根室なつめは私の幼馴染だ。それは知ってるな? 小さい頃から一緒だった。あいつのことは何でも知っている。あいつも私のことはよく知っていただろう。そのぐらい私たちはお互いを分かり合っていた」

 淀みなく話し出す。京子は聞いているのか分からない。顔を伏せたまま泣いていたから判然としない。

「恋愛感情は子供の頃は多少あったが、成人してからはそれもなくなった。あいつは私にとって家族以上のものだったからだ。あいつもそう思ってくれたと思う。私が婚約したときも実の親以上に喜んでくれた。逆にあいつに恋人ができたときはそれこそ自分のことのように嬉しいと思った。だが――」

 一旦言葉を止めて、咳をこほんとして、そして続けた。

「あいつの恋人は結婚する前に死んでしまった。死因は病死。急性白血病でな。ドナーが見つかる前にこの世を去った。病気になって三ヶ月もしなかった。なつめは悲しんだ。そりゃあそうだろう。愛した男が死んでしまったんだから」

 京一郎さんの話に誰も口を開かなかった。相槌すらしなかった。本来無関係な私でさえかなり衝撃を受けていたから身内の衝撃は耐え難いものだろう。

「しかしその頃には、京子、お前が腹の中に居たんだ。なつめは喜んだ。恋人の残したものが、確かなものがあったんだから。だけどそれからはお前の知っているとおり、なつめは死んでしまった。お前を産まなければ死んだりしなかったろう」

 京一郎さんの顔色が優れなくなっている。

「あいつは言った。『あの人が残したものを私は守りたい』と。私は反対したが決意は変わらなかった。あいつは私に約束させた。もしなつめが死んでしまったらその子の面倒を一生看ると。自分の息子もしくは娘として育てるようにと。私は了承した。あのときそう約束しないとあいつは今にも死んでしまいそうだったから」

 表情が悲しみに歪む。病状の身にとってこの回想は精神的にダメージを与えることになるのかもしれない。

「家内と相談の上でお前を引き取った。だけどあいつとの約束を守るために、お前との接触を取らないようにしていた。なるべく会わずに疎遠となるようにしていた」

「……それは、実の親子でないと知られることを恐れたためですか?」

 つい口を挟んでしまった。

 分かってしまった。理解してしまった。この人の考え方が、この人の想いが、伝わってしまった。

「ああ、君は賢いな」

 京一郎さんは軽く笑った。

「そう。私は恐れていた。実の親ではないと知られたら、あいつとの約束を破ってしまうことになるから。それに、私と京子は似てないだろう? 一緒に暮らせば粗が出てしまうだろう。そんな些細なことで露見してしまうのは避けなければならない。例えば血液型。私はO型だが京子はA型、なつめはB型だ。血が繋がっていないことは明らかだろう」

 確かに少し調べてしまえば分かってしまうことだ。だけど――

「それでも、なんできつく当たるんですか!京子になんで優しくしてあげなかったんですか! 京子がどれだけ苦しんだと――」

「それは悪かった」

 京一郎さんは身を起こし、頭を下げた。

「謝っても償えることではないが――」

「ふ、ふざけるな!」

 いつの間にか私は怒鳴り散らしていた。京子から離れて立ち上がり、吼えるように大声を上げた。病院だから静かにしようとかそんな考えは頭から吹っ飛んでいた。

「そんな簡単に謝るなよ! そんな風に片付けるなよ! ざけてんじゃねえよ! てめえの勝手な言い分で、女の子一人を傷つけてきたことを簡単に許してもらえると思うなよ!馬鹿野郎! 病人だからって――」

 続けて罵倒しようとしたときだ。

「もういい。やめてくれ」

 か細い声。京子だ。

「京子、だけど――」

「もういいんだ。お父様を責めるのをやめてくれ」

 なんで、そんなことを言えるんだ? 

この世で一番、責めるべき人間なのに、何故庇う? 何故止めるんだ?

「お父様――」

「……私はお前のお父様ではない」

 京一郎さんの言葉に静止しかけたけど、京子はぐっとこらえて言う。

「お父様、あたしを恨んだり憎んだりしていないんですか?」

 京子はどうしても確認したかったのだ。

「あたしはお父様の幼馴染を、愛すべき人を殺してしまいました」

 自分が愛されているかどうか。

「それでも、恨めしく思っていませんか?」

 ああ、なんて可哀想な女の子だろう。

「京子、私は、お前を恨んだり憎んだりしていないよ」

 京一郎さんは真剣な顔で言った。

「お前のことはいつだって気にかけていた。愛していたよ」

 その言葉を聞いて、京子は膝から崩れ落ちて、大きな声をあげて、盛大に泣いた。

「京子……」

 私はまた京子を抱きしめた。今度は正面から慰めるように包み込んだ。

「佐々木、あたしは、憎まれていなかった」

「うん、そうだね」

「愛されていたんだ!」

「うん、うん……」

「お父様から、認めてもらえたんだ!」

 私の怒りがしぼんでいくのを感じた。この可哀想な女の子に同情した。酷いことを言われてされて、それでも愛が欲しいと願う京子になんて声をかけてあげればいいんだろう。

 できることなんてないんだ。肯定してあげるしかない。それしかないんだ。

「京子、私を許してくれ。幼馴染の約束を守れないどころか、今まで辛い思いをさせてしまった私を許してくれ」

 京一郎さんの懺悔に京子は「いえ、いいんです」と涙交じりに答えた。

「今までのことを全て水に流すことは難しいです。でもこれから新しく――」

「待って、京子。京一郎さん、二つ質問があります」

 このまま、なあなあで済ますのは良くないと思った。一つ一つ確認していかなければならない。

「京子に生前贈与して家から出たのはどうしてです?」

「京子を自由にしてやりたかったからだ」

 京一郎さんは間を空けずにきっぱりと言った。

「九鬼家の娘という肩書きはどうしても注目されてしまうだろう。今まで不自由に暮らしてきた京子を自由にしてやりたい。だが親代わりの身勝手な考え方だったと今では思う」

 一応反省はしているようだ。その答えにまずは納得した。

「では二つ目。どうして今、真実をお話になったんですか?」

 京一郎さんの告白を聞いてからずっと疑問に思っていた。何故このタイミングで話す気になったのか疑問に思ったのだ。

「……京梧のことを聞いただろう」

 京一郎さんは物悲しげに語りだす。

「京梧は多分生きてはいないだろう。もちろん希望は持っている。しかしあいつが死んでしまった感覚が親子だから伝わってくる。そして私がこうして倒れて、初めて感じたのだよ。私は長くない、そして健康であっても京梧のように突然死んでしまう可能性があると考えたのだ。心残りなのは京子、お前のことだった」

 長くないか……

 自分の死を意識。

 自身の死を認識。

「死ぬ前に京子のことを想うと今まで酷いことをしたと感じるようになった。私は後悔した。実の父親だと思わせるために義理の父親らしいことをしなかったことを後悔するようになったんだ。すまない、京子」

 人生に後味の悪いことを残さない。結局は自己満足だと思う。京子のことをないがしろにした事実は変わらないはずなのに……

「ありがとうございます。答えていただいて感謝します」

 敢えて何も言わない。京子の親友だけど家族のことに口出しするほど偉ぶってるつもりはない。

「お父様……そんな弱気なことを言わないでください」

「そうですよ旦那様。わたくしたち使用人一同も旦那様のために一生懸命仕えさせていただきます」

 京子と柳田さんの慰めが通じたのか「ああそうだな」と笑みを見せた。

「ああ、これで思い残すことはないな。これからも日本のため、わが社のために働くぞ。柳田、家のことと京子のことを頼むぞ」

「はい! 粉骨砕身して勤めさせていただきます!」

 柳田さんの目からも涙が零れる。やっと肩の荷が下りたといった感じかな。

「京子、私はロビーにいるからゆっくり話しておきなよ」

 京子の肩を優しく握って、私はそう言い残して病室を出ようとする。

「佐々木、ありがとう……本当にありがとうな」

 本日何度目かのありがとうを受けて私は笑顔を見せてその場を去った。

 後は家族の会話だ。余計な者はいないほうがいい。

 それに――気にかかることもあった。

 私は明るく振舞っているけど基本的にネガティブだからどうしてもマイナスに考えてしまうところがある。人の裏を探偵のごとく疑ってしまうところがある。

 引っかかりは――京子の父親のことだ。

 全く京子の父親について京一郎さんは語らなかった。

 一から十まで話すべき事柄なのに情報は死因のみだ。名前すら分からない。自分と親しい人間だったら話が冗長になっても変じゃないのに。

 仲が悪かったのか疎遠だったのか分からないけど、確実に何かを隠している。

 隠しているからこそ話題に出さなかったのかもしれない。

 これを京子に言おうかどうか。

 数秒考えて、言わないでおこうと決めた。

 今が幸せだったらいいじゃん。

 京子の父親がとんでもない男だったとしても、京子自身が良い人なのは変わらない。

 だから――黙っていよう。

 それが親友である佐々木あやめの振る舞いだ。




 それから数時間後。

 京子がロビーに来て色々聞かせてくれた。

 今日話した内容。私が居なくなってから話した内容。それは九鬼家に戻らないこと。大学を続けていくこと。そして京一郎さんとは親子として付き合っていくこと。

 晴れやかな顔で説明している京子を見て、良かったなと素直に思った。

 香奈は納得していなかったけど、私が「京子の結論を尊重してあげよう」と言ったら不承不承とした感じで理解してくれた。

 帰りはまたリムジンに乗って柳田さんが家まで送ってくれた。

「本日はご迷惑をおかけしました」

 綺麗なお辞儀と共にそう言われたら何も返せなくなる。少しずるいなと思った。

「それじゃああたしは家に帰るぜ」

「私も実家に帰ります」

 明日は月曜日。大学生の京子はともかく香奈は高校生だから学校に通わなければならない。

「うん、またね」

二人が居なくなり、部屋には私と春花ちゃんの二人きりになった。

何気に二人きりって三日間の中で初めてかも。緊張はしないけど、ほんのちょっと戸惑うなあ。

「うーん、疲れたなあ。春花ちゃん、何食べる? 鍋焼きうどん? それとも――」

「お姉さんに聞きたいことがあります」

 不意に春花ちゃんが訊ねてくる。私は少々面食らったけど「うん? どうしたの?」と訊き返した。

 春花ちゃんは一呼吸置いて、意を決したように質問する。

「家族って――どうしたら仲良くなるんですか?」

 当たり前にできることを当たり前にできることは当然なのだけれど、でも当たり前にできない人にすれば、奇妙に映るのだろう。

 春花ちゃんにとって、家族とは何か?

 そんなブラックボックスを不用意に開けないように私はそれとなく努めていた。

 何故なら春花ちゃんのブラックボックスとはパンドラの箱と同義だから。

 だけど――春花ちゃんの箱の中に残るものは『希望』なんて素敵なものはなくて。

 多分それは愛みたいな綺麗なものではなくて。

 おそらくそれは悲しみや苦しみなどの汚く醜いものだったから。

「春花ちゃん、それは――」

 このときの私はまだ誤魔化すことができたのかもしれない。いつものふざけた感じ、とぼけた答えを言うことも可能であった。

 でも純真無垢な春花ちゃんのキラキラした眼と私の濁った眼が交差したとき、私の中の良心のようなものが強く心に響いた。

 だから私は――こう答えた。

「それは――私にも分からないよ」


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