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今までの日常

忘れもしない、十一月の寒い日。

私の人生と価値観ががらりと変わってしまった、いわゆるターニングポイントとなったその日。

私こと佐々木あやめは恥ずかしながら昼の十二時に目が覚めた。

まあ社会人でもない基本的に時間が余りある暇な女子大学生(二回生)としてはギリギリセーフな生活サイクルだろうけど、そんなの免罪符になりはしない。

だって平日だし、大学の講義があるし。

体内時計は滅茶苦茶になるから健康に悪いし。

なんというか女子的にやばい。

本当は大学の講義に出る予定だった。出席を採らないタイプの講義だったけど、講師の人(教授だか准教授だか分からない)の授業は面白くてためになるからだ。それに課題も少ないし、説明上手だし。

だからベットの枕元に置いてあった時計を見て「しまった……」と呟いてしまう。

講義の始まる時間は九時半。

目覚まし時計をセットしたつもりだったけど、起きるどころか熟睡してしまって気づかなかったようだ。

スマホを見てみると友達の京子からLINEが届いてる。

一言、『おーい、どうした?』とだけ。

一緒に受ける予定だったから心配して連絡してくれたのだろう。私は『寝坊した』と返事を送り、とりあえずパジャマから着替えようとタンスの方へ向かった。

服は……適当でいいかな。

着替え終わると洗面台に向かい、髪を梳かして寝癖を直す。そして洗顔をして軽く化粧をする。ナチュラルメイク。いくら何でもすっぴんは恥ずかしい。高校生のときは気にしなかったのに。なんだか不思議だ。

身支度を済ますと、冷蔵庫にあったみかんゼリーを食べながら、スマホを弄り(京子から返事があった。これまた一言『馬鹿』辛辣だ)今日の予定を考える。確か午後の講義があったはず。行くかどうか悩んだ結果、どうせ出席を採らない講義(金曜日はすべてそうだ)だしいいかなと自主休校を決め込む。あとで京子にノートを見せてもらおう。

そうと決まれば手持ち無沙汰だし、掃除でもしようかな。

ゼリーの容器を片付けてクローゼットから掃除機を取り出す。そして窓を開けて掃除機をかける。安物の家電だから音がうるさい。ぶうんぶうんと鳴っている。

稼動音を聞きながら、昨日の晩のことをぼんやりと思い出していた。

そういえば隣の物音、いやにうるさかったなあ。

私の住むマンションは学生だけではなく家族で住んでいる人もいる。

ていうかワンルームなのに家族で住めるって凄いな。家族内でもプライベートやプライバシーぐらいあるはずなのに。

一階上の大竹さんは新婚の夫婦だし、隣の朝日さんはシングルマザーだ。

このマンションは八万二千円の家賃のわりに広々している。

正直一人で住むと寂しく感じる程度の広さだ。その分家具を置けてありがたいけど。

壁も家賃のとおり厚くて、周りの音は聞こえない、静かな環境だった。隣の朝日さんの間にはエレベーターがあるからほとんど生活音が聞こえない。

しかし、昨日の晩はなかなか寝付けなかった。だってドタバタうるさかったもん。

朝日さん(下の名前は分からない)はOLだと聞いている。だから最初は家事か何かしていると思ったけど、こんなにうるさいのは初めてだった。私がこのマンションに住んで五年(住み始めたのは私が現役の高校生だった頃だ)になるけど、今まで例になかった。

私自体ご近所付き合いはそんなにしないけど、それでも会えば挨拶するし、引越し初日にはタオルを配った。まあ角部屋だから朝日さんぐらいしか配らなかったけど。

でもまあ私には関係ないか。

今度また朝日さんに会ったら少しうるさかったですよとくらい言うか。そんな目くじら立てて言うことじゃあないし、普段は礼儀正しく生活しているんだから、軽い感じで言おう。

そう決めた私は掃除機の電源をオフにしてクローゼットに仕舞ってスマホをまた弄る。

今日は寒いけど良い天気だから気分も良いし、久しぶりに誰かと食事でもしたいな。

京子は……サボったことに対して長々文句もとい説教をされそうだからやめよう。それに先週京子の家でごちそうしてもらったし。

だとすれば選択肢は一つしかない。

我ながら交友関係の少なさに衝撃を受けるけど、まあしょうがない。

暇だということを差し引いても、香奈に言いたいこともあったし、丁度いいかな。

私はスマホのLINEで香奈にメッセージを送る。

今の時間帯なら、高校はお昼休みかな?

『午後七時、いつものファミレスで待つ』

 送ってしばらく待つと返事が返ってきた。

『了解。火急かつ速やかに向かいます』

 うーん、私たちのやり取りって女子っぽくないなあ。

 でも女子らしくってなに?

 大学行ってサークル入って、交友して恋愛して、それでリア充になればいいわけ?

 だとしたら私は女子らしくないんだろう。

大学は行ってるけどサークルに入ってないし交友関係は狭いし彼氏もいないし。

 つまるところ、私は世間でいうところの干物女のようだ。

 こんな自分が少し嫌になって落ち込む。

 落ち込むだけで何もしないけど。

 まあいいか、今更面倒だし。

 勉強と同じでかったるしね。

 スマホでゲームしながらテレビを見て(海難事故の報道だ)暇を潰す。

さて、香奈と何を話して何を食べようか。

こんな風に、この時点の私はそんなことをのん気に考えていた。


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