第一章 七節
目覚めて最初に目に入ったのは鉄で出来た無骨な天井だった。
どうやら僕はベットの上に寝かされているらしい。
ズキズキと鈍く痛む頭を抱え、それでも無理に上半身を起こすと、僕はボンヤリした頭で周囲を見回してみた。
丸窓が1つあるだけの、小じんまりした部屋。
消毒液臭く、壁も天井も真っ白だった。
「どこだ? ここ?」
見覚えのない部屋に、疑問がするりとこぼれた。
えーっと? そういや僕、何してたんだっけ?
どうにも記憶が曖昧だ。
調子が悪いのは、頭だけじゃない。
全身に痺れるような感覚があって、動くのも億劫だ。
それでも僕はベットの上を、にじるように移動しベットの縁へと腰掛けると、床へと脚を下ろした。
冷んやりとした、床の感触を直接に感じる。
ん? 何で僕、裸足なんだ?
つーか。僕、全裸じゃん?
毛布が落ちて、剥き出しになった自分の体を見下ろし、僕はそのことに、ようやく気が付いた。
戦争中は完全武装でブーツを履いたまま寝るのが決まりだから、何だか不思議な気がする。
「えーっと?」
僕は意味無く呟いて、後ろ頭をポリポリと掻いた。
何となくベットから立ち上がってみたものの、特に何をどうするという訳でもない。
状況がいまいち、掴めないのだ。
僕はもう一度、部屋の中を見回してみる。
やっぱり見覚えはない。けど、ここが医務室らしいということは分かる。
僕の目の前にある棚にはコゲ茶色をした小瓶やアンプルが整然と並んでいて、背もたれ付きのネズミ色した丸イスと、実用一点張りの事務机があった。
医務室ねぇ? それで全裸? 何かの検査中とか?
んー? 何だか違うような気もする。
どっちにしろ、見覚えない場所で全裸って何だ?
あんまり、いただけない状況である。
ザッと見たカンジ、着替えとか用意されていないみたいだし。
使えそうなものと言ったって、事務机の上には無記入のカルテと鉛筆立て、ホウロウ製のトレイには清潔な包帯や脱脂綿、医療用のハサミとピンセットがあるだけ。
そんなもんで一体何をどうしろと?
イヤ待て。包帯と脱脂綿、どうにかすれば、どうにかなるんじゃないか?
貼り付けたり、いやいや巻き付ける?
あー・・・・ないな。ないない。
そんな恥ずかしい真似するぐらいなら、いっそ全裸で大の字になってる方がマシ。
とか、そんな愚にも付かないことを考えていると、僕の脳裏へと唐突に閃くものがあった。
ああっ! 思い出した! そうだよ! 僕って鹵獲されたんだった!
それも戦場にいないはずの人間の部隊に!
あー。マズイなぁ。これからどうなるんだ僕?
遅まきながら、少し不安になってくる。
全裸で腕組みしつつ、ノイローゼの熊みたく、部屋の中をウロウロする。
血とか抜かれて売られたりしないかな?
ふと、そんな考えが頭を過ぎった。
というのも、ホムンクルスの体液は擬似霊薬で出来ていて、精製して結晶化すれば、それなりに高度な魔術触媒となり、人間の社会ではそれなりの高値で取引されるという噂を聞いたことがあるのだ。
僕はとりあえず、自分の全身をペタペタ触って、痛いところや外傷がないか、確かめてみる。
特に異常なし。
気絶している間に何かされたということは、なさそうなので、ちょっとだけホッする。
と言っても油断は禁物。これから、どんな目に合わされるか分かったもんじゃない。