買い物……
ギルドの宿泊施設に案内され、部屋に通される。
部屋は20畳くらいの広さがあり、大きな机が1つ、椅子が5脚。奥にクローゼットが1つと特大ベットが1つ。
(1つ⁉)
反対側には扉があり、風呂とトイレになっているらしい。
「お出かけになる際は、受付に鍵をお預け下さい。それではごゆっくり」
案内してくれたギルドの人が出て行く。
「「「………」」」
残された3人の微妙な沈黙…。
「イ、イクサ!」
「は、はい⁉」
イクサがビクッとした。
「あ、あのさ、あの扉の向こうの使い方を教えてほしいんだけど?」
「えっ?あ、あぁ、ヒロムさん達は和の国の方でしたね。分かりました」
そして、一通り使い方を教えてもらう。蛇口をひねるだけで水と湯がでることには驚いた。文明の違いを実感した。
ひとまず、ベットのことは置いといて買い物に出かけることにした。
これからモンスターを討伐してお金を稼がなければならないので、武器や防具が必要になる。また、普段着も買いたい。
鍵を受付に渡し、ギルドを出る。
店を探す。先に武器屋に行くことにする。武器屋はたくさんあって、店を構えているところもあれば、道に直接露店をしているところもあった。
祐武は刀を探していたが、どこも置いてなかったので、そこそこ重量がある鞘付きの直剣を購入した。
香奈美は元々武器を必要としていなかったが、魔力を高めるロッドを購入。接近戦では棍としても使える。
イクサは、超近接戦闘を得意としているので手甲を購入。
次に防具だが、祐武と香奈美はもともと防具を着て戦ってなかったので、この町で売っている重量のある防具は合いそうになかった。逆に動きを阻害される恐れがある。
イクサは接近戦を行う為、防具はしっかりした物をと考えていたのだが、イクサは断る。
「遠慮しなくていいんだよ。イクサはもう俺たちの仲間なんだから」
「ありがとうございます。すごくうれしいです。でも、本当に大丈夫です。私、避けるの得意なんです!」
それでも、今の服で戦わせるのは心配なので、軽量の革で出来た防具を購入した。
「ありがとうございます!」
それから、普段着を買いにいく。
結論を言うと、祐武は何もしていない。
女性2人の服に対するこだわりは凄かった。何店舗も店をまわり、2人できゃぁきゃぁ言いながら服を選んでいた。祐武の服も2人が選んでくれて、最終的に1人3着ずつと寝間着を2着ずつ購入した。結局、所持金が半分にまで減っていた……。
荷物がたくさんになったので、一旦宿に帰ることにする。その帰り道、
「綺麗な服たくさんあったし、また買いに行こうね!」
「はい!私、新しい服買ってもらったの生まれて初めてです」
2人がいつもの間にか仲良くなっていた。満足そうな2人の顔をみていると、心の底から良かったなと思える。
(この2人の笑顔は俺が守らないと……!)
ギルドの宿に戻り、購入した物を整理する。3人とも新しい服に着替えると、もう夕暮れになっていた。
お腹も空いたので夕ご飯を食べに再び出かける。
ギルドには食事をする場所がないので、外に探しにいかなければならない。
さっき出かけた時にある程度目星をつけていたので、まっすぐそこに向かう。
『可愛いあひるの子』
飲食店としてその名前の由来は想像出来ないが、名前からして物騒な人は寄り付かなそうなのでここにした。
買い物をしている時に時々目にした狩人の人達はみんな、ゴツイ装備して、強面ばかりだったのだ。
カランカラン
店に入ると、まだ時間が早いせいか客は少なかった。丸テーブルが全部で10くらいで、1つのテーブルに4脚ずつ椅子がある。
カウンターには、厳ついマスターと兎の耳を生やした店員がいて、席に案内して、注文を聞きにきた。日替わりメニューがあると言うので3人分注文した。
「あなた達、新顔?凄く若いし、全員黒髪なんて変わったパーティね?それに、2人の女性はかなりの美人だし」
「……そんなに目立ちますか?」
「そりゃあねぇ……、でもうちの店は誰でもお金さえ払うなら差別はしないから安心して」
そんな話しをしている間に料理が出てくる。かなりの量だったが味は文句無しで、3人とも完食だった。
そして、早々に店を出る。食事をしている間にも客は増えていき、祐武達への注目度が半端なかったのである。誰からも話しかけられることはなかったが、居心地の悪いことこの上なかった。
「またよろしくね〜」
店員の声に押されて店を出る。美味しかったし、店員の人も気さくな人ばかりだったので、また来ようと思う。
そして、ギルドに帰り、先延ばしにしていた問題に直面する。
まず、脱衣場がないこと。そして、ベットは1つ。
着替えや風呂は、祐武を信じて目を瞑ってもらうことに決まった。
ベットのことは、
「俺は、床で寝るから、女性陣が使って」
と祐武が言うと、
「そんなことできません。私が床で寝るのでヒロムさんはベットで寝て下さい」
と、イクサが頑なに言う。
そんなやり取りを何往復もしていたら、さすがに香奈美が、
「いい加減にして‼ 3人で寝ればいいでしよ‼」
と言って、強制的に決定。
しかし、今度は寝る位置で香奈美とイクサが揉め、最終的に祐武が真ん中ということに落ち着いた。念のために言うと、祐武に選択権はなかった。
(俺の立場って……)
不安が絶えない祐武であった。