イクサ……
ギルドから出てくると、シーラさんがいた。どうやら待っていてくれたらしい。
「シーラさん、何からなにまで本当にありがとうございました。僕達、シーラさんがいなかったらどうなっていたかわかりません」
「おや、言葉が分かるようになったわね。良かった。それから、助けてもらったのはこっちさね。ほら、イクサ?」
シーラさんの後ろからイクサが出てくる。
「あの、あの時助けてくれて、ありがとうございました。ずっとお礼が言いたくて。でも…」
イクサの尻尾が小刻みに揺れている。緊張しているのかも。
「ううん、あの時は咄嗟のことだったから。でも、イクサみたいな可愛い子から感謝されるのは悪くないかな?」
冗談のつもりで言ったつもりだったが、イクサは顔を真っ赤にする。そして、
「がっ⁈」
横腹に衝撃⁈ 香奈美の肘鉄を食らった。すごい睨んでいる。
「……それで、これからイクサはどうするの?」
「………」
途端にイクサの元気がなくなる。耳と尻尾もしょんぼりしているみたいだ。
「…イクサはこれから孤児院に行くんだよ」
「えっ?」
変わりにシーラさんが答えた。その声にも元気がない。
「うちは商人やから、これからも町を転々と移動することになる。また今回みたいな危険な目には合わせたくないんだよ」
(……確かにそうかもしれないけど)
その時、ふとこちらを見ているイクサの悲しそうな瞳と目が会う。無意識に、
「イクサはどうしたい?」
と聞いていた。
イクサは驚いていたが、決意のこもった目して、
「私、ヒロムさんと一緒に行きたいです。命を助けてもらった恩返しがしたいです」
「俺たち無一文だよ?」
「それでもいいです」
意志は固いようだ。シーラさんに目配せすると、笑顔で頷いてくれた。
「うん、じゃあ、これからよろしくね、イクサ?」
「は、はい!よろしくお願いします!」
瞳に涙を溜めながらも笑顔でお礼を言うイクサをみる
香奈美は、苦笑しながら、
「祐ならそうすると思ったよ」
と言ってくれた。
「流石、私が見込んだ男だね」
シーラさんは上機嫌に祐武の背中を叩く。
「うちらはしばらくこの町にいるから、何か困ったことがあったらすぐに言うんだよ!」
「ありがとうございます。こちらこそお世話になりました。このご恩は必ず返します」
「もういいって言ってるのに……」
それからイクサはなかなかシーラさんとお別れの挨拶ができないでいた。
「イクサもこれからしっかり頑張るんだよ」
シーラさんが苦笑してイクサを励ます。
「ジーラざーーん」
号泣してシーラさんに抱きつく。
「おやおや、そんなことで大丈夫なのかい?」
そういうシーラさんも涙ぐんでいるようだ。
「わたし、も、頑張、ります、グスッ」
「そうしなさい。そして偶にでも元気な姿を見せにきておくれ」
「…はい!」
そうやって2人抱き合っていると、本当の親子みたいだった。
そうして、シーラさんと別れたが、
「それじゃ、自己紹介。俺は祐武。鬼頭祐武。ヒロムって呼んでね」
「私は祐の幼馴染の烏間香奈美っていうの。これからよろしくね!」
「はい。よろしくお願いします!私、イクサです。えと、人狼です。それから、特技は拳闘術です。それから、えーと……」
「拳闘術?イクサは戦えるの?」
「あまり強くないですが、拳闘術はちょっとだけ自信があります。人狼族は子供の時から拳闘術を教え込まれます。私は教えてもらえませんでしたが……。で、でも何度かモンスターとも戦ったこともあります。私、ヒロムさんの役に立ちたいんです」
「大丈夫だよ、イクサ。落ち着いて」
「ごめんなさい」
「いいんだよ。これからお互いのことを知っていこう!」
「はい!」
「さて、これからどうしようか?」
「もう祐はいつもそうなんだから!」
香奈美が呆れている。
「い、いや、ちゃんと考えてるよ。とりあえず、ここでのお金を稼がないといけないから、とりあえずギルドで依頼を受けようと思うんだけど」
「ふーん。じゃあ、行きましょうか」
「あのー……、」
「ん?なにイクサ?」
イクサが遠慮がちに聞いてくる。
「ずっと香奈美さんが持っている、その珠は何ですか?」
そういえば忘れていた……。
「これは鬼、じゃなくてモンスターを倒した時に落ちてたんだ。多分そのモンスターが持ってたものだと思うんだけど」
「綺麗でしょ?」
なぜかドヤ顔で香奈美が言っているが、イクサは真剣に珠を見ていて、全く聞いてない。
「イ、イクサ?ど、どうしたの?」
香奈美の機嫌が急降下を始め、祐武が怯える。
「こ、これっ!魔龍珠じゃないですか!こんな大きな珠、見たことないです!」
イクサ、1人で大興奮。尻尾がすごい勢いで揺れている。
その様子に香奈美が機嫌を良くし、
「そうでしょ⁉私が倒したんだから‼」
「これ、すごく高値で売れるんですよ!」
完全に香奈美の声は聞こえてなかったみたいだが、
「え?そうなの?」
「おそらく、当分の生活費はまかなえると思います!」
それは有難い情報だ。早速ギルドへ行き、受付の人に渡す。
買取り価格は10万ゼニであった。平均的な宿屋の宿泊費が食事も込みで1人、200ゼニくらいらしいので、かなりの金額になる。
早速、課金してもらうことにする。
「所持金はギルドカードに入ります。買い物もギルドカードでのお支払いとなります」
「ヒロム様はパーティのことはご存知でしょうか?」
「いえ、知りません」
「パーティとは、戦闘を行う際の最小の班のことで、最大加入人数は8人です。パーティを結成しますと、パーティ内の仲間の情報を知ることができます。また、仲間の位置が把握でき、念話を使うことができます。それから、討伐などで得た報酬は一旦パーティの共有財産となりますので、戦闘を行う際は、パーティを結成することをお勧めします」
(なるほど、いいことばかりなら作ったほうがいいかな)
「パーティはどうやって結成したらいいんですか?」
それから説明を聞き、実際に香奈美とイクサをパーティに入れてみた。
特に変わった変化はない。
試しに自分のギルドカードをみてみると、
パーティメンバー
ヒロム・キトウ
カナミ・カラスマ
イクサ
と表示され、(香奈美)と念じると香奈美のギルドカードの情報を見ることが出来た。そして(イクサ)と念じると、
イクサ 16歳 ランク1
種族 人狼
称号 拳闘士見習い
攻撃力 / 180
防御力 / 155
魔力 / 50
精神力 / 55
敏捷 / 280
器用 / 105
会心率 / 10%
パーティ・ヒロム所属
(ギルドカードって便利だなぁ)
とりあえずお金を確保出来たので、次は宿の確保だ。
「すみません、どこか宿屋を教えてもらえませんか?」
「それなら、ギルドでも経営しているのですが、お値段は他より高めになっております。民宿でお探しなら、近くに「宿り木」「オアシス」「森羅万象」などがございます」
「ギルドの値段はどのくらいですか?」
「1部屋食事無しで300ゼニです」
「どうしようか?」
祐武は2人と相談する。
「いいんじゃない?今から探すのも大変だし」
「ギルドの宿泊施設はランクが高いことで有名ですが、私にはもったいない気がします…」
イクサは消極的な思考傾向にあるようだ。育ってきた環境が関係しているのかもしれない。
「大丈夫だよ、イクサ。よし、ギルドに泊まることにしよう。すみません、3人分いいですか?」
「かしこまりました。それでは300ゼニになります」
「え?……3人分なので900ゼニじゃないんですか?」
普通の質問をしたはずなのに、逆に変な顔をされた。
(え?俺、なんか間違えた?)
すると、イクサが祐武の袖を引っ張って、
「ヒロムさん、パーティで1部屋借りるのが普通なんです。1人1部屋を借りるのは裕福な貴族や、高ランカーの狩人くらいです」
遠慮がちにとんでもないことを言ってきた。
香奈美も驚いた顔をしていたが、
「別にいいんじゃない?……私は祐となら全然大丈夫だし、今さらって気もするし……」
と、頬が少し赤くなっている。イクサも、
「…私と一緒じゃ申し訳ないんですが、ヒロムさんがよかったら……」
と、消極的にも1部屋を支持してくる。
女性2人にこう言われたら、祐武に否定する理由もなく、
「すみません、1部屋お願いします…」