表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/33

イクサ……

ギルドから出てくると、シーラさんがいた。どうやら待っていてくれたらしい。


「シーラさん、何からなにまで本当にありがとうございました。僕達、シーラさんがいなかったらどうなっていたかわかりません」

「おや、言葉が分かるようになったわね。良かった。それから、助けてもらったのはこっちさね。ほら、イクサ?」


シーラさんの後ろからイクサが出てくる。


「あの、あの時助けてくれて、ありがとうございました。ずっとお礼が言いたくて。でも…」


イクサの尻尾が小刻みに揺れている。緊張しているのかも。


「ううん、あの時は咄嗟のことだったから。でも、イクサみたいな可愛い子から感謝されるのは悪くないかな?」


冗談のつもりで言ったつもりだったが、イクサは顔を真っ赤にする。そして、


「がっ⁈」


横腹に衝撃⁈ 香奈美の肘鉄を食らった。すごい睨んでいる。


「……それで、これからイクサはどうするの?」

「………」


途端にイクサの元気がなくなる。耳と尻尾もしょんぼりしているみたいだ。


「…イクサはこれから孤児院に行くんだよ」

「えっ?」


変わりにシーラさんが答えた。その声にも元気がない。


「うちは商人やから、これからも町を転々と移動することになる。また今回みたいな危険な目には合わせたくないんだよ」


(……確かにそうかもしれないけど)


その時、ふとこちらを見ているイクサの悲しそうな瞳と目が会う。無意識に、


「イクサはどうしたい?」


と聞いていた。

イクサは驚いていたが、決意のこもった目して、


「私、ヒロムさんと一緒に行きたいです。命を助けてもらった恩返しがしたいです」

「俺たち無一文だよ?」

「それでもいいです」


意志は固いようだ。シーラさんに目配せすると、笑顔で頷いてくれた。


「うん、じゃあ、これからよろしくね、イクサ?」

「は、はい!よろしくお願いします!」


瞳に涙を溜めながらも笑顔でお礼を言うイクサをみる


香奈美は、苦笑しながら、


「祐ならそうすると思ったよ」


と言ってくれた。


「流石、私が見込んだ男だね」


シーラさんは上機嫌に祐武の背中を叩く。




「うちらはしばらくこの町にいるから、何か困ったことがあったらすぐに言うんだよ!」

「ありがとうございます。こちらこそお世話になりました。このご恩は必ず返します」

「もういいって言ってるのに……」


それからイクサはなかなかシーラさんとお別れの挨拶ができないでいた。


「イクサもこれからしっかり頑張るんだよ」


シーラさんが苦笑してイクサを励ます。


「ジーラざーーん」


号泣してシーラさんに抱きつく。


「おやおや、そんなことで大丈夫なのかい?」


そういうシーラさんも涙ぐんでいるようだ。


「わたし、も、頑張、ります、グスッ」

「そうしなさい。そして偶にでも元気な姿を見せにきておくれ」

「…はい!」


そうやって2人抱き合っていると、本当の親子みたいだった。



そうして、シーラさんと別れたが、


「それじゃ、自己紹介。俺は祐武。鬼頭祐武。ヒロムって呼んでね」

「私は祐の幼馴染の烏間香奈美っていうの。これからよろしくね!」

「はい。よろしくお願いします!私、イクサです。えと、人狼です。それから、特技は拳闘術です。それから、えーと……」

「拳闘術?イクサは戦えるの?」

「あまり強くないですが、拳闘術はちょっとだけ自信があります。人狼族は子供の時から拳闘術を教え込まれます。私は教えてもらえませんでしたが……。で、でも何度かモンスターとも戦ったこともあります。私、ヒロムさんの役に立ちたいんです」

「大丈夫だよ、イクサ。落ち着いて」

「ごめんなさい」

「いいんだよ。これからお互いのことを知っていこう!」

「はい!」




「さて、これからどうしようか?」

「もう祐はいつもそうなんだから!」


香奈美が呆れている。


「い、いや、ちゃんと考えてるよ。とりあえず、ここでのお金を稼がないといけないから、とりあえずギルドで依頼を受けようと思うんだけど」

「ふーん。じゃあ、行きましょうか」

「あのー……、」

「ん?なにイクサ?」


イクサが遠慮がちに聞いてくる。


「ずっと香奈美さんが持っている、その珠は何ですか?」


そういえば忘れていた……。


「これは鬼、じゃなくてモンスターを倒した時に落ちてたんだ。多分そのモンスターが持ってたものだと思うんだけど」

「綺麗でしょ?」


なぜかドヤ顔で香奈美が言っているが、イクサは真剣に珠を見ていて、全く聞いてない。


「イ、イクサ?ど、どうしたの?」


香奈美の機嫌が急降下を始め、祐武が怯える。


「こ、これっ!魔龍珠じゃないですか!こんな大きな珠、見たことないです!」


イクサ、1人で大興奮。尻尾がすごい勢いで揺れている。


その様子に香奈美が機嫌を良くし、


「そうでしょ⁉私が倒したんだから‼」

「これ、すごく高値で売れるんですよ!」


完全に香奈美の声は聞こえてなかったみたいだが、


「え?そうなの?」

「おそらく、当分の生活費はまかなえると思います!」


それは有難い情報だ。早速ギルドへ行き、受付の人に渡す。


買取り価格は10万ゼニであった。平均的な宿屋の宿泊費が食事も込みで1人、200ゼニくらいらしいので、かなりの金額になる。


早速、課金してもらうことにする。


「所持金はギルドカードに入ります。買い物もギルドカードでのお支払いとなります」


「ヒロム様はパーティのことはご存知でしょうか?」

「いえ、知りません」

「パーティとは、戦闘を行う際の最小の班のことで、最大加入人数は8人です。パーティを結成しますと、パーティ内の仲間の情報を知ることができます。また、仲間の位置が把握でき、念話を使うことができます。それから、討伐などで得た報酬は一旦パーティの共有財産となりますので、戦闘を行う際は、パーティを結成することをお勧めします」


(なるほど、いいことばかりなら作ったほうがいいかな)


「パーティはどうやって結成したらいいんですか?」


それから説明を聞き、実際に香奈美とイクサをパーティに入れてみた。


特に変わった変化はない。


試しに自分のギルドカードをみてみると、


パーティメンバー

ヒロム・キトウ

カナミ・カラスマ

イクサ


と表示され、(香奈美)と念じると香奈美のギルドカードの情報を見ることが出来た。そして(イクサ)と念じると、


イクサ 16歳 ランク1

種族 人狼

称号 拳闘士見習い

攻撃力 / 180

防御力 / 155

魔力 / 50

精神力 / 55

敏捷 / 280

器用 / 105

会心率 / 10%


パーティ・ヒロム所属


(ギルドカードって便利だなぁ)




とりあえずお金を確保出来たので、次は宿の確保だ。


「すみません、どこか宿屋を教えてもらえませんか?」

「それなら、ギルドでも経営しているのですが、お値段は他より高めになっております。民宿でお探しなら、近くに「宿り木」「オアシス」「森羅万象」などがございます」

「ギルドの値段はどのくらいですか?」

「1部屋食事無しで300ゼニです」


「どうしようか?」


祐武は2人と相談する。


「いいんじゃない?今から探すのも大変だし」

「ギルドの宿泊施設はランクが高いことで有名ですが、私にはもったいない気がします…」


イクサは消極的な思考傾向にあるようだ。育ってきた環境が関係しているのかもしれない。


「大丈夫だよ、イクサ。よし、ギルドに泊まることにしよう。すみません、3人分いいですか?」

「かしこまりました。それでは300ゼニになります」

「え?……3人分なので900ゼニじゃないんですか?」


普通の質問をしたはずなのに、逆に変な顔をされた。


(え?俺、なんか間違えた?)


すると、イクサが祐武の袖を引っ張って、


「ヒロムさん、パーティで1部屋借りるのが普通なんです。1人1部屋を借りるのは裕福な貴族や、高ランカーの狩人くらいです」


遠慮がちにとんでもないことを言ってきた。


香奈美も驚いた顔をしていたが、


「別にいいんじゃない?……私は祐となら全然大丈夫だし、今さらって気もするし……」


と、頬が少し赤くなっている。イクサも、


「…私と一緒じゃ申し訳ないんですが、ヒロムさんがよかったら……」


と、消極的にも1部屋を支持してくる。


女性2人にこう言われたら、祐武に否定する理由もなく、


「すみません、1部屋お願いします…」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ