覚醒…
香奈美の姿は、少し時間がたつと元にもどったが、翼だけはそのままだった。
その翼も、先ほどは純白だったが、今は漆黒。
香奈美は今も祐武の腕のなかでおとなしくしている。
「落ち着いた?」
「………うん」
そう言いながらも離れようとしない。
なので、そのまま話す。
「多分、俺と一緒だと思う」
「………一緒?」
「うん、さっきの香奈美の変化は、俺の鬼化とそっくりだった。香奈美のご先祖様は烏天狗の血を引いていたから、香奈美もその血を受け継いでいたんだよ」
(俺の鬼の血と同じように)
「でも、なんで今になって?」
その答えにも予想はついていた。
「俺の血せいじゃないかな?」
「祐の血?……あっ、さっき舐めた⁈」
「うん、俺の血に反応したんだと思う」
「……ごめん」
里から連れ出して遭難させ、今度は自分の血で香奈美を穢してしまったと、後悔と申し訳なさでいっぱいになる。
「……本当にごめん」
「なんで祐が謝るの?」
香奈美が腕の中から見上げてくる。
「私、祐と一緒になれて嬉しいよ。最初は驚いたけど、祐と一緒ならそっちの方がいい」
強がりかもしれないが、その言葉がすごく嬉しかった。
「元気づけるつもりが、逆に元気づけられたね」
「あは、祐らしいっ」
「でも、この羽、どうしよう?」
「多分、その羽も自分で消せると思うよ。俺の角みたいに。消えろって念じてみて」
「うん………………」
目を瞑ってから、ちょっとして、無事に音もなく翼が消える。
「………………」
「香奈美、もう羽消えてるよ?」
「えっ?あっ、ほんとだ」
「じゃ、今度は羽を出してみて?」
「うん………」
今度はすぐに生えた。
普段から氣を扱い、攻撃や防御を行っている為か飲み込みが早い。
(俺の時は結構時間かかったのに…)
「じゃ、今度は、さっきの、覚醒?みたいな姿になってみて。自分のなかにある力を外に出す感覚で」
「やってみる」
そして、香奈美はすぐに覚醒の姿となる。
(やっぱり香奈美はすごいな)
驚きやら、飲み込みの早さにあきれるやらで、苦笑するしかない。
(俺の感覚が鈍いんじゃなくて、香奈美がすごいんだと思うことにしよう………)
「ねぇねぇ、祐ー、みてー‼」
1人でぐちぐち考えていたら、なぜか香奈美の声が上から聞こえてきた。
(上………?)
「………は?」
香奈美が飛んでる?
羽があるから飛べるのは当たり前か?
(いやいや、おかしいでしょ⁈
香奈美の適応力って、どんだけ………)
そんな祐武をおいて、香奈美はどんどん高度上げ小さくなっていく。ある程度上昇すると、今度は旋回し始める。
そして、すぐに降りてきた。
「飛ぶって気持ちぃー!」
(もう、何も考えまい。香奈美はできる子、それでいい)
無理やり自分を納得させる。
「今度は、祐も一緒に飛ぼ?」
「いや、俺は飛べないから」
「そっか。じゃ私が抱っこしてあげる」
(いや、抱っこって……)
「今なら何だってできそう!」
上気した顔で顔を近づけてくる。
(うわっ、ますます綺麗になってる‼)
「っ…じゃなくて!
香奈美、あっちの木に向かって、いつもの焰氣弾うってみてよ」
「? 分かった」
不思議そうに手を向けて放とうとする。と、いつもの数倍の大きさの球になり高速で飛んでいく。
そして、目標の木に衝突するが、勢いは衰えず後方の木々を破壊しながら飛んでいってしまった。
一本の道ができていた………。
「………」
「………」
ここまでの威力とは思っていなかった。
2人とも沈黙。
「……こういうことにならない為にも、氣の鍛錬をしないとね」
「……うん」
とりあえず、香奈美も落ち着いたので、本来の目的である食べれる物を探すことにした。
日が傾いてきたので、採取をやめて寝床を探すことにした。が、結局見つからなかったので、川辺の近くに枯葉を集めて仮の寝床にする。
採れた少ない木の実を2人で食べて、日が暮れるとともに、早々に寝ることにした。
一定の間隔をあけて並んで寝転ぶ。
(明日から、どうなるんだろう)
祐武が寝転びながらか考えていると、
「祐、もっとこっちきて!」
香奈美が手を引っ張る。
肩が当たるくらいまで寄ると、上から柔らかい何かがかぶさる。
「?」
「へへっ、いいでしょ」
よく見ると、香奈美の翼だ。すごく柔らかくてすごく温かい。香奈美の匂いがする。
「祐…」
「うん?」
「ずっと一緒だよ?」
「うん」
やはり疲れていたようだ。2人は寄り添ってすぐに眠りにつく。