旅立ち……?
その夜…
里を囲む砦に狭い間隔で松明が焚かれ、兵が森に目を光らせている。
その里を横断するように流れている川に、2人分の影が揺れるている。
祐武と香奈美。
「で、どうしたの?こんな時間に」
そわそわ落ち着きなく、こっちをちらちら見てくる。
いつも活発な香奈美らしくない。ま、こんな夜中なのだから警戒してるのかも。
なので、直球勝負。
「里を出ようと思う」
「は?」
香奈美はポカンとしてる。
「ごめん、前から考えてたんだ。俺、この里を出て武者修行も兼ねて世界をこの目で見て見たいんだ」
「は?」
香奈美は相変わらずポカン。
「力を持つ者としてこの里を護る義務があるのは分かってる。でも、多分行けるとしたら今しかないと思う。父上と母上は説得した。必ず強くなって帰ってくることがじょ
「ちょっ、ちょっと待ってっ‼」
香奈美が止める。何やら肩が震えている。
「告白は?」
「ん?」
「静かな夜に呼ばれて2人っきりってなったら、普通告白でしょっ‼」
「あの、香奈美?」
「黙りなさいっ‼」
「はいっ」
「私がどれだけドキドキしながら待ってたと思ってるの。ずっと待ってたのに祐は何もいってこないし。いきなり里を出るってなに?なんで相談してくれないの?小さい頃からずっと一緒だったのに。大体、祐は鈍感過ぎなのよ。私がどれだけ…………………」
(やばい、香奈美のスイッチが入った…)
永遠に続きそうな香奈美の愚痴を止めるべく、というか俺の心が持たない…。
「香奈美、聞いてくれ」
「何よ、唐変木」
「………」
「何よ、鈍感男」
「………俺と一緒に来てくれないかな」
「何よ、かいしょ………え?」
「ごめん、相談しなくて。里を出るってことは危険もあるってことで、俺のわがままで香奈美を
「行きます!」
「えと、よく考えてからで
「行きます!」
「でも、おじさん達に
「説得する!」
もう梃子でも動きそうにない。
「うん、ありがとう。俺も香奈美と一緒に世界を見てみたい」
「うん‼」
今までで一番の笑顔だった。
それから一週間後にはもう2人は船上の人になっていた。
見送りは予想通り少なかったが、2人の両親が暖かい言葉と共に送り出してくれた。それで十分だった。
里から船までは、たまに訪れる行商団に混ぜてもらい港まで。
そこから船に乗り、隣の島に行く予定だ。
およそ2日程で着くらしい。
船はそこそこ大きな帆船で、2人は見るのも初めてで、船の中をぐるぐる周り、一通り見学すると、甲板で並んで自分達がいた島を見ていた。
出港して最初の夜、船は嵐に見舞われる。
そして、船内では、
「ううっ、気持ち悪いぃぃ」
祐武は唸る香奈美の背中をずっとさすっている。完全な船酔いである。
今まで船も見たことなければ乗ったこともなかったので知らなくて当然なのだが。
(この先大丈夫かな?…)
幸先不安を拭えない祐武である。
「香奈美、大丈夫?」
「ううぅ…ううぅぇ」
「さっき人に聞いたら、風に当たると落ち着くんだって。ちょっと外に出よう」
香奈美に肩を貸し、半ば引きずるように外に連れ出す。
嵐のせいで雨風は強く、船はかなり揺れているが、船内よりはいいのだろう。
香奈美は手すりに捕まりながら深呼吸を繰り返している。
先ほどよりは顔色もよく楽そうだ。
祐武は安堵し、香奈美の背中をさすろうとてを伸ばす
「ぅわっ⁈」
「きゃ⁈」
波に煽られた船が大きく傾き、2人はなす術もなく海に投げ出されてしまった。
とっさにお互いの手を握り合い離れずに済んだが、それが動きを制限してしまう。
慌てる思考の中で、それでも繋いだ手は絶対離すまいとぎゅっと力を込めていた。
死ぬなら一緒に。
誰も2人が落ちたことに気づかなかった。