プロローグ 鬼の里
周囲を海で囲まれた島国。
人が寄り付かない山奥に隠れ里があった。
里は、千人くらいの小さな集落で、四方を山に囲まれたあまり外界と関わりを持たない閉鎖的な里である。
四季があり、多種の農作物が良く育ち、川魚もいる。人が暮らしていくには十分な環境だが、里の者以外はあまり寄り付かない。
一番近くの人里からかなりの距離があるのも一つの理由だが、もう一つ大きな理由がある。
付近の山には鬼がでるのである。
この島国には人から鬼と呼ばれる生物が存在している。大昔から存在し、人とは相容れない関係で、人が鬼に襲われる、鬼が人に討伐されることが昔から繰り返されてきた。
鬼は、多種多様な形態が確認されており、小型のものは子供くらいの背丈しかない。大型なものは大人の5倍の背丈を超えるものもいる。言い伝えによれば、山と並ぶ超特大の鬼もいたとか…。
しかし、鬼の生息数はかなり少ないと思われる。
現に、他の里などで普通に生活していれば、一生会うことがないほどである。
他の里の者からしたら、「遠い場所で鬼がでたらしいよ」といった世間話で終わるだろう。
だが、この里では違う。
里を囲んでいる四方の山には、鬼がうじゃうじゃ生息している。里の者以外が近づかない、というか、近づけない大きな理由。
基本的に鬼は夜に活動が活発になるので、日が登っているうちは、ほとんど遭遇することもないし、里に降りてくることもない。
ということは、夜には鬼の襲撃の可能性があるわけで…。
必然的に、里の者と鬼の戦闘は頻繁に発生する。
そして、里の者は武を磨く。
しかし、鬼は人の武力を軽く圧倒する。
鬼の中でも小型の鬼で餓鬼と呼ばれる種は、背丈は成人男性の半分しかなく、弱い。
だが、中型大型の鬼になれば、鬼1匹に対し武人が10人以上で対するも、力不足の場合もあった。
里の者は頭を抱えた。これでは、里が滅ぼされてしまう。
その時、1人の者が愚痴をこぼした。
「俺に鬼の力があれば…」
それを聞いた周りの者は、戯言だと気にもとめなかったが、一部の者達はこの一言に感化させられた。
鬼の力を手に入れようと様々な実験が行われた。祈祷や魂を融合させようとしたり、鬼の身体の一部を食べた者までいたが、ほとんどが失敗に終わり、犠牲者も少なくなかった。
そのなかで、鬼の血を飲み続けた者と、陰陽道に秀でた者が成功した。しかし、その後、同じ方法で試しても成功する者はいなかった。
この2人が中心となり鬼を討伐し、その成果は群を抜いていた。そして、この2人の家系が後に武家として栄華を極めた。
鬼頭家と烏間家である。