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第2話 死んでも働きたくないでござる

 さて、そんなことを考えている私だけど、何と侯爵家の嫡男として転生してしまった。

 嫡男だよ、嫡男。侯爵家当主であるお祖父ちゃんの長男さんが奥さんと頑張った末に産まれちゃった一番目の男の子。なんか生々しいけどそういうことだよね。

 つまり次の次の当主になることが産まれながらにして定められているってことになるらしい。

 だが言わせて欲しい!

 私は働きたくないでござる!絶対に働きたくないでござる!


 さて、転生したと言ったけど、そう言ったからには当然前世のことも良く覚えている。

 それはもう履歴書が書けるほどに。

 なぜなら大学卒業後の履歴が真っ白だからね!


 就職活動のおかげで私は悟りをひらけたよ。

 働いてもろくなことがないってね。

 一番印象に残っているのは面接官の物凄い上から目線。

 「別にうちは無理して取らなくてもいいんだけど?どうしてもっていうなら有能で文句を言わずに働ける人だけ考えてあげてもいいかな」って言うのがありありと表れてた。

 これ就職したら絶対、「別に辞めてもらってもいいよ?他に仕事あるならね。プッ」になると思ったよ。

 そこから始まる就職難であることを盾に死ぬまでサービス残業させられる無限地獄。

 だから私は働かないことを選択した。


 そう。自ら選択したのだ。


 そうと決めてからの行動は早かった。

 まずは『絶対に働きたくないでござるSNS』というサークルをネット上で立ち上げ、仲間たちを集った。

 そして情報交換を行い、どうすれば働かずに済むのかをみんなで話し合った。

 仲間がいうというのはとても心強いものである。

 考え方はみんな似たようなもので、私たちも別に周りに迷惑をかけたいわけじゃなかった。

 だから周囲や家族に迷惑をかけず、如何にして働かないようにするか、毎日のように建設的な話し合いが繰り返し行われた。

 いつになったら死ぬのって?まぁちょっとまって。もうすぐ死ぬから。


 そして三度目の『働きたくないでござるオフ』で私は死んだ。

 ほら、すぐ死んだでしょ。

 いや、正確には殺されたんだけどね。

 それも大学からの親友で、かつ、『絶対に働きたくないでござるSNS』の戦友であるともちゃんの弟くんに。

 よほどお姉ちゃんのことが好きだったんだろうね。心配だったんだろうね。

 弟くんからすれば私なんて愛すべき姉を悪の道へと引きずり込む外道にしか見えなかっただろうね。

 私としては救世主くらいのつもりだったんだけど。


 今際いまわきわに私が願ったことはたった一つだけ。

 『迷惑をかけたくない』

 このままじゃ戦友であるともちゃんの弟に犯罪暦が付いてしまう。

 そうなるとともちゃんは犯罪者の家族ということになってしまう。

 それだけはあってはならない。

 『迷惑をかけたくない』ことは『働きたくない』ことと並ぶ私の矜持だ。

 だから私はただただ願った。

 死んでも『迷惑をかけたくない』と。

 すると不思議なことに私の身体はまるで光の粒となって消え始めた。

 きっと神様が私の願いを聞き届けてくれたのだと思った。

 だから私は思い残すことなく辞世の句を口にすることができた。


「ありがとう……これで働かなくて……済む……よ……」


 友ちゃんが泣いている。私なんかのために泣いてくれている。

 たったそれだけで私は満足してしまった。

 そしてついに私の身体は最後の一粒まで光となって消えてしまった。

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