恋い焦がれる愉快犯
驚愕の真実を武瑠の前で告げる一尺八寸に感じる感情とは…
俺は無我夢中でこういった。どうもいつもの俺らしくなかった。事を早急に終わらせて家に帰ることだってできたはずだ。
しかし俺は武瑠を呼び止めた。
武瑠は振り向かないでそのまま佇んでいた。
「お前はそれでいいのか?」
「何言ってんだ。」
俺にはその言葉がひどく重く感じた、その上吐き気も感じられた。
冷徹だと自分でも自負していた俺が、感情論的に、気から病を感じることなどありえなかった。
「東雲をこのまま犯人扱いしていいのか?」
「東雲は犯人じゃないのか?」
こいつ本気で言ってるのか?だったら、あいつを救ってやらなければならない。東雲も、武瑠の事も。
「いいか。お前は間違っている。俺は今さっき、どうしても矛盾や疑問点が浮かぶ最悪で荒唐無稽な証明をした。けど、お前は何とも言わなかった。今から俺がいってやる。二重丸の証明を。」
武瑠は振り向かなかった。それでも俺は良いと判断した。武瑠がここから立ち去らなければ、それでよかった。
「まず、さっきの証明の否定から言う。これは簡単だ。何故、犯人が東雲秋桜だと結論が出たのか。もしかしたら、犯人は東雲じゃないのかもしれない。吹奏楽の生徒だったらみんな犯人である可能性は高い。しかし、俺は東雲しか吹奏楽で知っている人間はいなかったから、今日の武瑠との会話で勝手に判断した。これはどう考えてもおかしい。もし武瑠が頭の悪い奴だったら、これで良かったからそれでも良かったかもしれない。けど武瑠はそんな奴じゃない。武瑠は前まではよく知らなかったが、今日話した中で、お前は注意深くて、思慮の深い奴だと分かった。そして、この証明は俺がわざと間違えて、今お前に言ったものだ。いいや、わざとじゃないのかもしれない。最初はこういう答えが出た。しかし、この結論を言う前から、俺の中で絶対に違うと思っていた。俺は頭は良いから、間違った答えを出すのが嫌いなんだ。冗談は言っても嘘は言わない。しかし、今日俺はお前に嘘をついた、それはなんでかわかるか?」
「……………………」
武瑠は何も言わなかった。それが俺にはものすごく辛く思えた。
「お前が、犯人だからだ。」
武瑠は振り返ろうとしなかった。
「なんでそう思ったんだ。」武瑠はそういった。何かを含むようなゆっくりとした発言だった。
「俺のさっき言った証明が、お前が俺に東雲秋桜が犯人だといわせるために仕組んだ証明だったからだ。」
武瑠はそう驚きもしなかった。
「まず、俺が東雲秋桜が犯人だと結論出した理由を聞いてもらおう。まず、俺は武瑠との会話で犯人捜しをすることになった事から、俺は犯人を捜し出すことになった。お前は今日6時限目に放送がかかったときこういった。『何が起こったんだろうね。』そしてこうとも言った。『学年1位の秀才が何言ってるんだよ。』これは別におかしくもなんともない会話だ。しかし、武瑠はこの俺が、何が起こったかなんて探究するほど、多彩な興味を持たないということがわかっていたはずだ。だから武瑠はこういった。『じゃあ、当ててみない?犯人の目的と、犯人が誰なのかってこと。』お前は自分で考えればいいものを、俺にわざわざか考えさるように仕組んだ、こうとまで言ってな。『冬馬、あのさ、冬馬がこの犯人の真意を考えださなかったら、冬馬と月見里さんが付き合っているってがぜネタ流しちゃうよ。』と、それは、俺はただお前が、俺に結論を出させてみたいだけかと思っていた。しかし、武瑠は今日の別れ際にこういった。『じゃあね、そーいえば冬馬、もうここまでわかったんだから、犯人を割り出せるんじゃないの?』有り得ない、あれだけの推論から、答えを出すなんて普通の人間なら無理だ。しかし、武瑠はわかるといった。それはなぜなのか、武瑠はまずこの推理が簡単なものだと俺に錯覚さたかった。それと、武瑠は俺に家に帰ってまで犯人を考えてもらいたかった。この二つがある。なんでそうまでして俺に解答を見つけ出してもらいたかったのか。それが問題だ。お前は事件なにもが最初っからわかっていたんだろう?そして俺は断片的な事実をもとに犯人を特定した。それが東雲秋桜だった。武瑠が事件の事について何か知っていそうだというのは帰り際会話で読み取った。しかし、東雲秋桜が犯人とわかった今、なぜ武瑠は俺に犯人を捜させようとしたのか。お前は、東雲秋桜に自分の罪をかぶせようとした。」
武瑠は何も言わない。それは俺でも予想は出来た。
「なぜ武瑠が犯人なのか、ということは後にして、なぜ俺が、武瑠が東雲秋桜に罪をかぶせようとしたのがわかったか、について。まず、お前は今日東雲秋桜と会話していた。それも俺の前で、しかし、それは向こうから話しかけてきた。単なる偶然だ。しかし、武瑠はこれがいい方法だということに気が付いた。俺をうまくはめ込もうと考えたんだ。だから帰り際に武瑠は俺に今日の事件の事を話した。しかし、そのことに触れるタイミングがおかしかった。まず、お前は今日の帰路に実習の話を持ち込んだ。なぜなら、これが東雲秋桜が犯人だと裏付ける大事な要素だったからだ。そしてそのあとに少し沈黙が起きていて、最後に後10分で家に着く位の時間でお前は事件の事を口にした。その事件の事は話すのに10分じゃ時間が少なかったはずだ。案の定、話は終わらず、途中までしか推論を出せずに別れることになった。しかしこれが武瑠のねらい目だったとしたら?今日の帰り道の話は全部武瑠の思惑通りに事が進んでいたとしたら?」
武瑠はうんともすんとも言わなかった。俺は正しいことを言っている。
「案にお前が一番気になっていたのは、実習の事なんかより、事件の事についてだ、しかし、武瑠は計算したように順を追って話していた。最初が実習の話で、次が事件の話だ。なぜ、お前は事件の話を途中で区切れるようにそうしたのか、それは俺が今日家に帰ってから、事件の内容と、今日にあった出来事などを思い出させるためだ。暗に俺は今日の掲示板への書き込みが丁寧語で書かれていたことは知らなかった。そして、一番重要なのは、なぜ武瑠は俺に違った推理をさせてまで、犯人を追及してほしかったのか、いやこれは違う、なぜ俺にわざわざ間違った推理をさせたのか。俺は武瑠の心理まではわからないが、考えは少しわかる。俺は人に言われなくても分かるくらい頭が良い。思慮も深いはずだ、すると武瑠はこう考えたんだろう。もしかしたら俺だったら、犯人が自分だとわかってしまうのではないか。しかし、俺は犯人が武瑠だったとしても、通報はしないんじゃないか、とまでは思ったはずだ。だが念のためと思って、違う犯人を工作したんだ。しかし、お前が犯人を特定してしまうのを恐れたのは俺だけじゃない。俺は前に文藝部入部テストに関する話をお前に語ったことがあった。すると武瑠は頭の早く回る月見里さんなら自分を突き止めてしまうのではないか。と、だから、口止めにと思って、今日俺と話した時にまず最初に月見里の事を話したんだ。『あれが謎の文藝部部長月見里星七さんでしょ?』と。」
すーと、俺は深呼吸をした、熱が体の中に籠っていた、暑いとまで感じていた。
「しかし、俺は武瑠の目的はわかったが、なぜ犯人が武瑠だということがわからなかった。しかし、今日のお前との会話で決定的な事実を二つ見つけた。まず、お前が、定期演奏会が延期になってもあまり悔しがらない所だ。お前は定期演奏会は緊張するといっていた。普通人間は緊張下に置かれたら、早くそれから解放されたいと思うのが普通だ。しかし、お前は何も思うところがなかったのか、別の話から俺に吹っかけた。俺がお前からお前が弦楽部に所属している事、お前が演奏会に出ることはもっと後で聞いた。しかし、これだけじゃ何の根拠にもならない、だからもう一つのヒントが重要だった。お前は俺と学校で話しているときこういった『ああ、そうそう、そういえば、その演奏会が今日だったんだけど、どうやら月曜日の4時半~6時半の予定で延期だったみたい。でも元々、延期だったら月曜日になる予定だったらしいからいいよ。』お前が延期の日程が月曜日になることを知っていた。これは顧問から聞いた話だろう。しかし、お前は延期だったら月曜日になる予定があった。と言っていた。なぜお前は事前に月曜日になることを知っていた。延期になったら、という延期になる場合というのは、どういう場合だ。今日の爆破予告意外にそんな状況が日常的にあるのか?お前はもとから延期になりそれが月曜日になるというのを知っていた。なぜならお前Fが演奏会を延期にさせ、来週に実習があるからだ。」
俺は苦しかった。自分のやっていることが間違っている事のように思えて胸が苦しくなった。
「武瑠の動機は、おそらくだが、東雲秋桜と同じ理由だと俺は思っている。そうすれば、東雲秋桜を犯人としたことにも辻褄が合う。お前は東雲の事が好きだったんだ。だから自分の演奏を見てもらいたかった。自分たちの演奏会を延期にし、彼女たちの部活を中止にさせ、学校に問題を起してまで東雲秋桜に演奏を見て欲しかったんだ。」
「まるで見透かされたようだね。で、僕を学校に訴えるのかい?」
俺は頭が真っ白になるほどに感情を抑えきれてなかった。気が付けば武瑠を振り向かせ胸倉をつかんでいた。
「まだそんな事言ってんのかよ。お前は好きな人を犯人扱いしようとしたんだぞ!!大好きな人だったんじゃないのかよ!!いくら、お前、俺だけが東雲を犯人だと突き止めても、お前は東雲に汚名を着せたんだぞ。」
「悪いとは、思ってるよ…けど…そうするしかなかった。頭がいい冬馬をだますにはその方法しかなかった。」
俺はまだ心が落ち着かなかった。
「俺は、自分が武瑠にだまされたからって、怒ったりはしない。ただ自分のプライドが傷つけられるだけだ。しかし、お前の方法が気に食わない!お前は間違っている!」
俺は夜なのに近所迷惑になるくらいの大声を上げた。どうしても武瑠が許されなかった。
「俺は、武瑠の事を誰にも言ったりしない。もし月見里が気づいても口止めをしておく。あいつなら学校に言う前に俺に報告してくれるだろうしな。それにまずあいつじゃこの謎は解けない。」
俺は武瑠の目を見てそういった。
「ありがとう…僕が間違っていたよ…」
武瑠は泣いているように俺にそう告げた。
どうも、難しかったですが、トリックを少し叙述?いやダブルトリック風にしてみました。
納得できない点もあると思いますが、賛否両論、感想で作者にお告げください。