炙り出す愉快犯
早く帰れることになった冬馬は武瑠とともに帰宅する。
その際に武瑠と供に犯人を突き止めていくのだが…
「よっ、冬馬あれが、噂の月見里さんかい?」
俺が月見里を見送った後、後ろから一言が俺の首に腕をかけてもたれかかってくる。
「何のことかわ知らないが、そりゃなんの噂だ?」
俺はあくまで本意で言ったのだが
「なんの冗談かい?あれが謎の文藝部部長月見里星七さんでしょ?最近じゃ、学年中で冬馬と月見里さんが付き合っているんじゃないかって朗報が流れているよ。」
「まてまて、話を勝手に進めるな。」
「話を進めているのは僕じゃない。噂の方さ。人のうわさも49日ってね。」
「75日だろ。」
「そうそう、ナイス冬馬、的確且つ、ユーモアに富まないツッコミ!!」
「褒めてるのか、けなしているのか?」
「冬馬に対しては、褒めてる、で正解じゃないかな?あれ?冬馬はユーモアにあふれたいのかい?」
武瑠とだべっているのもつかれる。まあ一番疲れるのは、月見里嬢と話す時だがな。
武瑠はどうやら俺と一緒に帰るらしい、俺の後をついてくる。中学校が同じで、同じ地区に住んでいるのだから仕方のないことだろう。
すると、何やら背後で声がした。振り返らなくても分かるのだが、それは女子の声だった。
「一言君。」
「ああ、秋桜、何の用?」
「今日は残念だったね、演奏会。」
「うん、でも来週の月曜日に延期になったよ。」
「えっ、ほんと?じゃあ私見に行くね。」
「ありがとう。楽しみにしててね。」
「うんじゃあね、冬馬もね。」
吐き捨てるように彼女はそういった。
そういって、武瑠に声をかけた女子は去って行った。
その女子は俺も少なからず知っている生徒であった。武瑠同様、同じ中学の同級生であったからであった。彼女の名前は東雲秋桜である。前に言われた「冬馬は見た目だったらイケメンだけど、性格ブスだから…」と言った女子生徒である。
「そういえば、時に武瑠、『演奏会』とは何だ?」
「あれ?冬馬にまさか興味を持つものが?」
「その台詞、もう今月に入って何回言われたものか…」
「冗談だよ、冗談。」
「それも言われた。」と、言い返す。
「冬馬には関係のない話かもしれないけど、いいか。」
「そんなの言ってみなければわからないだろう?」
「そうだね、演奏会ってのは、僕たち我が『弦楽部』が主催する演奏会だよ。演奏会って言ってもライブなんだけどね。」
「弦楽部?武瑠そんな部に入っていたのか?」
「ひどいなぁ、唯一無二の親友の所属部を覚えておいくれないなんて。」
「悪いな、武瑠が何も言わなかったから。」
「僕なんかは、冬馬が部活に入部したのその日に担任の木本から聞いたよ。」
「あの野郎。」
「まあいいじゃないか。弦楽部ってのは、簡単に説明すると、単なる軽音部だよ。僕はギターやってるよ。」
「武瑠にギターなんて趣味があるなんて意外だな。」
「ギターは中学のときでも弾けたじゃん。学園祭で演奏したでしょ。」
「わりぃ、覚えてない。」
「ひでー、まあ、いいよ冬馬だしね、それに冬馬にギターなんてものの趣味があったら、世界がギターに埋もれてもいい位だね。」
「変なたとえだな。それで、武瑠、その演奏会がどうかしたのか?」
「ああ、そうそう、そういえば、その演奏会が今日だったんだけど、どうやら月曜日の4時半~6時半の予定で延期だったみたい。でも元々、延期だったら月曜日になる予定だったらしいからいいよ。」
「そうか、中止にならなくてよかったな。」
「まあね、秋桜も月曜日だったら見に来られるようだったし。」
「今日だったら見にこれなかったのか?」
「あれ?冬馬知らないの?秋桜、吹奏楽部に入っているんだよ。」
「しらなかった、で、もし俺が秋桜が吹奏楽に入っていることを知っていて、なぜ俺が金曜日に来られない事を知っていることになるんだ?」
「吹奏楽は、週四日部活があるんだ、そして平日の唯一の部活の休みの日が月曜日なんだよ。」
「そうなのか。」俺は、別に興味なさげでそういった。もちろん、武瑠は俺からの返答に期待していなかったようで、そのまま聞き流した。
俺たちは、自転車置き場にいって、自転車を取り、学校をでた。
この学校は山に面した所に位置しているので帰りは楽だった。
俺は、武瑠と一緒に帰っても、何も話すつもりもなく、只物静かに帰ろうとしていたが、どうやら武瑠には喋りたい事が山ほどあるらしい。なにやら早口で物語ってくる。
「冬馬ぁー、今週の介護保育福祉体験めんどくさいわ。」
「そういえばそんなのもあったな。」
この学校にはしっかりとした学校情事がある。ちなみにその学校行事は、テスト期間のない週に一気に行われるものであり、なぜかこの学校は来週の火水木金で、実習を行うのだ。
火曜日が介護体験。水曜日が保育体験。木曜日が福祉体験。そして金曜日が大学見学であった
「確かにめんどくさいな。」
「でしょ。只でさえ、月曜日はライブで緊張するんだから。」
「そうか。」
少し静かになる、するともう三分の二は学校から走ってきただろう、家まであと10分くらいのところで、
「冬馬、どう思う?」
「何がだ?」
「あの愉快犯の事。」
「そのことか、どう思うかって?そりゃ、学校早く終わって感謝してるよ。」
「そう……、じゃあ冬馬は、その犯人の目的ってなんだと思う?」
そう聞かれて俺は、少し戸惑った。ある忌々しい女の言葉得小思い出す。
『けど、違うわ、これは90パーセントくらいの確率でこの学校関係者のはずよ。』
「さあな、東高に恨みでもあったんじゃないか?」
そういうと、武瑠は急になぜか深呼吸をするようにして、
「じゃあ、当ててみない?」
「何を?」
「犯人の目的と、犯人が誰なのかってこと。」
俺はなぜか自分でも感心するほどの拒否反応を見せた。
「いや、いいよ…遠慮しておく。武瑠まで、月見里に毒されたらやばい。」
「いやいや、そんなことないって。何か僕その問題について気になっちゃって。」
「気になったのか?どういうところに?」
「犯人の目的についてだよ、だっておかしくない?犯人が東高に恨みを持っている、学校不関係者だった場合、わざわざ、生徒を帰らせて喜ばせることはしないと思うよ。ましてや、仕掛けてもいない爆弾を仕掛けたなんて言うなんて。」
俺は一応武瑠の案に同意できる部分があった。
「確かにそうだな。」
「でしょ、でしょ、今回なんか、重要な何かがありそうなんだ。」
はぁー、っと俺は深いため息をついた。
「また、重要な何かって。」
重要な何かという言葉につて、何か思い出すものがあった。それは文藝部入部テスト事件によるものだった。今でも思い出したくはない。
「やる気なくさないでよ、冬馬。」
そう、武瑠が言うと、何か急にひらめいたように目を輝かせこちらを見て来る。しかし俺は気づかないふりしてそっぽ向きながら自転車をこいでいた。
「冬馬、あのさ、冬馬がこの犯人の真意を考えださなかったら、冬馬と月見里さんが付き合っているってがぜネタ流しちゃうよ。」
「何を言ってやがる、そんなの否定すれば済むもんだろ?」
「わかってないな、人のうわさなんて音速で広まってしまうさ、真実でも偽でも、それに友達がいない冬馬が『それは嘘だ』っていったって誰も信じちゃくれないんじゃないか。」
「地味に嫌な言い回しで言わないでくれ、別に俺は友達が欲しいなど思ってはいない。」
「ごめん、ごめん、気に障った?なら謝るよ。冬馬は他人に興味がわかないだけだもんね。」
「わかればいいさ。で、この問題を解決すればいいのか?」
「解決なんてしなくていいさ。ただ、犯人がどういう人なのかわかればいい。」
「じゃあ、武瑠は何か仮説はあるのか?」
「なくはないけど、」
「言ってみろ。」
「まず、掲示板に書き込んだ人がどういう風な人であるかということ、学校関係者なのか、それ以外の人なのか。まず、学校関係者でない可能性を考えてみよう。この線は僕はないといってもいい。」
「お前まで、なんでだ?」
「なんでって、学校外部の人にはまず利益が得られない。例えば、学校の終業が早くなって、みんな帰ったとする。すると、ただ生徒が早く帰れて喜ぶだけじゃないか。」
「それだったら、生徒を早く帰らせるのが目的なのかもしれない。例えば、人目がなくなって学校に侵入し、何かものを盗むとか。」俺は対抗する、こう何度も人も意見を信用してられるか、俺の学年1位のプライドが許さなかった。
「それはないよ冬馬、爆弾仕掛けて、生徒がいなくなったからって人目がなくなる?なんの冗談かい?」
「冗談じゃない。俺は本気だ。」俺は武瑠の嘲るような言い方が気に入らなかったので、むすっとして見せた。
「いい?学校が指定されて爆弾が仕掛けられたとされた場合。この事件に対して動き出すのは学校と教育委員会だけじゃない。」
俺は今の会話で、自分が決定的に足りていなかったと自覚する。
「警察も動くだろうな」
「そう、当たり。生徒が帰ったからって学校が空になるわけじゃない。しかも学校には空想的な爆発物がある。警察がほっておくはずがない、いくら掲示板の書き込みだからって。」
「そうなのか。」
「そういうもんだよ。」
「今の話で、学校無関係者ではなくなったとしたらそれは根拠が足りなくないか?」
「いや、まだあるんだけど、これは冬馬に考えてもらおう、屁理屈だったら冬馬はいくらでも思いつきそうだしね。ないか学校無関係者である可能性を言ってみてよ。」
「例えば、学校側に恨みを持っている人だ。例えば、何かしらのスポーツでの試合で負けた他校の生徒としよう。考えられる動機としては、俺たちの学校の部活動に練習をさせたくない。との試案者がいたとしよう。」
「まって、そんな考えは浮かばなかった。けど、それはあり得ないよ。だって爆弾を仕掛けられたのは北校舎って言ってたじゃないか。部活動をやめさせたければ、普通学校内、とかグランド、とかの方が適当じゃないかい?」
「だったら、うちの学校の美術部に天賦の才の溢れる素晴らしい奴がいて、そいつの作品を台無しにしたかった。」
「それじゃあ完成するのが遅れても、作品は台無しにならない、だって爆弾は実際に爆発しないんだし。」
俺は反抗しようとして、思考をやめた。ある理由があって。
「じゃあ他には、学校に恨みを持つ者がいて、本当に爆弾を爆発させようとする者がいたとする。」
「そうしたら、掲示板になんか書き込まないんじゃない?」
「いや、犯人は大量殺人を目論む残虐な奴かもしれない。例えば、より多くの生徒を爆弾の被害に合わせたければ学校じゃ広すぎる。」
「冬馬は何が言いたいんだい?」
「爆弾予告が、より犯行を確実なものにしているのさ。この学校は電車で通っている人も多い。」
「まさか。」
「そのまさかだと思う。犯人はわざと偽の爆破予告を学校指定でおいて、生徒を帰宅させる。それも一斉に。そうして多くの生徒は電車に乗り、その電車内で爆発をさせる。」
武瑠が少しオーバーなリアクションをしてこう言う。
「本気で言っているのかい?」
「ほとんど冗談のつもりだったんだが、考えてみると可能性はゼロじゃない。」
「そうだけど、もし本当だとして、それはもう遅い話だね。もうみんな帰路についているよ。」
「ああ、そうだな。」
そして俺たちはある交差点に着く。
「あれ?もう、こんなところかい?僕はもうこの道を分かれなきゃ。」
「ああ、じゃあな。」
「じゃあね、そーいえば冬馬、もうここまでわかったんだから、犯人を割り出せるんじゃないの?」
「今の話では学校関係者に犯人が絞り出せただけだ。困難でわかるはずがない。」
「じゃあ期待してるよ。じゃあね冬馬。」
そういって、武瑠もまた帰って行った。
今回は、文字量は、おそらく二重丸の証明問題と変わりませんが、各章の文字量が増えると思います。
読みづらいかもしれませんが、ご了承ください。