爆弾魔な愉快犯
校舎→北校舎に直させていただきました。手違いが多々あり申し訳ございません。
ある、金曜日の昼下がりの事。2時10分から午後の授業を受けているときに、事件は起こった。いいや、本当はその少し前に起こった事件だ。
シュールな出来事だったと思う。普通の生活を日常と呼ぶとすると、今日は非日常的だった。
『教師の呼び出しをします。ただちに教師全員、職員室に集まってください。』
と、教室で放送が入った。何事だ?
当然、ざわざわと周りがどよめきだす。この時間が音楽だったからかもしれない、少しうるさい気がした。
そして、音楽室にいた音楽教師も慌てて職員室へ向かう。教師も驚いているようなので事態を把握していないらしい。
「何が起こったんだろうね。」
俺の隣で座っていた一言武瑠がそういった。
「さあな、俺がわかると思うか?」
「この学校1位の秀才が何言ってるんだよ。」
一言がそういう。それは事実なのだが、流石の俺も放送一つでわかったものじゃない。
そして音楽教師が20分後くらいに音楽室に帰ってくる。
生徒たちが喚きたてる。その教師にあれやこれやと質問攻めにしている生徒がいる。
しかしその音楽教師は教えようとしなかった。大したことはないのかもしれない。
「大したことないのかもしれないぞ。」俺は言った。
「いや、それはないね、大したことが無かったら、学校中の教師を授業中に集めたりするかい?」
「しないな。」
俺は何となく嫌な予感がしていた。だから一言には大げさに事をとらえておいてほしくはなかったのである。
ことなくして長くもなく短くもない50分の授業が平和的に終わった。今日は6時限目までなので、今日の授業はこれで終わりだった。
教室に帰るとなんやら、同級の生徒たちが少し喚いて、担任木本香代子の周りに集まっている。
やはり何かあったのか、俺はそう察した。
「やっぱ何かあったみたいだね。」一言もそう思ったようだ。
しかし、またその担任も応答をはぐらかしていた。何やら、わざとというか、演技的なものを彼女から感じた。ただ生徒に質問攻めにあうのが彼女にとって少し億劫なようにも思えた。
帰りのSHRが始まった。すると、先程まで騒がしかった生徒を、担任木本が皆を静めていた。その担任は何やら手にA4サイズの紙を持っている。
「今から、すこし重大な話をします。しっかり聞いてください。」
「先生、さっきの放送の事ですか!?」そう聞く男子生徒がいた。名前はなんだっけな、少し思い出せない。
「そうです。実は、今日の午後1時ごろ、あるサイトの掲示板に爆弾爆破予告の書き込みがなされていました。」
どよめく教室、俺も少し驚いていた。だがすぐに俺は平然を取り戻した。
「詳しく話しますと、今日午後1時12分にあるサイトの掲示板に『桐原東高校の北校舎内に爆弾を仕掛けました。爆破予定は午後4時半~6時半の間。探しても無駄です、絶対に見つからないでしょう。』と爆破予告がありました。」
「せんせー、本当に爆発するんですか?」さっきの男子生徒が聞いた。
「それはわかりません、しかし教育委員会からの通達があります。今日は帰りのSHRが終わったらただちに家に帰ること。」
喜ぶ声と、文句を言う声が上がった。部活をサボれる喜びと、部活をやりたいという文句だった。
「そして下校後学校に近づかない事。何か不審物を見つけたら触らないで教師に知らせる事。」
その後、教師の話を真面目に聞いている者はいなかった。そう、それは誰もみな、このサイトへの書き込みが愉快犯だということがわかっているのだった。
この学校は進学校だ。みんなそこそこに頭はいいはず、まんまと信じる奴なんてそうはいない。この学校に爆弾も仕掛けられてなければ、爆発もしない。たぶん学校に侵入している人さえいないだろう。
「では、今日の最終下校時刻を3時30分とします。みなさんさようなら。今日予定されていた、弦楽部主催の定期演奏会は延期になりました。」
ん?なんだ?弦楽部?定期演奏会?よく事態がつかめなかった。まあいいや、今日は早く帰れるんだ。あの忌々しい文藝部部室へ行かなくて済む。やる気なしの無興味男一尺八寸冬馬は愉快犯に少し有難い気持ちを向けていた。
「なにが、起こったのかしらね。」
「おうっ、なんだ、ひさっ、じゃなくて月見里。」
俺が帰ろうかとカバンを持って教室を出て行ったら、教室のドアの外側のすぐ横に、月見里星七という女子生徒が立っていた。
容姿端麗頭脳明晰。たまにいるライトノベルのキャラクターかっ、とツッコミたくなる女子生徒は少し、いいやかなりの変わり者であった。職業ミステリ作家である。
「いま名前わざと間違えようとしたでしょ。」
「いいや、何の言いがかりだい?そういえば何の用事でここまで?」
俺は急いではぐらかす。
「はぐらかそうとしたって無駄よ。」
彼女は侮れなかった。
「まあ、いいわ、で、今日の話よ。まさか興味がないから聞いてませんでした。なんてことありませんよね?」
「それくらい聞いてたよ。で、今日の話がどうしたって?」
「何か、変だとは思わなかった?」
「思わなくもなくはなかったけど、めんどくさい話はごめんだ。今日は月見里の推理に耳を傾けている暇はないんだ。」
「まだ、何も言っていないじゃない。それに私は、犯人が誰だかわかったなんて言っていないわよ。」
「え、そうなのか?っていうか月見里犯人を当てようとしているのか?」
「何よ悪い?」少しすねたように話す。
「いいや、それは月見里の勝手だけど…」
「だけど?」
「これは学校の中で起こった事件じゃない。学校が関係しているけど、実際ネットの書き込みなんて、どこだってできるはずだ。生徒かもわからない、一般人かもしれないし、何かこの学校に恨みを持つ他校の生徒だっているはずだ。」
「それもそうね。」
俺は心底意外だった。俺が認める聡明な彼女が根拠もなく物事を言って、しかも問題を指摘したら、しっかりそれを受け止めるなんて。
いや、そうでもなかった。
「けど、違うわ、これは90パーセントくらいの確率でこの学校関係者のはずよ。」
「学校関係者というと?」
「生徒、先生、その他の従業員。」
「なぜ、そう言い切れる。」
「お馬鹿な君にはわからないのかもね。ああ、もうこんな時間?帰らないといけないわ。じゃあね。また来週。」
彼女はそういって帰って行った。
以前感想をいただいた人に、設定が氷菓と似ているといわれました。まさにその通りです。この物語は古典部シリーズを目標にして考えた物語です。推理は自分なりに頑張って練っています。古典部シリーズが好きな人にとっては、批判を受けやすい本作ですが、氷菓に似ているとわかっても、氷菓と切り離して読んでいただきたいです。また具体的な批判、意見、助言などよろしくお願いいたします。