お嬢様について 番外その3
ダンと藤の追憶
藤は何となくこの男を見て自分と似ている所があると感じていた。
特に表情があまり存在しない点だ。
会って1日、それだけで何となくそのような気がしていた。
『藤、お前の子は今までの一族の子とは違う。まず、一族の邪の血を引かぬものとの子であること。あの外人の血は、一族とは違う何か別の力があるようだよ。まあ、私は少し見ることができたが、今はいいでしょう。
お前の子は、4つの力を持つ子だ。まず、17までは力の片鱗は薄いようだが、それを超えるのと徐々に力が目覚めるようだ。気を付けな、力を暴走させてはならよ、いいね』
煙管を甲高い音で叩いた、太夫である蓮姉さんの姿はその動作一つも綺麗なものだった。
そんなことを蓮姉さんに言われていた藤は、この男を自然と観察対象としていた。
日ごろ力のコントロールの為感情を揺らさずに生きてきた藤だからこそ、気付いたことである。
「ダンさま、少し寂しそうにみえる方のように思います」
そういいながら、お茶をたて向かい側の柏木へ
「えぇ~、あの態度の大きい男のどこを見ておっしゃるの…」
隣の山根は黙ったまま頷く。
日下部の姿は、この部屋にはなかった。
4人は、程なくして長年世話になった遊郭を後にしていた。
蓮太夫の隣に小さな室を構えていた4人だったが、移動したこのお屋敷では1人1部屋を与えられていた。
普段の部屋と様式が、大分違うことに驚いていたが、それよりもこの広さに驚いていた。
「そうかしら、態度はあのようだけど、心はそのように言う程大きいようには見えません」
「……蓮姉がいうように、相手である藤には何か違うものを感じているのかしらね」
柏木はそういって、お茶に触れる。
山根は黙って2人の会話を聞いていた。
外では鳥の声が響いて、一陣の風がたなびいていた。
『柏木、日下部、山根、こちらへおいで』
使いに出ていた3人に蓮太夫は呼びよせる。その際、扇を開いて艶やかな色彩を放っている。
この蓮太夫は本当に遊女らしく他の群を抜いていた。
『私は、藤の子を見ることはできない。視ることはできてもねぇ。だから、代わりに見てきて頂戴』
「蓮姉さま」
『山根、変えることはできないわ。でも、藤の子は強靭な力を受け継ぐ支えておやり。私にも藤にもできないことさ。お前たちにその役割がある。いいね、ここから先は頼んだよ』
艶やかに微笑んで、自分の終わりに怯えている様子は一つもない。
「藤は聞いたの、蓮姉さまの話」
山根は思い出したように呟く。
「うん」
「そう、ならいい」
3人の間には特に会話はなく、鳥の鳴き声と遠くの喧騒が風に乗って伝わっているだけだった。
その様子を2人の大きい男が、眺めていたとも知らず、3人に相変わらず会話はない。
「バーン」
「なんです、ボス」
「あの3人は、あのように誰も身じろぎもせず、折りたたんだ座り方で絨毯の上にいて会話もない。特に藤という女は小さい身体が余計に小さく見える」
「そうですね」
「大体、なぜ女が3人も揃って何も話さぬ。あの盛り上がりに欠ける感じはなんだ!!」
「確かに」
「全く、この国の女は変わった者が多い!もう少し自己主張しなければ生きて行けぬではないのか?」
「はぁ、そういう国民性なのではないでしょうか?」
「……よくわからんものだな。バレルの女は煩くて敵わんが、あれも問題だ。改善させねば!」
ヒノエお嬢さまのお父上は、なぜかこの時使命感にとらわれていたらしい。