お嬢様について 番外その2
柏木・山根・日下部の3人現る!
私が家庭教師を付けられたのは、数えで3つになった時でした。
(色っぽい姉さんが3人…おお~)
「こんにちは、ヒノエでしゅ」
「お久しゅうございます」
「大きくなられて……」
「ヒノエさま」
なんだか、よく分らないが3人とも感極まった感じで泣き始めてしまって、わたしはどうすればいいか本当に困った。
事の起りは昨日急に柊がわたしの所へやってきて、「お嬢様、明日からお勉強です」と言いやがった。何でもドンが計画していたことらしく、東の国の淑女として学ばないとならないと言ったそうだ。
わたしからしてみたら「急に何ソレです」、次いでに東の国って何だと衝撃を受けた。幼児特有の眠気に誘われていたわたしは昼寝どころでは無くなってしまった。新たなる急展開に一瞬思考回路が跳んだ。
まあ、よくよく3人を見てみる。
つまり日本風らしいじゃん、東の国ってってことが、次の日発覚した。
初めからそう予告してよと突っ込みたかったが、とりあえず、大人しくしていることにした。
「だあれ」
柊の袖を引いた。
「こちらは、右から柏木・山根・日下部と」
「なまえは?」
「ですから、お嬢様、柏木・山根・日下部と」
「ちなう、なまえ!」
「??」
「柊さま、私たちが…」そう言って柏木は前に出て、わたしの前に腰を下ろす。
「わたし、ひのえ。かっしーは?」
「かっしー…ふふ、ヒノエ様は、この名が下名でない事を御存じなんですね」
「しもな?」
「…東の国では、上名と下名が存在します。ですから、ヒノエ様で当てはめると、ハリウェル・バレルが上名。ひのえが下名となります。お分かりになりまして?」
「うん」
(つまり、似てるけど日本とも少し違うってこと??)
わたしの疑問に答えるように続けざま日下部は言う。
「この名は、源氏名です。あざなといったところでしょうか?」
「うん、じぁあ、ひのえもあざなほしー」
「なぜですか?」
「ひいらぎも、みんなもってる。ないのひのえだけ」
(つまらねー、カッコいいの欲しいじゃん。こうなったら、雰囲気から突入~。)
「そうですか、では何か次回までに考えましょう」
「うん」
「舞を踊る時や楽を奏でるときに使用しましょう」
「うん」
「ねぇ、なんでやまはおしゃべりしないの?」
大体の説明をし終えた後、お嬢様は疑問にお思いになったらしく私の方を向く。
「……あまり、得意でない。必要な時は使用する」
私は昔から会話が苦手だ。
いつもは3人だから必要ないが、今後は会話をしなくちゃならない。
少し不安に感じていた。
藤の忘れ形見、大事に思うが、上手くできるのだろうかが問題だった。
「ふーん、じゃあ、やまがおしゃべりするときはたいせつなことなのね」
お嬢様がそう言った時、一瞬藤と重なり驚いた。
東の国の遊郭で顔を合わせた時、藤も私にそう言って微笑んだんだ。
「じゃあ、山根が話すときは重要な時なのね」
血の繋がりを感じ一瞬瞼が揺らいだ。
私たちは藤が教えて挙げられなかった事を伝え、蓮太夫が眼に焼き付けることの出来なかった未来を見守り続けると決めていた。
あれから、月日も随分たちお嬢様も大きくなられた。
相変わらず、穏やかな月日をめぐっているように思われる。
だが、お嬢様はいづれこの箱庭から抜け出し、自身の運命を紡ぐことになるのだろう。
ただそれまでは、このままで。
「紫蓮、右端が出過ぎです」
「く、くっ、…山根は厳しすぎ」
ヒノエお嬢様のあざなは、紫蓮と言う。