「才能なし」と鍛冶ギルドを追放された見習い、無自覚に打った一振りが英雄の剣になっていた件
## プロローグ:追放される見習い
「ノア。お前、今日でクビだ」
王都鍛冶ギルドのマスター、バルドルフはハンマーを片手に、俺を見下ろしながらそう言った。
「三年間も面倒を見てやったが、お前の打つ剣はどれも二流以下。魔力刻印もろくに乗らない、ただの鉄の棒だ。これ以上、うちの看板を汚されちゃ困る」
(三年間、毎日毎日、槌を振ってきたのに)
工房の隅では、同期のレオンがニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。彼は入って一年足らずで「天才鍛冶師」と呼ばれ、貴族御用達の武具を任されている。俺とは違って、要領がいい男だった。
「先輩、お疲れさまでした。まあ、向いてないものは向いてないですからね」
嫌味たっぷりにそう言われ、俺は何も言い返せなかった。事実、俺の打った剣は魔力刻印の定着率が悪く、店に出しても二束三文にしかならない。師匠の言うことは、間違っていなかった。
工房を追い出され、荷物をまとめた俺は、王都を離れて田舎町ヘリオットに移り住むことにした。小さな鍛冶屋を間借りし、細々と農具や日用品を打つ生活を始める。
(まあ、ここなら誰にも迷惑かけずに済むか)
俺は諦め半分でそう思いながら、今日も炉に火を入れた。
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## 第一章:誰にも気づかれなかった力
ヘリオットでの暮らしは静かなものだった。農具の修理や、旅の冒険者向けの安物の剣を打つ日々。それでも、槌を振る手だけは止めなかった。
ある日、常連の冒険者ガレスが、修理を頼んだ剣を受け取りに来た。
「おう、ノア。相変わらず安くしてくれて助かるよ」
「いえ、この程度の修理なら大したことじゃ……」
「そう言えばよ、前にお前に打ってもらった剣、なんか調子いいんだよな。最初は普通の剣だったのに、最近やたら手に馴染むっつーか、斬れ味が増してる気がするんだ」
「気のせいじゃないですか」
俺はそう答えたが、内心では首を傾げていた。
(そういえば、ガレスさんの剣、俺が打った時よりずいぶん刃こぼれが少ないな……)
その夜、俺は自分の道具箱を漁り、以前に鑑定用として買っていた安物の鑑定石を取り出した。試しに、自分自身の作った剣の一本にかざしてみる。石が淡く光り、文字が浮かび上がった。
```
┌───────────────────────────────┐
│ 【蒼刃】 │
│ 製作者:ノア │
│ 素材:鉄鉱石(並) │
│ 現在強度:B+ │
│ │
│ 付与特性: │
│ 【使用者戦闘履歴蓄積】 │
│ 使用者の戦闘経験を吸収し、 │
│ 武器自体が自律的に成長する。 │
└───────────────────────────────┘
```
「……は?」
俺は目を疑った。この剣は、確か半年前にガレスに渡した時は「並の鉄剣」でしかなかったはずだ。それが今、「B+」というランクにまで育っている。
(俺の武器、使ってるうちに勝手に強くなるのか……?)
慌てて、自分の隠しスキル欄を確認する。今まで一度も気にしたことのない項目だった。
```
【進化鍛冶】(EX)
概要:製作した武具に、使用者の戦闘経験を
自律蓄積させる特性を付与する。
使用回数・戦闘強度に応じ、武具は
無制限に強化され続ける。
熟練度:∞
```
俺はしばらく、鑑定石を握りしめたまま呆然としていた。
(バルドルフの旦那、これのどこが「二流以下」なんですかね)
思わず声に出して笑ってしまった。俺の剣は「弱かった」のではない。「育つ」ように打たれていただけだったのだ。誰も、それに気づかなかっただけで。
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## 第二章:噂と依頼
それから数ヶ月、俺の打つ剣を使った冒険者たちの間で、奇妙な噂が広がり始めた。
「ヘリオットの鍛冶屋で剣を打ってもらうと、使うたびに強くなるらしい」
「安物の剣なのに、気づいたら伝説級の斬れ味になってた」
最初は誰も本気にしていなかったが、実際に俺の剣を使った冒険者たちがランクアップを果たすたびに、噂は真実味を帯びていった。田舎の小さな鍛冶屋に、遠方から依頼が舞い込むようになる。
そんなある日、町に緊急の知らせが届いた。
「近隣の森で魔物の大発生が確認された。討伐隊を至急編成せよ」
町の冒険者ギルドは騒然となった。討伐隊の指揮を任されたのは、王都から派遣されてきた騎士団長――ちょうど、ガレスに剣の調子を尋ねられていた矢先のことだった。
「ノア、悪ぃがお前の剣、貸してくれねぇか。今回は本気の魔物討伐だ」
「え、俺の剣なんかで大丈夫ですか」
「馬鹿言うな。お前の剣のおかげで俺、Cランクからいつの間にかBランクまで上がったんだぞ」
ガレスにそう言われ、俺は自分の作った最新の一振り――《蒼刃・改》を彼に手渡した。半年の間、彼と共に戦い続けた剣は、今や俺の想像を超えるランクにまで育っているはずだった。
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## 第三章:英雄の剣
討伐当日、俺は野次馬に混じって遠巻きに戦況を見守っていた。森の奥から現れたのは、想定を大きく超える巨体――上位種の魔物《鋼鱗のオーガ》だった。
「な、聞いてないぞ、こんな化け物……!」
騎士団の面々が悲鳴を上げる中、ガレスだけが一歩前に出た。
「よし、試してみるか」
彼が構えたのは、俺が打った《蒼刃・改》。刃が淡い蒼光を放ち、まるで意思を持つかのように振動していた。
「うおおおおおおッ!」
ガレスの一撃が、オーガの鋼の鱗を紙のように切り裂く。それだけではない。剣自体が、彼の動きに合わせて軌道を微調整しているようだった。まるで、半年分の戦闘経験全てが刃に宿っているかのように。
「な、なんだあの剣は……!」
「あんな斬れ味、王都の名工の作でもそうそう見ないぞ……!」
観衆がざわめく中、ガレスは瞬く間にオーガを討伐してみせた。
「討伐完了だ! みんな無事か!?」
歓声が上がる。その輪の中心で、ガレスは誇らしげに剣を掲げた。
「この剣、ヘリオットの鍛冶屋、ノアが打ったものだ。……お前ら、この剣がどこの誰の手によるものか、ちゃんと覚えとけよ!」
その一言で、俺の名前は瞬く間に広まることになった。
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## 第四章:頭を下げに来た師匠
数週間後。ヘリオットの鍛冶屋に、見覚えのある馬車が止まった。降りてきたのは、バルドルフとレオンだった。
「の、ノア……! お前が、あの《蒼刃》の作者だというのは、本当か……?」
バルドルフは信じられないという顔で俺を見つめている。
「本当ですけど、それが何か?」
俺は淡々と答えた。
「王都でも大騒ぎになっている。育つ剣、伝説の一振り、その全てがお前の手によるものだと……。頼む、ギルドに戻ってきてくれ。今までのことは謝る、この通りだ!」
バルドルフが深々と頭を下げる。隣のレオンも、気まずそうに視線を逸らしていた。
(三年間、「二流以下」と言い続けた人が、今更ね)
俺は少しの間、二人を見つめてから、静かに口を開いた。
「お断りします。俺はここで、俺のやり方で剣を打ちます。それに――」
俺は工房の奥に並んだ、育ちかけの剣たちに目をやった。
「この剣たちは、使う人と一緒に育つんです。誰かに命令されて作るものじゃない」
バルドルフは何も言えず、肩を落として馬車に戻っていった。
工房には、また新しい依頼の手紙が届いている。俺は炉に薪をくべながら、小さく呟いた。
「さて、今日はどんな剣を打とうか」
「二流以下」と切り捨てられた見習い鍛冶師は、こうして誰にも縛られない自分だけの工房で、これからも槌を振り続けることになる。
**――完――**
お読みいただき、ありがとうございました。
「地味な鍛冶師が、育つ武器という気づかれにくいチートを持っていた」という設定で書いてみました。
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