表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/103

第36話 「冬期祭の夜」

 冬期祭の夜、ゴーシュのホールは珍しく“貸し切り”になっていた。


 外では冬風が街を白く揺らしている。

 それに反して店内は、柔らかな灯りに包まれていた。


 少し落とされた照明と、穏やかな音楽が、今夜を特別なものにしている。


 ラネッサ、ミリア、カネス、ガルド、ロウガン。

 ピオラは椅子の周りを気ままに漂い、

 そしてジロー――久しぶりに顔を出した彼も、その輪の中にいた。


 取りとめのない会話が続くだけの時間。

 それなのに、理由もなく、


(……ああ、こういう時間が、ずっと続けばいいのに)


 そんなことを思ってしまう夜だった。



 料理の皿がいくつか空になった頃、

 ジローがコップを置き、少し間を取ってから口を開いた。


「……実はさ、ORB――星環統合学環に行きたいと思ってるんだ」


ORBオーブ?」


「七大勢力〈セブンスリンク〉が協力して作る、新しい学術拠点だよ」


 ジローは肩をすくめ、照れたように笑う。


「学校っぽい形はしてるけど、実際は……

 世界の縮図みたいな場所らしい」


「縮図?」


「だってさ。七大勢力〈セブンスリンク〉って、普段はお互い距離あるだろ?

 でもORBオーブには、あっちこっちから人が集まるんだ」


 指を折りながら続ける。


「五大財閥〈ファイブキャピタル〉の御曹司に、血統律家〈ブラックヘックス〉の後継ぎ候補。

 それに……ユグラーナからHigh Sylthハイ・シルスも来るって噂でさ」


 声に、わずかな高揚が混じる。


「本当に、いまの世界構造をそのまま小さくしたみたいな場所だよ」


 ナユカは、素直に感心した。


「ジロー、そんなところに行けるの?」


「一般枠もあるんだ。努力すれば……まあ、可能性はあるよ」


 そう言って、ジローは少し照れくさそうに笑った。



 近くのテーブルから、ふと男たちの声が聞こえてきた。


「……だからさ、昨日のやつ。

 チンピラ数人に絡まれたのに、一瞬で黙らせたぞ」


「見たことねえ顔だったけど……

 あの動き、素人じゃないだろ。

 なんでこんな街にいるんだ?」


 ナユカはグラスを手にしたまま、無意識に耳を傾けていた。


(……何者なんだろう。

 この街に……?)


 胸の奥に、かすかな影が落ちる。


 けれど振り返れば、すぐそばで笑い声が弾んでいた。


 ラネッサが冗談を言い、

 ミリアが少しはしゃぎ、

 ピオラは意味ありげに光ったり、消えたりしている。


 ――その空気が心地よくて、

 さっきの話は、いつの間にか意識の外へ遠のいていった。



(……なんか、久しぶりだな。こういうの)


 任務でも、緊張でもなく。

 誰かを守らなければならない時間でもない。


 ただ、みんなで食べて、笑って、話しているだけ。


 それが、どうしようもなく大切に思えた。


 ――まさかこの夜が、

 二度と訪れない時間になるとは。


 このとき、誰も、まだ知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ