第34話 「家族のかたち(後編)」
ラネッサは少し遠くを見るように視線をずらし、静かに語りはじめた。
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「……私たちの星は、コリナ星区っていうんだ」
「コリナ……」
「今じゃ地図の端に名前だけ残る星だけどな。
昔は“オルド=アーク宙政圏”の一部だった」
七大勢力の前――
八大勢力だった時代。
その最後の名残が、ラネッサたちの故郷だった。
「でも、オルド=アークは……崩壊した。
結神セイリス=ノクトの暴走でな……」
ナユカは息をのむ。
結神の暴走。
アシナの一件以降、資料を漁る中で何度も目にした言葉だ。
宇宙規模の大戦を引き起こした、歴史的事件。
――だが、それが
目の前の人たちの人生と直結しているとは、思っていなかった。
「戦争そのものは、コリナには直接は来なかった。
でも……戦後が地獄だった」
ラネッサの声が、ほんのわずかに揺れる。
「統治が崩れて、誰も何も決められなくなって……
生き延びるには、強い奴に従うしかなかった」
「治安って言葉も形だけだ。
弱い子どもは……ただ奪われる側だった」
一拍置いて、彼女は続けた。
「私たち五人は、その頃に出会った。
……盗みをしてな。生きるために」
ナユカは何も言わない。
否定も、肯定もせず、ただ聞く。
「そして、捕まった。あっさりとな」
ラネッサは、少しだけ口元を緩めた。
「……そこで出会ったのが、お前の父親だ」
その表情は、確かに柔らかかった。
「アレン・クレストフォード。
ブラン・アルヴィナの信徒で……
復興支援に命を懸けていた人だった」
ナユカは、思わず息を飲む。
「怒られたよ。普通に。怖いくらいにな」
「でもな……“罰として手伝え”って言われてな。
それが、出会いだった」
ラネッサの目に、懐かしさと痛みと誇りが混じる。
「アレンは、星を本気で救おうとしてた。
当時、力があったわけじゃない。
地位があったわけでもない」
「……」
「でも、行動する人だった」
壊れた集落を直し、
奪われた物を持ち主に戻し、
理不尽を、一つずつ潰していく。
「……すごい人だったんだね」
ナユカがぽつりと呟く。
「そうだよ」
ラネッサは、静かにうなずいた。
「だから、私たちは……あの人に救われた」
そして――
「……お前が生まれた」
ナユカの心臓が、少し強く脈を打つ。
「赤ん坊のお前はな……
アレンに抱かれて、よく笑ってた」
言葉を選ぶように、ラネッサは続ける。
「……似てるよ。
表情とか、笑った顔とか。特にな」
ナユカは目を伏せた。
嬉しいのか、苦しいのか。
自分でも分からない。
「……どうして、死んじゃったの?」
ラネッサは一度だけ深く息を吸い、静かに答えた。
「……お前の両親は、事故で亡くなった。
宇宙船で移動していて……戻ってこなかった」
一瞬、言葉が詰まる。
「私たちは……信じられなかったよ。
もっと話したいことがあった……
たくさん、な」
「その時、アレンたちはたまたまラナスにいてな。
私たちもこの星を気に入って……
そのまま住むことにした」
「お前も……ここで育つことになったんだ」
ラネッサはそう言って、少しだけ視線をそらした。
ナユカは、喉が詰まり、言葉を失っていた。
「お前の両親は――
本当に、素晴らしい人たちだったぞ……」
それは自分に言い聞かせるような声音だった。
だが、その言葉の奥には、
まだ語られていない“何か”が、確かに残っていた。




