第33話 「家族のかたち(前編)」
ロウガンと別れたあとも、ナユカはしばらく街を歩き続けていた。
冬期祭の準備が始まったルーチェフォードの通りには、淡い光を放つ飾り灯が並び、
ガラスに反射した光がゆるやかに揺れている。
どこか懐かしく、でもこの惑星だけの歴史が沁み込んだ光だ。
胸の奥だけが、妙にざわついていた。
(……両親、か)
ロウガンの言葉が頭から離れない。
「お前の両親はブラン・アルヴィナの人でな。
底辺にいた俺らにも手を伸ばしてくれた」
ナユカには両親の記憶がほとんどない。
彼らがどんな人で、何をしていて、どんな思いで生きていたのか――
考えたことすら、いままで一度もなかった。
(そもそも……“両親がいない”ことが、特別なことじゃなかったし)
この時代、“家族”は特別な形ではない。
長く続いた戦争、そして惑星移民。
そのどちらもが、大量の孤児を生んだ。
どの惑星にもオーファン・ホーム(孤児育成施設)があり、
血のつながりがなくても、同じ場所で育てばそれが“家”になる。
ナユカもそのひとりだった。
施設で育ち、
年齢に達すると一人暮らしを始め、サブリックから仕事を受けるようになる。
それが普通で、誰も不思議に思わない。
学校という制度もほぼ消え、
基礎教育はネットで受け、興味のある分野だけ深入りする。
社会性は“仕事”の場で学ぶ。
この惑星では、それが自然な生活のあり方だった。
(だから……考えなかったんだよな)
両親のことも。
家族という概念そのものも。
けれど今日だけは――
ロウガンの言葉がじっと胸に残ったままだった。
(……ラネッサ達なら、何か知ってるかもしれない)
街の光が濃くなる夕暮れの中、
ナユカは小さく呟いた。
「……聞いてみよう」
⸻
その夜。サブリック本部。
ラネッサは珍しく、端のテーブルで事務処理をしていた。
「ラネッサ」
声をかけると、彼女が顔を上げる。
「ん? どうしたナユカ。直接来たのか」
軽い用件なら腕の光柱通信で一瞬で済む。
だから――わざわざ来るというだけで、すでに“大事な話”だと分かる。
ナユカは小さく息を吸い、彼女の向かいに座った。
「……聞きたいことがあるんだ」
「珍しいな。何だ?」
「その……」
言葉が喉でつかえる。
逃げないように、ナユカは勢いで口を開いた。
「――僕の両親のこと、なんだけど」
ラネッサの手が止まる。
驚きが一瞬、その目に走り、彼女はそっと端末を伏せた。
「……ロウガンから聞いたな?」
ミリアたちは遠征中。カネスも今はルーチェフォードにいない。
「うん。
支援活動をしてたって……ブラン・アルヴィナの人だったって」
ラネッサは息をつき、椅子の背にもたれた。
「そうか……」
その声音には責める色はなく、
どこか“覚悟していた”ような苦い響きが混じっていた。
短い沈黙のあと、ラネッサはまっすぐナユカを見る。
「……どこから話せばいいかな」
「全部じゃなくていい。
知っている範囲で……どんな人だったのか、教えてほしい」
ナユカのまっすぐな視線に、ラネッサは一度だけ目を閉じ、
そして静かに語りはじめた。
「まず……私たち五人は、同じ惑星の出身だ」
「うん、ロウガンから聞いた」
「ああ。私、カネス、ミリア、ガルド、それにロウガン。
みんな同じ星で育った」
「貧しくて、治安も悪くて、戦争の影響も残っててな。
孤児だらけの星だった。ラナスのように施設も整ってなかった」
ラネッサは、できるだけ軽く語ろうとするような声音で続ける。
「そんな場所で……お前の父親に出会った」




