第24話 「前夜のテーブル」
ルーチェフォードの夜は、
風の音よりも、店のざわめきのほうが静かだった。
カウンター奥の小さなテーブルに、
ラネッサ、ミリア、カネス、そしてリューチが座っている。
グラスの縁を指でなぞりながら、
ラネッサがぽつりと言った。
「……明日、話すわ」
その言葉に、カネスが短く息をつき、うなずく。
「そうか」
グラスの水を口に含み、
喉を静かに鳴らした。
少し間が空いたあと、
ミリアが苦笑めいた声を出す。
「久しぶりね。三人で飲むなんて。
……特にカネス、お酒断ってるなんて。飲んだら?」
「いや、やめとく。ゲン担ぎだよ」
軽く肩をすくめる。
その仕草に、三人とも少しだけ笑った。
笑ったあと、また静かになる。
「……ナユカ、どんな反応すると思う?」
ミリアが、テーブルに残った水滴を指で拭いながら言った。
「驚く……とは思う」
ラネッサの声は沈んでいる。
だが、カネスが横目で笑った。
「逆かもしれねぇぜ」
「逆?」
「すんなり受け入れちまう方が……ちょっと怖いだろ」
そう言いながら、水のグラスを傾ける。
ミリアが、乾いた笑いを漏らした。
「……はは。確かに」
また、短い沈黙。
ミリアが指を組み、言葉を落とす。
「でも……本当に、こんなことがあるのね。
同じ星に、同じ時期に、二人も……」
「……同感だ」
カネスが静かにうなずく。
「偶然で片づけていい話じゃない」
「何か……途方もない流れが、動いてるのかもしれないわね」
ミリアのつぶやきに、
カネスがふっと吹き出した。
「何よ。笑うとこじゃないでしょ」
「悪い悪い。ただ……
“それ言うやつ”を初めて見たもんでさ」
「はぁ!?
いいじゃないの、そういう推理。大事でしょ」
「大げさに聞こえるんだよ。
……でもまぁ、確かに。何か起きてるのかもな」
三人の視線が、
一瞬だけテーブルの中央で交差する。
グラスの中の水が、誰かの指先の動きで、かすかに揺れた。
それだけのことなのに、
ラネッサは一瞬、言葉を飲み込む。
何をどう話すか。
どこまで話すか。
――そして、どこまで“戻れなくなるか”。
考えないようにしていた問いが、
テーブルの上に、静かに置かれた気がした。
――明日。
ナユカに、
すべての“最初の扉”が開かれる日。
彼女の世界が変わる前夜の、
静かで、少しだけ苦い時間だった。




